戦争の壁画
予選を終えた俺達は宿へ向かうと、宿の前で皆が待っていた。
「お疲れ様でした皆さん」
ジュリエが声を掛けると、俺は「おう」と答える。
「やっぱりガクラさん達は一位でしたね」
「そうね。魔物の群れが襲ってきても退治出来る余裕もあったし」
「ま、まぁな~……」
コイツ等、映像越しで見てただけだから分からんだろうけど、あれ意外とヤバかったからな。
「なんか所々危なそうには見えたけどね」
「確かにな」
ガネンとクラカは分かってるよ。
「ところで、まだ夕食まで時間がありますがどうしますか?」
「あ? んなもん適当に自由じか……」
ん? そういやぁこの町には……。
「いや。ちょっと歴史の勉強するか」
「どうしたガクラ? 頭打ったか?」
「ぶっ飛ばすぞお前」
――――――――――――――――――――
ガクラ達は生徒と、同じ宿に泊まっている冒険者達と一緒に王都の隅にある洞窟にやってきた。
「この先に何かあるんですか?」
「言っただろ。歴史の勉強って」
光の兄弟を先頭に、松明が置かれている洞窟を進み続けた。
「ねぇガネン。この洞窟、なんか光素が濃くない?」
「俺もそう思った。洞窟だと外より薄いはずなのに」
そんなガネンとクラカの会話がガクラに聞こえていた。
「その答えもこの先にあるぜ」
その後も進んで行くと、広い場所にやってきた。
「着いたぜ。あそこに……ん?」
ガクラが目的の場所を指差すと、そこには先客がいた。
「おぉ、お前達か」
そこにいたのは、緑色の髪をした40代ぐらいの人間の男だった。
「グリーフさん。何でここに?」
珍しく敬語のガクラに生徒達は驚く。
「エスティーさん。あの人は?」
「あの人はグリーフさん。俺達の先輩光族だ」
『え!?』
エスティーがそう言うと、生徒達は驚いた。
「この世界に父さん達より先にいる光族がいるって聞いたけど、あの人なんだ」
ガネンとクラカも今日初めて会った。
今ここにいる冒険者達では、キルカのパーティー以外は会ったことがある。
「それでグリーフさん。どうしてここに?」
「ああ。私は明日ライテストに帰るのでな。その前にこれを見ようと思ってな」
グリーフは振り向いて、背後にあるものに目を向けた。
そこには、この世界の者達と魔物に魔族に魔王。そして両者の前でいる超人の様な者達が戦う様子が描かれている大きな壁画があった。
「これって……」
「光闇戦争の壁画だ」
壁画を見た生徒達は驚きのあまり言葉を失った。
「あの真ん中に描かれているのって光族と……闇族ですか?」
「そうだ。あの戦いは今でも覚えている」
グリーフの言葉に、セーユは「え?」と驚く。
「グリーフさんは光闇戦争に参加してたんだ」
「あの戦いは忘れられん。森は吹き飛び、山は崩れ、我々が戦った場所は必ず荒れ地と化していた。この世界の者達も頑張ってくれたが、大勢が亡くなった」
その言葉に生徒達だけでなく、光の兄弟と冒険者達も曇った表情になる。
「なんかさぁ。当時の種族達は仲が悪かったって聞くけど、今の様子を見たらなんか分かんないよな」
「まぁ、確かにね」
ソルラの言葉にマルナが同意する。
「ならば見てみるかい?」
『え?』
――――――――――――――――――――
「何ですかコレ?」
宿に戻ると、セーユはメイトが操作している電球の様な球体が付いた機械について聞いてきた。
「これは人の記憶を周囲に映し出すメモリービジョン。ライテストの科学技術局で作られた物なんだ」
メイトがこれを操作しているのは、グリーフさんの記憶から光闇戦争を見るためだ。
「でも、王都にあんな壁画があるなんて知りませんでした」
「あまり知られていないからな。それに光闇戦争はこの地で起きた出来事なのだ」
「そうなんですか!?」
グリーフさんの言葉にシフールが驚く。
確かにこの事はあまり知られていないし、俺達も知ったのは去年の超闘祭の時だからな。
「もしかしてあの洞窟に光素が多かったのって」
「あの戦争で亡くなった光族の残留エネルギーの様なものさ」
ガネンの質問にグリーフさんはそう答える。
「グリーフさん。設定終わりました」
「そうか。では、始めようか」
グリーフさんはメモリービジョンに繋がっているヘルメットを被ると起動させた。
皆が息を飲むと、球体から光が出てあっという間に周りを包んだ。
――――――――――――――――――――
「うっ……あれ?」
セーユが目を開けると、何故か夜の外にいて、しかも空を飛んでいた。
「こ、これって?」
「私の記憶がこの部屋の壁、床、天井に映し出されているんだ。テーブルや椅子も見えなくなっているだろう?」
その通りで、一見皆はまるで空中に座っているように見えるが、実際は椅子とかが見えなくなっているだけでちゃんと座っている。
「そして今は、終戦の前夜を映している。ほら、下に」
グリーフさんが下を指すと、そこには大勢のアスタラードの種族が集まっていた。
「あの者達が我々と共に戦ったこの世界の戦士達だ」
あれが当時一緒に戦ったアスタラードの戦士達。
なんか……今と雰囲気が違う。なんだかピリピリしている。
戦争だからだけじゃない、そんな気がする。
すると、鍋を間にエルフと竜人族が何か言い争っているのが見えた。
「君、ちょっと肉を入れ過ぎじゃないか?」
「言い返させてもらうが、そっちこそ野菜を入れ過ぎだ。今は戦争なんだぞ。体力や筋力を付ける方が大事だろ」
「いいや。戦争だからこそ、健康や栄養に気を配るべきだ。全く、これだから肉食の竜人は」
「何だと草食野郎!」
エルフと竜人族が睨み合っていると、そこに一人の魚人族がやってきた。
「なぁ。この鍋、肉と野菜ばかりなんだが、魚とかは無いのか?」
「今私達は大事な話をしている」
「魚野郎は引っ込んでろ!」
「何だと!?」
とうとう魚人族も言い争いに参加し始めていがみ合う。
「アイツ等、戦争中に何あんなことで喧嘩してんだ?」
「こんなものじゃないよ。他を見てみなさい」
俺はグリーフさんに言われて周りを見ていた。
背の大きさで言い争う鬼人族と小人族。
尻尾が邪魔だと喧嘩する人間と獣人族。
他にも些細なことで揉め事が起きていた。
それを見ていた生徒達と冒険者の皆は、居心地が悪そうな顔になっていた。
「酷いもんですね」
「これでも最初よりはマシだ。前は戦っている最中に喧嘩するほどだったからな」
現在と五千年前。アスタラードは大分世界の形が違っていたと俺は改めて実感した。




