青き世界
森の中を走るセーユは、走りながら振り向いて後ろを確認した。
後ろからは大きな牙を生やした猪、大牙猪が三匹追いかけている。
前方を見ると、遠目に木の間に張った一本のロープが見えた。
「もう少し」
少しずつ追いつかれて行くが、それよりも先にロープのある位置に早く着きジャンプして飛び越え、大牙猪達はロープに足を引っかけて転んだ。
「今よ!」
セーユの掛け声で、近くの茂みからシフールとガラートが飛び出して双剣と大剣で。セーユも片手剣で大牙猪に斬りかかった。
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「上手く行ったわね」
「はい。初めての討伐依頼でしたが良かったですね」
「流石に緊張したけどね」
卒業式から一ヶ月。三人は無事冒険者になり、最初の方は採取系の依頼を進め、今日初めて魔物討伐の依頼を受けた。
「牙の剥ぎ取り終わったー。じゃあネイトラーに戻りましょ」
三人は立ち上がって森を出ようとすると、後ろからバキッと枝が折れる音がした。
振り向くとそこには、鋭い爪に黒い体毛に覆われた赤い目をした狼の魔物、二級の魔物ヘルウルフだ。
「グラゥゥゥゥゥゥゥ!!」
「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
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「そりゃあ災難だったな」
「はい……逃げられて良かったです」
逃げている途中で、ヘルウルフが木の間に挟まったお陰で、どうにかヘルウルフから逃げ切る事が出来た三人は、依頼の報告を済ませて光の兄弟の屋敷で休んでいた。
「初めての討伐依頼、上手く行って良かったじゃねぇか」
「はい。それは良かったんですけどね」
エスティーが褒めると、セーユは出されたお茶を飲んだ。
…………。
「何か違和感を感じると思ったら、あの三人がいないんですね。依頼ですか?」
「ああ、あのバカ親子は暇だからって世界の外を見回り中だ」
世界の外とは、幾つもの世界へ行くことが出来る無限の空間だ。
「そのことなんだけど」
クカナが話に入ってきた。
「さっき連絡が来てね。『面倒な奴に会ったから帰りが遅くなる』って」
「面倒な奴……なるほどな」
話を聞いたエスティーはすぐさま理解した。
「もしかして……『アイツ等』ですか?」
「だろうな。確かに面倒だな。強さもそうだし、目的も」
「え? 目的が分かったんですか?」
驚くシフールにエスティーは頷いた。
「アイツ等はな……」
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無数の巨大な球体が浮かぶ空間。球体一つ一つが世界の、無限世界空間ワールドスペース。
そこで黒い人影を三つの光、ガクラ、ガネン、クラカが追っていた。
「逃がすかぁー!」
三人は光線を撃つと、黒い人影は上に飛んで躱した。
「しつこいねぇ」
黒い人影は指から赤い光弾を放った。
「避けろ!」
三人は散開して避けると、その隙に黒い人影は再び何処かへ飛んだ。
「待て!」
ガクラ達は再び追いかけると、黒い人影は一つの世界に目をつけた。
「ふふっ」
黒い人影はスピードを上げると、青色の球体に向かって真っすぐ飛ぶと、その中に飛び込んで、そこから波紋が広がった。
「マズいよ父さん! あの世界に入っちゃったよ!」
「分かってる! 俺等も急ぐぞ!」
「「おお!」」
ガクラ達もスピードを上げて同じ世界に入っていった。
薄暗いトンネルの様な空間を抜け、空に開いた穴からその世界に入った。
「ここは……! まさか、この世界に来ちまったか」
ガクラ達が来た世界。それは複数存在する特別な世界……地球だ。
「まさか地球に来ちゃうなんてね」
「アイツが狙うにはうってつけだろうが……」
にしてもこの世界……入る時にも思ったが。……けど今は。
「アイツの気配は……あそこだな」
俺は指差すとガネンとクラカと一緒にその先へ向かった。
地球にある島国……日本へ。
「ん?」
日本の上空に着いた頃、遠くの空に何か大きな飛空艇の様なものが飛んでいるのが見えた。
(何だアレ? ま、今はそれよりも、アイツを探す方が重要だ)
俺達は僅かに感じた気配を頼りに日本の首都、東京の丁度誰もいない丘の上の公園に下りて人間の姿になった。
「よっしゃー、探すぞ!」
クラカが探しに走り出そうとすると、俺は襟首を掴んだ。
「待て待て。今の俺等の恰好じゃあ、この世界では目立つだろ」
俺に言われてクラカは「あ」と気付く。
今の俺達はアスタラードでの服装だ。地球じゃあ完全に目立つし、多分、コスプレかなんかだと思われるぞ。
「地球の服が何着かある。それに着替えるぞ」
俺とガネンは前に長期滞在した時に手に入れた地球の服、クラカには前にアスレルが手に入れた女の服を渡して着替えた。
俺は白の半そでのTシャツの上に赤いジャケットにジーンズ。
ガネンは赤いパーカーに白のズボン。
クラカは青い服に白いスカートだ。
「着替え完了。じゃあ行くぞ」
下に下りる階段に行こうとすると、何故かクラカが足を止めた。
「どうしたクラカ?」
「父さん」
「何だ?」
「……お腹すいた」
「はぁ~?」
俺は頭を掻いて舌打ちをすると、財布と小さな筒の様なものを取り出して財布の中のアスタラードの金を筒の中に入れた。
この筒はライテストで作られたマネーチェンジ。金を違う世界の金に変えられる代物だ。
俺は筒の側面にあるパネルを操作してこの世界の情報を打ち込むと筒が光り、中から地球の金が出た。
「……四百四十円」
これっぽちしかなかったのか。
「……どうすんだこれだけで?」
「ファミレスでもまともなのが食べられないよ」
「そうだな……」
とりあえず金を財布の中に入れて財布をしまった。
「今日中に奴を見つけて頑張って急いで倒してアスタラードに帰る。これしかない」
「無茶苦茶だな」
ガネンのツッコミを横目に、俺達は階段を下りて町に向かった。
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「…………いねぇ~」
日が落ちて空が暗くなり始めた。
奴がいるとしたら人気が無い所だと思いそこを中心に探したが、気配を完全に消しているため、見つけるのが非常に困難で、気付いたらもうこんな時間だ。
「どうすんだよ? この世界に来てから何も食べてねぇし」
「お腹すいた~」
「あ~、どうすっか」
俺は塀に寄り掛かり座り込んだ。
「あのー。どうかしました?」
俺達に一人の女性が話かけてきた。
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あるビルの屋上で一人の男が夜の町を眺めていた。
「面倒だな、光族が来てしまって。まぁ関係ないか。さて、まずは何して遊ぼうか」
男は頬を掻くと怪しく微笑む。




