違法奴隷を扱う裏組織④
アリサから放たれたまさかの「NO」に驚く俺。
「どうしてダメなんだ?」
「ルクス牧師を支持している人はすごく多いからね」
「だったら見過ごせって言うのか?」
「ううん、違法奴隷の問題を解決するなら倒すしかないと思う」
「でも叩きのめすのはダメなんだろ? どうすりゃいいんだ」
「ルクス牧師が違法奴隷の売買に関係しているっていう明確な証拠が必要だよ。私達はジークが正しいのを知っているけど、普通の人はそんなこと分からないわけで。そんな状況でいきなり牧師をボコボコにしたら、ジークが悪者扱いを受けるだけだよ」
「ジーク様、私もアリサに賛成です」
「アリサのみならずリリィもか。うーむ、証拠なぁ……」
証拠なんぞ必要ない、と今まで思っていた。
俺が黒だと思った奴は例外なく黒であり、そこに誤りはない。
言うなれば俺自身が証拠みたいなものだが、それではダメということだ。
「だったら、現行犯で押さえるってのはどうだ?」
「現行犯?」
「ルクス牧師が女児に薬を飲ませていたり、洗脳していたり、はたまたそれらを終えた女児を売人に引き渡したりしているシーンを押さえるわけだ」
「たしかにそれなら問題ないけど……そんなことできるの?」
俺は「余裕だ」と即答する。
「今日は二手に分かれて行動しよう。俺は今からルクス牧師と会ってくる。その間、皆は国王に事情を説明し、衛兵を動かせるようにしておいてくれ。ただし、黒幕がルクス牧師であることは内緒だ。革命軍の時と同じで、内通者がいるかもしれないからな。犯人の目星がついたが詳細はジークしか知らない、とでも言って濁しておいてくれ」
「分かった!」
「お任せ下さい、ジーク様」
「リリィはオラが守るから安心していいぞ!」
決まりだ。
俺達は行動を開始した。
◇
ルクスが牧師を務める教会にやってきた。
教会は王城から徒歩で数分の距離にあった。
そんな所で奴隷の選別をするとは恐れ入る。
ルクスという男、相当な胆力の持ち主だ。
「これで貴方の心は〈治療〉されました」
「ありがとうございます! 牧師様!」
教会には長蛇の列が出来ていた。
アリサに聞いた話によると、それはいつものことらしい。
皆、ルクス牧師に心の傷を癒やしてもらいたいのだ。
俺は列に並ばず、牧師の立つ壇のすぐ傍にある椅子に座った。
そこから、牧師の行う〈治療〉とやらを眺める。
(そういう仕組みか)
一目見て分かった。
牧師が〈治療〉と言う行為の正体が。
それは、魔力を使った記憶の〈改竄〉だったのだ。
魔力の量は極めて少ない。
すなわち改竄される記憶もほんの微かということ。
改竄された側は、なんの違和感も抱かないだろう。
「牧師様のおかげで気持ちが楽になりました。妻を寝取られたショックで自殺したくなっていましたが、今ではそんな気持ちが湧いてきません!」
ただいま牧師に〈改竄〉された男は、不倫の傷を癒やしに来たようだ
自殺を検討する程の辛さだったはずが、今ではすっかり元気になっている。
牧師の〈改竄〉によって、負の記憶を弱められたのだろう。
やはり、歴史が変わる程の大きな記憶の改竄は行われていない。
「また辛いことがあったらいつでも来て下さい」
「はい! 牧師様!」
男がウキウキした表情で出て行く。
その男の背中を一瞥してから、俺はルクス牧師に目を向ける。
(コイツで間違いないな)
先の違法奴隷から得た情報と同じ顔だ。
それに〈治療〉と称してやっていることは〈改竄〉に他ならない。
稀に自分の能力を勘違いしている者がいるけれど、この男は明らかに故意だ。
「牧師様、先日、息子が異世界に転生したいと言い出しました。どうやら本気で異世界に転生できると思っているようです。最近では仕事にも精が出ない様子。私は頭が痛くて痛くて仕方がありません。このままでは、このままでは……」
次の〈改竄〉対象はおばさんだ。
ルクスは「大変でしたね」と適当に答える。
それから、「まずはこちらをお飲み下さい」と瓶を薦めた。
(あれが薬か?)
瓶の中に入っている液体を分析しよう。
目から放たれた魔力で、対象の液体に触れてみた。
それによって、成分がまるっと分かる。
ただの水だった。
「この〈聖水〉を呑むだけで気が晴れたように思います!」
おばさんが訳の分からないことを言っている。
日本で学んだ「思い込み効果」というものだろう。
「それが〈聖水〉の効果です」
ルクスが笑顔で嘘を吐く。
ただの水を聖水と呼ぶ時点で、やはり胡散臭い。
「これで貴方の心は〈治療〉されました」
ただの水を飲んだおばさんを抱きしめた。
この抱きしめるという行為を、ルクスは〈治療〉と呼んでいる。
「すっきりしました! 息子が異世界に転生しても気にしません!」
おばさんも無事に〈改竄〉されたようだ。
その後も、同じように悩める者共が〈改竄〉されていく。
そして、違法奴隷に最適な幼女の番がやってきた。
「まずはこの〈聖水〉を」
ルクスが幼女に水を飲ませる。
成分を調べたが、今回もただの水だった。
「では次に心の〈治療〉を行います」
幼女を抱きしめるルクス。
この時、今までとは違うことが起きた。
ルクスから魔力が放たれていないのだ。
つまり、ただ抱きしめているだけである。
「なるほどね」
思わず呟く。
その声は誰にも聞こえていなかった。
「君の心の傷はとても深いです。一度の〈治療〉では治しきれません。これほどの傷を癒やすには、根気よく何度も〈治療〉する必要があります。このカードに書かれている日時に改めて来て下さい」
「はぁい」
カラクリが分かった。
奴隷にしたい相手の場合は、こうやって時間指定で別の日に呼び出すのだ。
そしてその時に、〈聖水〉と称して薬を飲ませるのだろう。
(答え合わせといこうか)
俺は席を立ち、列に割り込んだ。
当然ながら不満が噴出するが「すぐに終わる」と言って黙らせる。
「どうされたのですか? 先ほどからずっと見ていましたね」
ルクスが偽りの笑みを俺に向ける。
内心ではさぞかし鬱陶しく思っているだろう。
「実は俺、先生に憧れて田舎町から出てきたんです。俺、先生のファンなんです。良かったら握手だけでもしていただけませんか? それで満足して帰りますので、お願いします。列がなくなるまで待っているつもりだったのですが、先生、人気者だからいっこうに列が消えなくて……」
思ってもない嘘を並べる俺。
ルクスは「そうですか」と微笑んだ。
「良いでしょう。ただし、次からは皆に迷惑をかけないでくださいね」
「はい、すみませんでした」
ルクスが右手を差し出す。
俺はペコペコと頭を下げながら、両手でその手を包む。
次の瞬間、俺の脳に全ての情報が入ってきた。
(はい、正解っと)
ルクスの記憶を漁ったことで、全ての情報を得ることができた。
俺の睨んだ通りの方法で、コイツは違法奴隷を生み出していたのだ。
「ありがとうございました、牧師様」
俺は顔を下に向け、ニヤリと笑った。
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