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毒の王、囚われた姫②

 未知の毒で苦しむ国王を救う為、王城にやってきた。


「なんだお前は!」


 当然、城の手間で衛兵に止められる。


「国王の毒を治療しに来た者だ」


 と、素直に答えてみたところ、


「素性の知れぬ者は通せぬ!」


 案の定、拒まれてしまった。


 昨夜のパーティー以降、王城は厳戒態勢だ。

 入退場の際に荷物検査を受ける上に、城内でも監視の目が光るという。

 そんな時に役立つ存在が――アリサだ。


「私の素性なら分かるんじゃないかしら?」


「あ、貴方は! 〈ゴッドアロー〉と名高い……!」


「通してもらえる? 私達なら国王陛下の治療ができるかもしれない」


「かしこまりましたーっ!」


 流石はS級冒険者であり、元〈白銀の紺碧〉副マスターだ。

 厳戒態勢の王城ですら顔パスで通ることができた。


「私達って言ってたけど、治療するのは俺一人だよな」


 城の中を歩きながら話す。


「入るのに協力したから私達なの」


 アリサは笑いながら滅茶苦茶な理論を振りかざす。

 こうして他愛もない雑談をしながら、国王の寝室に到着。

 寝室の前では大勢の官吏と衛兵が集まっていた。


「私はS級冒険者のアリサ。こっちは仲間の冒険者でジーク。国王陛下の治療に来ました」


 寝室の扉を守る騎士団長と話すアリサ。

 団長を務めるチョビ髭の男は、鼻の下を伸ばしながら扉を開けた。


「陛下、S級冒険者のアリサが解毒を試みに参りました!」


「ゲホッ……ゲホッ……」


 中では国王と思しきご老体が今にも死にそうな顔で床に伏せていた。

 ベッドサイドでは上品なローブに身を纏う医師らしき男が待機している。


「ぁ……ぉぉ……ぅぅぅぅ……」


 国王は虚ろな目をこちらに向ける。

 が、焦点は定まっていない。

 おそらく視界は霞みまくりだろう。

 俺達のことは殆ど見えていない。


「ジーク、どう?」


 アリサが尋ねてくる。

 ここからは俺の出番だ。


「どれどれ」


 国王に触れようとする。

 すると、すぐ傍にいた医師が止めてきた。


「なにをするのです!?」


 医師が声を荒らげるものだから騎士達が駆け寄ってくる。


「触って確認するだけだ。触診ってやつだよ」


「毒に触診などいたしません!」


「俺はいたすんだよ、黙ってろ」


 医師の言葉をはねのけ、国王の手に触れる。

 触れたことによって、どのような毒におかされているかが分かった。


「未知の毒って新聞に書いていたから期待したが、ありふれた調合毒じゃねぇか」


 落胆する。

 新聞には「いかなる薬も通じぬ未知の毒」と書かれていた。

 しかし、実際には複数の神経毒を調合して作った簡単な毒だ。


「致死性はないから、別にこのままでも死なないよ」


 国王の手を離して言う。


「でたらめなことを!」


 医師が顔を真っ赤にしてキレる。


「やれやれ、弱者はこれだから困る」


 俺は国王の胸元に掌をかざす。


「真の強者が口だけでないことを証明してやろう」


 俗に「解毒魔法」やら「治癒魔法」と呼ばれる魔法を発動。

 国王の体内に、解毒作用のある魔力の光が注ぎ込まれていく。

 次の瞬間、国王の身体を蝕んでいた毒がこの世から消え失せた。


「なんじゃ……? 急に身体が……?」


 国王の顔色が一気に良くなる。


「「「陛下!?」」」


 皆が驚愕する中、国王は凄まじい勢いで身体を起こした。


「復活じゃ! 完全に復活じゃーい!」


 解毒完了。

 国王陛下は回復した。


「し、信じられん……!」


 医師が崩落する。

 周囲の騎士達も愕然としていた。


 ◇


 俺達は国王専用の応接間に呼ばれた。

 他の人物を完全に追い払った3人きりとなる。

 俺とアリサが並んでソファに座り、国王は向かいのソファに座った。


「改めて、治療してくれて感謝する。ジーク殿、アリサ殿」


「ただの気まぐれさ。気にしないでくれ」


「それにしても、よくぞ毒の種類を判別できたものじゃ」


「いえいえ、大したことはございませんよ!」


 なぜかアリサがドヤ顔で答える。

 俺は「おい」と苦笑いしつつ、話を進めた。


「それよりお嬢様のことですが」


「そうじゃそうじゃ、リリィはまだ帰ってきておらぬのじゃった」


