12話 ストロベリーウィッチ
突然、声をかけてきた二人組はニイさんと面識があるようだった。
「小さい方がストロベリーウィッチのリーダー雨宮イチゴで、大きい方がサブリーダーの竜宮セツナだよ」
ニイさんは視線を2人に捉えたまま僕にそう伝えた。
「雨宮イチゴが前に言ってた私が殺したことのある吸血スキルの使い手だ。
橘くんは逆らわない方がいい。そして射程も広いからダッシュして逃げようとしても無駄だよ。
逃げるならそのまま素通りして。
それか目線を避けずにそのまま後退して」
と、ニイさんは僕にしか聞こえないであろう声量で更に言葉を紡ぐ。
目線合わせたまま後退しろ、って熊かな?
僕は唐突にそんなことを言われてどうしようかと迷って動けずにいた。
こんな小さい子が吸血スキルなんていう物騒なスキルを使うの?ニィさんこの子殺した事あるの?
素通りすればいいの?後退が正解なの?
疑問しか出てこない。
「新人冒険者の勧誘なんて下っ端みたいな仕事情けないと思わないの?
そんな事他の人にやらせればいいのに」
僕より背が低く赤いドレスを身に纏った雨宮イチゴは挑発してきた。
「えらく煽ってくるね。私はやりたくてやっている事だから下っ端の仕事だとは思わないな。
他の人たちはなかなかあれで見えて忙しいからね。
で、要件は何かな?雑談をしたくて声をかけてきたわけでも無いんだろう?」
「さっきも言ったようにあんなクランなんか抜けて私のクランに加入しなさい。
力は正しい場所で使われるべきだわ。あんな場所にいるニィニィでは無いはずよ」
「あんな場所とは酷い物言いだな。気に入ってるんだけどね。
答えはNo、嫌だと言ったら?」
「力づくで入れてやる!私と勝負しなさい!負けたら私のクランに入りなさい!」
2人の間で大気の雰囲気が変わった。ピリピリと大気が振動するのを僕は感じた。
地上では魔素が無いながらも2人に反応しているかのようだった。
「意味がないな。そもそも前に私が勝っているし、やるメリットがない。どうせまた私が君を殺して終わりだよ。
やりたいことがあって今のクランを出る気もないからそんな勝負を受ける道理がない」
勝負の提案をしてきたイチゴに対しニイさんはキッパリと否定の態度を示した。
「前回のはノーカンよ!私の完全究極戦闘モードになる前に斬りかかるなんて卑怯者のすることよ!
ノーカン!ノーカン!」
納得いかないのかイチゴは駄々をこね出した。
「勝ちパターンを組まれる前に崩すのは定石だと思うがね」
駄々をこねているイチゴを見てニイさんは呆れながら言った。
僕はイチゴがニィニィ呼びをしていることを疑問に思っているのが顔に出たのかサブリーダーの竜宮セツナが教えてくれた。
「姫はニィニィ様に負けたので敗者の条件としてニィニィ様からニィニィ呼びをすることを強要されているのですよ。おいたわしや。オヨヨオヨヨ」
竜宮セツナはポケットから白いハンカチを取り出し片目を押さえて泣き真似をした。
「セツナさん。様は要らない。私のことはニィニィと呼んでくれ」
「分かりましたわ。ニィニィ様」
「分かってないね...」
名前の様呼びは要らないというニィさんとセツナの会話に混ざりたかったのか駄々を捏ねていたイチゴが割って入ってきた。
「こら!私以外の女と会話するな!セツナでも怒るわよ!
ってこいつは何なの?ずっとニィニィの隣にいるけど通行人Aはちゃんと通路の脇を歩きなさい。
ボッーと立ってるのは邪魔よ。しっしっ」
イチゴは怒りの矛先を僕にぶつけてきたようだ。
存在感は少ないと思うが通行人A扱いは腹が立ったので言い返そうとするとニィさんが先に僕を紹介してくれた。
「彼は橘正義くん。私のクランメンバーだね。
大事なクランメンバーを通行人扱いするなら私は許さないよ」
「へぇー、こいつがねー?ふーん?へー?
あんた、職業とレベルはいくつなの?
ニィニィのクランにいるのならそれなりに腕が立つのよね?」
と言いながらイチゴは僕に近づき、周りを一周回って僕を舐めるように見た後に腹を指先でなぞって腹から顎までなぞり上げて片手で顎を掴みながら僕の目を真っ直ぐに見つめ質問をしてきた。
「戦士で...、レベル2です...」
小さい女の子に顎を掴まれながら声を出すのはなかなか屈辱的だ。
「体つきも平凡だしニィニィのクランには相応しくないわ、うん。あんたクラン抜けなさい」
「なんで私のクランの面接官ずらしてるんだ」
イチゴは僕の職業やレベルを聞いてクランに釣り合っていないと言った。
「良い?ニィニィのクランが人数少ないのは巡り合わせや縁が悪いわけじゃないのよ。
ニィニィがここのギルド全体から嫌われているからなのよ。
勝負しては負けた相手にニィニィ呼びを強要するヘンタイなのよ!
ここの冒険者ギルド全員からニィニィと呼ばせる全お兄ちゃん計画とかいう気持ち悪い計画を立ててるヘンタイなのよ!いい?
そんなヘンタイの被害者を減らすために私が犠牲になってクランに入れて監禁しようとしてるってわけよ」
「他のクランメンバーも犠牲になりませんか?姫」
「私監禁されるのか」
「ツンデレなの?」
3者3様の反応を示す僕達。
「まぁいいわ、とにかくニィニィは全員から嫌われているの!
だってコイツのスキルは... 」「コイツじゃなくてニィニィだろ?」
イチゴの発言を途中で遮りニィさんはニィニィ呼びを強要した。
「...ニィニィ、ごめんなさい...です」
イチゴはニィさんの圧を受けてか弱々しく答えた。
「ニィさん、僕もニィニィと呼んだ方がいいですか?」
「いやいいよ。僕と勝負して負けたらそう呼んでくれたらいい。それまではニィさんでいいよ」
負けたら呼ばなきゃいけないのか...
「うぅぅぅうぅ...私には辛く当たるのにそいつにはなんでニィニィ優しいの!?
泥棒、浮気者!あんなことしたのに許さない!」
と僕に向かって突然切れるクソガキ。
殺してやる殺してやるとキレだしたので僕らは退散することにした。
「あとはよろしくねぇ」とセツナに声をかけて「はいニィニィ様」と応答するセツナ、
「様はいらない」とニイさんが言うのを見ていつものやりとりなんだろうな、と立ち去りながら僕は思った。




