違法奴隷を扱う裏組織⑤
ルクスの手口は実に巧妙だ。
違法奴隷にしたい幼女の場合、時間をかけてじっくり仕上げる。
最少は微量の薬物と〈改竄〉で慣らしていき、次第にその効力を強めていく。
同時進行で、対象の両親の記憶も〈改竄〉する。
〈聖水〉と〈改竄〉のコンボで、娘の記憶を失わせるのだ。
これにより、娘が消えても問題が表沙汰になることはない。
最後に、頃合いを見計らって〈洗脳〉し、奴隷化する。
この段階になると、もはや周囲の目を気にする必要はない。
娘が行方不明だと訴える者がいないので、堂々と奴隷にできる。
ルクスは効率的に違法奴隷を増やす為、洗脳の日を決めていた。
それまでの間に薬漬けの廃人を増やし、洗脳の日にまとめて奴隷化する。
そして、ルクスに会った数日後の今日、〈洗脳〉が行われる。
場所はいつもの教会――ではなく、街外れにある建物の中だ。
路地裏にある建物で、表向きは長期休業中のショップである。
「俺が合図したら一斉に突入するぞ。それでいいか? 隊長」
「はい、我々はジーク様のご指示に従います」
俺は国王より借りた小隊を率いて、ルークの洗脳現場に来ていた。
建物の扉の前で構えて、元々の小隊長と作戦の確認を行う。
「戦闘などは全て俺が行う。お前達は犯罪現場の確認及び現行犯の逮捕を頼む」
「かしこまりました」
「では行くぞ」
俺は扉を殴り壊した。
鉄製の扉だったが、軽く殴っただけで粉々になる。
「なんという力……!」
「これが革命軍を倒したジーク様……!」
「恐ろしい……!」
小隊メンバーがびっくりしている。
だが、驚いているのは彼らだけではなかった。
「「「なんだ!?」」」
建物の中にいた連中も、突然の襲撃に動揺していた。
驚いていないのは、虚ろな目をした数十人の幼女だけだ。
「隊長、見ろ。今まさに違法奴隷を作ろうとしている現場だ」
建物の中は現行犯逮捕を容易に出来る内容となっていた。
大きなテーブルが一つあり、その上に〈聖水〉が並んでいる。
テーブルの前には、〈洗脳〉を待つ幼女が数十人。
さらにその周辺には、大量の〈隷属の首輪〉を持った連中。
極めつけは、今まさに首輪を付けようとするルクスの姿。
「こ、ここ、これは! アウトーッ!」
隊長が吠える。
「国王陛下の命により、お前達を逮捕する!」
そう言うと、隊長は全員に抜刀を指示した。
「ボス、これは……!」
「どうしますか!?」
悪党共がルクスに指示を仰ぐ。
ルクスはこの期に及んでも落ち着いていた。
「返り討ちにするだけだ。ガサ入れの報告がなかったところを見ると、今回の作戦は表向きには存在していない。こいつらを皆殺しにすれば、あとはどうにだって隠蔽できるわけだ」
「流石は悪党の黒幕、良い勘をしているな」
ルクスの言う通り、この作戦は極秘裏に行われている。
内通者を警戒してのことだ。
ルクスの口ぶりからすると、やはり内通者が存在していたようだ。
ちなみに、内通者の正体は分かっていない。
なぜならルクス自身、誰が内通者か知らないからだ。
だからルクスは、内通者を頼る一方で不気味に思っていた。
自分の正体を知る者が誰なのかを。
「分かりました! お前ら! 応戦するぞ!」
そこら中からうじゃうじゃと悪党が溢れ出す。
最初から気づいていたが、付近の建物にも隠れていた。
数は圧倒的に向こうが上だ。
「ジーク様……」
「動じるな」
俺は一歩前に踏み出し、悪党共に向かって言った。
「死にたい奴はかかってこい。真の強者が一撃で殺してやる」
ザコにも分かるだけの殺意を込める。
すると、半数以上の連中が恐怖のあまり気を失った。
残りの連中にしても腰が砕けて動けない様子。
唯一、ルクスだけは問題ない様子で立っていた。
それもそのはずだ。
コイツには殺意をぶつけていない。
「お前達! どうした!? 戦え! 攻撃しろ!」
取り乱すルクス。
「だ、だめです、ボス、足が動きません……」
「ええい! 役立たずが!」
ルクスは舌打ちすると、こちらに向かって土下座した。
まさかの対応に「えっ」と驚く小隊の隊員達。
俺は次の展開が分かっているのですまし顔。
「お助け下さい! お金ならいくらでもお支払いしますから!」
(やはりこの手か)
ルクスは慎重な男だ。
教会で記憶を漁った時点で、既にこの展開を想定していた。
いつか必ず窮地に陥る時がくるだろう、と。
コイツが想定している以上、その情報は俺にも筒抜けだ。
