大魔王軍の襲来①
謁見の間で国王と会う。
いつもは俺の左右で雁首を揃えている官吏の数が今日は少ない。
「まさかこれほど早くお越しいただけるとは……! 流石はジーク殿」
「なぁに、俺とあんたの仲じゃないか、気にするなよリチャード」
「ワシの名はアーノルドじゃ」
「そうだったのか」
国王の座る玉座の隣に、これまでになかった椅子が設けられている。
玉座と同等の上品な椅子で、そこには艶やかな水色の髪をした女性。
歳は20代半ばで、玉座に劣らぬ上品なローブを纏っている。
彼女の後ろには、黒い髪をした少年が立っている。
「そちらの女性と少年は、あんたの嫁と子か?」
俺の発言に、周辺の官吏がざわつく。
誰かが「流石のジーク様でも不遜が過ぎますぞ」と言ってきた。
「本当はもう少しあとで紹介する予定だったが……」
国王は「まぁいいか」と言って、隣に居る者の紹介を始める。
「こちらの女性は〈ラーカム公国〉の公主クリアラス殿じゃ。その後ろにおられるのは、クリアラス殿の護衛を務めるライト殿」
クリアラスが静かに微笑み、軽い会釈。
ライトなる少年は、すまし顔で天井のシャンデリアを眺めている。
「ほう、隣国の公主は女性だったのか」
俺の発言に驚いた様子のクリアラス。
そんな彼女に、国王は慌てて耳打ちをする。
「ジーク殿は世俗に疎いのじゃ」
クリアラスが「なるほど」と呟いた。
「それで、俺に緊急の依頼があるんだっけか?」
国王は「うむ」と頷き、真っ直ぐに俺を見る。
「実はラーカム公国が滅亡したのじゃ」
「滅亡だと?」
「軍は全滅し、王族もクリアラス殿以外は死亡が確認されておる」
「そういえば、前に会った時、〈ラーカム公国〉がどうのこうので疲れていると言っていたな。あの時から戦争が起きていたわけか」
「その通りじゃ」
「すると俺に、公国を滅亡に追いやった敵と戦えっていうのか?」
「早い話がそうなるが、やってくれるか?」
俺は即答した。
「断る」
「なんじゃと!?」
予想外の返事だったらしく、国王はとんでもなく驚いた。
「だって戦争で負けて滅んだんだろ? それはただ弱かっただけの話だ。俺が加担するような問題じゃない。この国が戦争でやばくなったとしても、俺は手助けしないよ」
戦争に協力する気はない。
これは昔から貫いている俺の方針だ。
「ふむ……」
国王はしばらく黙った後、おもむろに口を開く。
「相手が魔王の軍勢でもか?」
「なに?」
「ラーカム公国を滅ぼしたのは、突如として現れた魔物の軍勢じゃ。軍のリーダーは〈大魔王オンボール〉と名乗る未知の魔物で、軍団も魔物で構成されている」
「この世界の魔王はフリックに討伐されたんじゃなかったのか?」
「魔王は他にも居る、ということじゃろう」
あり得る話だ。
世界によって、魔王や神の数は異なっている。
過去に訪れた世界には、神の数が800万を超えるところもあった。
それに、別の世界からやってきたという線もある。
俺やリムノーレのように、転移や転生の能力を使えばあり得る話。
突如として現れたとのことだから、むしろこちらの可能性のほうが高い。
「その魔王軍、強いのか?」
「強いなんてものじゃない。オンボール軍には、〈五十魔将〉と呼ばれる50体の幹部がいて、その者達ですらSS級やSSS級冒険者に匹敵する強さだ。五十魔将と戦った者が五十魔将から聞いた話によると、オンボールは五十魔将が束になっても叶わない強さだという」
「それは……そそられる話だな」
「とはいえ、五十魔将にはどうにか対抗できておる」
「そうなのか?」
「五十魔将の内、既に半数は討伐が確認されておる」
「大したものだな。それなら俺の出番はないんじゃないか?」
「いいや、ある。既に大手ギルドや有名な冒険者には秘密裏に依頼し、オンボール及び五十魔将の討伐に向かってもらっているが、戦果は芳しくないのじゃ。五十魔将の半数を討伐したが、それ以上の被害を受けておる。これ以上、我が国から優秀な冒険者を失った場合、今度は国の治安維持に影響が及んでしまう」
「それで俺の出番というわけか」
「さよう。最近は何かとそなたの力を借りておる。だから、出来ればそなたの力を借りたくなかった。常にそなたが協力的とは限らぬからじゃ。しかし、この期に及んではそうも言ってられない。どうか協力してはもらえないだろうか」
国王が玉座から立ち上がり、深々と頭を下げる。
その隣にいるクリアラスは……なんと座ったままだ。
本来なら公主こそ頭を下げるべきでは、と思った。
ま、細かいことは気にしない。
俺は「いいだろう」と承諾した。
「人間同士の争いならごめんだが、魔物の軍勢が相手ならば協力する。オンボールがどれほど俺を楽しませてくれるのか気になるところだしな」
オンボールは十中八九で転移してきた存在。
リムノーレがそうであるように、別の世界から来た者は強い。
だからこそ、オンボールなる未知の敵とは矛を交えたかった。
最強の追求をやめた俺だが、それでも強い奴には興味がある。
「お待ち下さい、国王様」
「どうなされた? クリアラス殿」
「ジーク殿を公国へ送ることには反対です」
まとまった話にケチをつけたのは、なんと公主のクリアラスだった。
これには国王や周囲の官吏のみならず、俺の表情にも変化が生じた。
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