海水浴企画
「どうしたお前等?」
昼休みに、俺はグッタリしているセーユ達に訊ねた。グッタリしているのはコイツ等だけじゃなく、結構殆どの生徒がテーブルに伏せていたり椅子の背もたれに凭れ掛かっている。
「いえ……ただ最近、鍛錬の授業が厳しくなってきている気がして、ちょっと疲れてるんです」
「そうか? お前等の体力増加に合わせてるだけだけどな」
ただ少し重い鎧付けて走る距離を増やしたり、武器にも重りを付けたりしてるぐらいなんだがなぁ。
「なんかこう、何処かで遊びたい気分だね」
「遊ぶって何処でだよ? この島、あんまそういう所ないぞ」
「ホントだよねー。休日も買い物か散歩ぐらいしかすることないし」
周りからそんな声が聞こえる。
確かにこの島、人が住む場所はたくさんあるが、娯楽は少ないな。
俺は暇な時はよく遊び(カジノ)に行くけど、この島そういうのもねぇし。
「そう言えば父さん。週末の『アレ』って大丈夫なの?」
口元に食べかすを付けているクラカが俺に聞いてきた。
「ああ、大丈夫だ。今年は開けそうだってよ」
今日は水曜で、行くのは土曜だから十分時間あるな。
「週末何か用事でもあるんですか?」
「ああ。魚人族領にある海水浴で有名なオーシェンの町で泳ぎに行こうって皆で考えてな」
「オーシェンの町ですか。確かにあの町は海水浴で有名って聞きますけど、確か最近は……」
「ああ。魔王のせいで海の魔物が凶暴化して二、三年遊泳禁止だったんだがな、今年は開けるって話が進んで、無事海開きが決まったんだ」
「海水浴ですか。確かにこの季節にはピッタリですけど、この島じゃなー」
「何? この島には海水浴場もねぇのか?」
「ありますよ。……一ヶ所だけ」
セーユが気まずそうに言うと、俺は思わず「え?」と目を細める。
「元々この島は砂浜が少なくて、そのせいで海水浴場が作れなくて」
「なるほどね~」
つくづくこの島は娯楽が無いな。
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その日の放課後。俺はガネンとクラカ、クカナと一緒に校舎を歩いていた。
「海では思いっきり遊ぶぞー」
「クラカ、はしゃぎすぎだって」
「良いじゃねぇかガネン。遊ぶ時ぐらいパーッと羽を伸ばせば良いんだ」
俺も羽を伸ばしたい気分だったし。
「ねぇガクラ。オーシェンの海ってやっぱり綺麗?」
「まぁ、有名な海水浴場だったから綺麗だったと思う。俺がこの世界に来た時にはすでに遊泳禁止だったからよく分かんねぇけど」
そんな話をしながら俺達は校舎を出ると、外の掲示板に生徒達が大勢集まっていた。
「何だアレ?」
人だかりの所に向かうと、その中にルーヤを見かけ俺は声を掛けた。
「おい、何だこの人だかりは?」
「あっ、ガクラさん。皆このポスターを見てるんです」
ルーヤが指さしたポスターを俺達は見た。
『オーシェンの町の海水浴参加者募集中 行きたい方は今週の土曜日オールブ島の光の兄弟の家に朝九時までに来たれり』
「……何だコレ?」
「さっき学園長が貼ってました」
アイツかよぉー。なんとなく想像してたけど、どっかで聞いてたのか?
「どうですかコレ?」
丁度タイミングよくジュリエが俺達の所にやって来た。
「お前なぁ、俺等に何にも言わずに何勝手に決めてんだよ」
「皆さんに良い休みを取れると思い勝手に決めてしまいました」
「……その心は?」
「面白そうだからです」
……やっぱりな。
俺達はジト目でジュリエを見る。
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輝く太陽。青く綺麗な空と海と白い砂浜。
そしてそこには大勢の人達が集まり楽しんでいた。
「私が勝手に募集しておいてなんですが、思ったより集まりましたね」
「ホントだな全く」
魚人族領、オーシェンの町。そこのビーチには、俺達光の兄弟とジュリエ。そしてジュリエが勝手に募集した、海水浴に参加したい生徒が俺達の前に集まっていた。
集まったのはセシュイン学園の生徒、ほぼ全員だ。
確かにここには転移魔方陣で簡単に行けるが、だからってこんなに集まるとはな。
「で、何でお前も来てんだ?」
「私も遊びたいんです」
俺は苦い顔をすると、クカナが話しかける。
「良いじゃん。大勢の方が楽しいし」
「ま~そうだな。別にいいか」
俺は生徒達の方を振り向いた。
「お前等! あっちに更衣室があるから、水着に着替えたらもう一回ここに集まってくれ!」
『はい!』
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数十分後、生徒達の着替えが終わりまた再び集まってきた。勿論俺達も着替え終えている。
「お前等! 今日は学園行事じゃねぇから、生徒教師関係なく無礼講で楽しんでくれ!」
俺が皆にそう言うと、紫の水着を着たセーユが手を上げた。
「ガクラさん。多分皆もうそういうの関係なく無礼に接していると思います」
「……ちょっと気にしてる事を言うな」
俺は軽く咳払いをした。
「じゃあお前等、楽しんで来い!」
『おーーっ!!』
生徒達は一斉に海に向かって走った。
「皆楽しそうだな」
「ああ」
俺はガネンとクラカとクカナと一緒に海で遊ぶ生徒達を眺めていた。
「お前のアイデア。正解だったかもな」
「はい。皆楽しそうです」
ジュリエも笑って眺めていると。
「ホントお前等はいつも楽しそうだな」
「ん?」
後ろからそんな声が聞こえ振り向くと、そこには黒髪のドワーフの男が腕を組んで立っていた。
「おぉ、ブラークじゃねぇか。久しぶり」
「おぅ!」
声を掛けてきたのは、冒険者歴が長いベテランで、数少ないSSランクの冒険者の一人のブラークだ。
「お前も海水浴に?」
「まぁな。ここ最近、良い依頼が無くて暇だったからな。俺達も来たのさ」
「そうか~、そっちも暇だったか。……”達”ってことは他の三人も来てんのか?」
「ああ。ほれ、そこに」
ブラークが指さした先にはガネンがいて、そのガネンの腕を後ろから誰かが触った。
「うわ!」
「おお、流石ガクラの息子だな。良い体してる」
ガネンの腕を触っているのは、長い黒髪に和風な鎧を身に纏ったエルフの女だ。
「何してんだカゲキリ姐さん」
「いやぁーお前の息子も大分活躍してるみたいだからなぁ。ちょっと筋肉の付きとかのチェックを」
「やめろ」
相変わらずだなカゲキリ姐さんは。
ちなみにこの『姐さん』呼びは姉御肌が強いため、知り合いがよくそう呼んでいるので、俺達も自然にそう呼ぶようになった。
「ははは。やっぱりお前等の周りは楽しいな」
笑いながらやって来たのは、カウボーイのような恰好をした、黒い顎髭を生やした鬼人族の男。その隣には、黒いクロークを身に纏った魚人族の少女がいた。
「やっぱり来てたか。ダンガン、サシェ」
ブラークを含めたこの四人は、冒険者の中では有名なSSランクの冒険者パーティーだ。
「さっきのガキ共はお前等の生徒か?」
「まぁな」
「ガハハハッ! お前が教師とは似合わねぇな!」
「うるせぇ」