だから俺は、ルクスが何を企んでいるのか知っている。
それでもなお、わざとその計略にかかってやることにした。
「なるほど、いくら払うつもりだ?」
「「「ジーク様!」」」
「まぁ待て、話だけでも聞いてやろうじゃないか」
「国家に対する反逆ですぞ!」
「いやいや、話を聞くだけなら反逆じゃないさ。承諾したら反逆だが」
「それはそうですが……」
「まぁまぁ、大人しく待っていてくれ。彼の言い分を聞きたいからさ」
そう言って、俺はルクスに近づいていく。
地面に額を付けながら、ルクスは笑っているに違いない。
「それで、いくら――」
俺が話している最中のことだ。
ルクスが「今だ!」と吠えた。
「やれ! ミイナ! ローナ!」
「はいなのです、ご主人様!」
「ご主人様、ローナが守る」
天井にくっついていた2人の違法奴隷が降ってくる。
金色の髪をした狐の獣人ミイナと、銀色の髪をした狼の獣人ローナだ。
ルクスが信頼を寄せている性奴隷である。
「こいつらは他の奴隷とは違う! 過酷な訓練を鍛え抜いた精鋭だ! 俺を守る最強の精鋭! 度重なる〈洗脳〉と〈改竄〉によって、戦闘適性を強引にアップ! その強さはSSS級冒険者にも匹敵する! ただ強いだけじゃない! 容姿や人格だって俺好みだ! まさに最高傑作! これが〈伝説の治療師〉の本気だ!」
長ったらしい紹介に偽りはない。
ミイナとローナは、本来の限界を超越した動きで襲い掛かってくる。
それでも、所詮はSSS級冒険者と同等なので大したことはない。
「どちらも0.75フリックといったところだな」
手を使うまでもなく、魔力だけで無力化する。
魔力によって生み出した瘴気を当てると、ルクスの最高傑作は気を失った。
「そんな!? 何をした! お前! 俺のミイナとローナに!」
ルクスが怒っている。
記憶を漁った俺には、この怒りが本気だと分かった。
というのも、ルクスはミイナとローナのことが好きなのだ。
だから、自分のことを好きになるよう、彼女らを〈洗脳〉していた。
「もはやお前の奴隷ではない」
「なに!?」
パチンッ。
俺は指を鳴らした。
次の瞬間、ミイナとローナの首輪が砕け散る。
洗脳も解除しておいた。
次に彼女らが目を覚ました時、ルクスのことは覚えていない。
「そんな……〈隷属の首輪〉が壊れただと!?」
「どうする? これでおしまいか? それともまだ戦うか?」
「クソッ……! こうなったら……!」
ここから先は何が起こるか分からない。
ルクスの記憶には、この先の情報がなかったからだ。
「俺は俺自身の強さを〈改竄〉し、全てをねじ伏せる力を手に入れる! たとえその代償がいかなるものであろうとも問題ない! 〈改竄〉による代償など、〈治療〉すればいいだけのこと!」
もはやめちゃくちゃだ。
しかしルクスは、そのめちゃくちゃをやってのけた。
「まずは強さの記憶を〈改竄〉する! そして新たな記憶に合わせて肉体を〈強化〉する! 当然ながら起こる身体の負荷は〈治療〉によって和らげる! これが〈伝説の治療師〉の真の姿だ!」
ルクスの姿が変わっていく。
どうやら進化の過程で、自身の姿を〈変化〉させてしまったようだ。
「なんだ、あいつは……!」
小隊長が腰を抜かす。
「人間じゃねぇ……!」
誰かが呟く。
たしかに、目の前にいるのは人間とは思えなかった。
20本の尻尾を生やした、全長5メートル級の巨大な狐だ。
いや、狐なのは下半身だけで、上半身は狼になっている。
ルクスが大きすぎて、建物が崩壊してしまった。
幸いにも怪我人は出ていない。
「憐れな奴だな、全く」
ルクスが教会で行っていた〈改竄〉は、必ずしも悪とは言い切れない。
嫌な記憶に縛られて人生を無駄にするなら、〈改竄〉で楽になるのもアリだ。
違法奴隷にさえ手を出さなければ、きっと良い人生を送れていただろうに。
「ルクス、お前のその腐った思考を俺が〈改善〉してやるよ」
「グォオオオオオ!」
もはや人の言葉を話せなくなったルクスが襲ってくる。
「じゃあな、残念な牧師様」
俺はキュアパンチをルクスの顔面にお見舞いした。
巨大化な獣と化したルクスは全身を地面にめり込ませた状態で死んだ。
頑張って更新していきます!
「面白かった!」
「頑張れ!」
「早く続きが読みたい!」
など、応援してくださる方は下にある星で評価してください!
励みになります!
よろしくお願いします!