 リリィとは、拉致された王女の名前だ。

 新聞によると年齢は6歳とのこと。


「既に〈白銀の紺碧〉にはリリィの救出を依頼しておるはずじゃが……」


 国王がアリサを見る。


「私、ギルドを脱退したのです」


「なんと!?」


「ですから、今の活動はギルドと無縁です」


「そうじゃったか……。うっかりフリック殿に解毒治療の報酬をお送りしてしまったわい。彼は目立つのを嫌う性分である故、これは迷惑をかけてしもうたな」


「それは間違いだ。あいつは『目立ちたくない』と言っているだけで、実際は目立つのが大好きな残念な男だよ」


 俺はしっかりと訂正しておいた。


「そんなことより、お嬢様の救出も俺達でやろうか?」


「か、可能なのか? どこにおるかも分からぬのに」


「もちろんです!」


 アリサは即答した後、「だよね?」と俺に振ってくる。

 ここで俺が「無理に決まってるだろ」と答えたらどうするつもりなのだ。

 そう思いつつ、俺は「余裕だよ」と返した。


「お嬢様――リリィはどこで拉致されたか分かるか?」


「寝室じゃ。あの子は早寝じゃからの。パーティーの頃は就寝中じゃった」


「なら寝室へ連れていってくれ」


「それで何が分かるの?」とアリサ。


「百聞は一見にしかずさ」


「なにその言葉」


「ことわざってやつだよ。言い換えるなら『見れば分かる』ってことさ」


「なるほど」


 そんなわけで、俺達は国王と共にリリィの寝室に向かった。


 ◇


 リリィの寝室は拉致された時のままだった。

 つまり部屋の中が荒らされた状態ということ。

 探偵などのプロを雇って調べさせる為、そのままにしているそうだ。


「この部屋を見て、ジーク殿には何か分かるのか?」


「まぁな」


 俺はベッドに近づき、枕を手に取った。

 鼻を当ててクンクンと嗅ぐ。幼女のフェロモンの香りだ。


「何をしておる……!」


 顔を青くする国王。


「変態!」


 アリサもドン引きだ。


「まぁ落ち着け。これが調査の一環なんだ」


 俺は枕を置いた。


「今のはリリィの匂いを身体に刻む為の行為さ」


「匂いを身体に刻む……どういうことじゃ……?」


 国王がアリサに説明を求む。

 が、アリサも分からない為、「さぁ」と首を傾げた。


「先ほど得たリリィの匂いに、俺の魔力を混ぜることで――そらっ!」


 ベッドから一筋の光の線が浮かび上がる。

 線は真っ直ぐに扉の外へ伸びていた。


「これは足跡みたいなものだ。つまり、この光を追っていけば――」


「リリィに辿り着くというのわけか!」


「その通り。あんた、なかなか察しがいいな」


「すごっ! ジーク、すっごい! なんなのそのスキル! 見たことないよ!」


「俺も俺以外の人間が使っているのを見たことがない」


「よし、これならリリィの居場所が分かるぞ! 今から軍を上げて救出に向かわせる! ご苦労じゃった! ジーク殿! 報酬はリリィの救出後に行わせてもらう!」


 国王が慌てて部屋を飛びだそうとする。

 俺は「待て」と呼び止めた。


「軍を率いていくのは良くない」


「なぬ? どうしてじゃ?」


「リリィは人質なんだぞ。軍で行けば危険だろ。交渉が決裂したとなれば、相手がリリィを生かしておく理由がなくなる。殺す可能性が高いぞ」


「「たしかに」」


 アリサと国王が口を揃える。


「ジーク殿は鋭いな……。しかし、それではどうすればいいのじゃ?」


「俺達に任せろ。今から行ってサクッと救助してやる」


「なぬ!? 2人で行くのか!? 相手はS級以上の実力を持つとも言われるホルスの革命軍じゃぞ! 噂によるとホルスは自身を超強化する古代のアイテムを持っているそうじゃ。部下も精鋭揃いと言うし、流石に厳しいのではないか」


「任せろ。俺達が下手を打っても、困るのは俺達だけだ。リリィが殺されることはない。だから、まずは俺達に行かせてくれ」


「分かった。ジーク殿を信じよう」


 国王が俺達に向かって深々と頭を下げる。


「我が娘リリィを頼んだ」


 アリサは「はい!」と元気に答えると、笑顔で俺を見る。


「これは失敗できないね、ジーク」


「ふっ、馬鹿なことを。いつだって成功しかできないさ、俺は」


 アリサと共に、リリィの居場所を示す光の線を辿るのだった。


頑張って更新していきます!


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