違法奴隷を扱う裏組織①
「どうもすみませんでした。もう2度とご迷惑をおかけしません。今後はジーク様のペットとして大人しく生きていきます」
まずは冒険者協会でリムノーレが無害であることを示す。
「絶対に倒せない未知のスライムを仲間に引き込むなんて……」
「やっぱり只者じゃねぇよ」
「たしか〈ゴッドアロー〉のアリサも従えてるって話だぜ」
「アリサが〈白銀の紺碧〉を脱退したのはそれが理由だったのか」
「すげぇ……すごすぎるぜ……ジーク……」
冒険者共が予想外の方向に盛り上がる。
なんにせよ、これでリムノーレが迫害されることはなくなった。
「ジーク様、こちらが報酬のお金となります」
「おっ、討伐しなくても貰えるのか」
「ペットにしたということは、実質的に倒したのと同義ですので」
「なるほどね」
受付嬢からクエスト報酬を受け取り、冒険者協会を後にした。
◇
「えええええ!? スライムが仲間になったの!?」
「口を慎めアリサ! オラはスライムの皮を被った賢者だ!」
「でもスライムじゃん! それになんで偉そうなのよ!」
家に着くなり、アリサとリムノーレが口論を始める。
一方、リリィはリムノーレのことが気に入ったみたいだ。
「リムちゃん可愛いですーっ!」
リムノーレを「リムちゃん」と呼び、ぎゅーっと抱きしめる。
「へへっ、王女様は話が分かるな……!」
リムノーレもまんざらではない様子。
「そんなわけで、今後はリムノーレが魔法を教える。リリィ、明日からはますます特訓が厳しくなると思うが、頑張って強くなるんだぞ」
「はい! ――よろしくね、リムちゃん」
「うむ」
スライムを抱きしめる幼女……なかなか可愛らしい。
その姿を見ていて、俺は名案を閃いた。
「そうだ! リリィ、今後はリムノーレと一緒に寝るんだ」
「えっ、ジーク様、リリィが一緒だと嫌なのですか?」
「そうじゃない。リムノーレの方が抱き枕として適任だし、何より魔法で守ることができる。それになにより、俺は一人で寂しく過ごすアリサの相手をしてやらねばならない」
「ちょーいちょいちょい! ちょい待ち! ジーク、いつもあんたから私の部屋に」
「なるほど、たしかにアリサは寂しい女ですからね……」
「こらー!」
「だろ、だから俺はアリサと寝る」
「わかりました」
「流石はジーク、やり手だな」
「これが真の強者のあるべき姿だ」
「参考になる」
これで、夜はアリサと心置きなくイチャイチャできる。
◇
リムノーレが仲間になってから1週間が経過した。
その間、俺の生活は1兆年に及ぶ人生でも屈指の自堕落ぶりだった。
欠けた食材を補充すると、あてもなく街を彷徨う。
すると、すれ違った冒険者の多くが尊敬の眼差しで声を掛けてくる。
ただの挨拶で終わることもあれば、握手を求められることもあった。
中には、可愛らしい女冒険者とその時限りの享楽にふけることも……。
日本には「ニート」という単語が存在する。
この1週間の俺は、まさにニートであった。
一方、仲間達は順調に活動している。
アリサとリムノーレが、徹底してリリィを鍛えていた。
完全なる英才教育の甲斐があり、リリィの成長速度は芳しい。
王女にあるまじき戦闘能力を手に入れるのも時間の問題だった。
そんな折、我が家に王の使者が来る。
要約すると「話したいことがあるから城に来い」とのこと。
国王の呼び出しなら断るわけにもいかない。
退屈していたということもあり、俺は応じることにした。
「私達も一緒に行こうか?」
出発の時、アリサが尋ねてきた。
「いや、大丈夫だ。アリサとリムノーレは、リリィの稽古を続けてくれ」
「了解!」
「任せるがいい」
「ジーク様、お気を付け下さい」
俺は1人で城に向かった。
歩いた方が早かったけど、折角なので馬車を使う。
国王が寄越してくれた来賓用の豪華な馬車だ。
◇
城に着くと、謁見の間に通された。
てっきり応接間で話すと思っていたので驚く。
謁見のまで、赤い絨毯の上に立つ俺。
前方の玉座に国王が座っており、左右には官吏と騎士が並ぶ。
「それで王様、本日はどういった用件かな?」
俺は国王に対して敬語を使わない。
そのことに、周辺の人間が苛立ちをあらわにしている。
しかし、俺に文句を言える者はただの1人としていなかった。
タメ口で話しかけられた国王は気にしていない様子。
「ジーク殿、実はそなたのギルドに依頼したいことがあってな」
「ギルド? 俺はギルドなんぞ作っていないぞ」
「むっ? アリサ殿とそなたはギルドとして活動しているのではなかったのか」
「違う違う。互いに無所属だ」
「それは意外だな」
自分でギルドを設立するのも悪くない。
国王と話していて、そんなことを思った。
「そんなわけでギルドじゃないけど、それでも問題ない用件か?」
話が逸れすぎる前に軌道修正。
「まぁ問題なかろう」
「なら依頼内容を教えてくれ」
「違法奴隷業者の特定及び党閥をお願いしたいのじゃ」
「違法奴隷業者? なんだそれは」
「知らぬのか」
驚いた様子の国王。
知っていて当然の知識みたいだ。
アリサを連れてくるべきだった、と後悔する。
「実は世俗に疎くてな。教えてもらえないか」
「よかろう」
国王は深く座り直してから話した。
「知っての通り、この国には奴隷制度が存在するじゃろ」
その時点で知らなかった。
しかし、「そうなのか」と驚くわけにもいかない。
話の腰を折らない為、俺は「そうだな」と相槌を打つ。
「奴隷制度には厳格な決まりがある。簡単に云うと、奴隷になる人間と奴隷の主になる人間の双方が合意することで初めて奴隷になるのじゃ」
「ふむふむ」
「そして、奴隷の売買を行う奴隷商じゃが、これは免許制となっておる。厳しい審査を通った者しか、奴隷を売ることは禁じられておるわけじゃ」
話が見えてきた。
「違法奴隷業者というのは、免許がないのに奴隷を売っている者のことか」
「さよう。そして、売っている奴隷も合法ではない」
「というと?」
「洗脳や催眠などの手段で奴隷にしているのじゃ」
「本人の意思をねじ曲げて合意させるわけか」
「その通り。奴隷に装着する首輪じゃが、アレは〈隷属の首輪〉という。アレは対象に何でも言うことを聞かせられる効果を持つが、その効果を発動するには双方が合意する必要がある」
「なるほど。その首輪があるから、奴隷をただ解放するだけじゃ意味がないのか」
「さよう。奴隷の主たる業者を叩かなければ解決しないのじゃ。この問題は根強くてな、これまでは〈白銀の紺碧〉に依頼しておった」
「それがどうして俺達になったんだ?」
「解散したからじゃよ」
「えっ」
「先日、マスターのフリックがギルドを解散した。お主との決闘に敗れたことで、己の未熟さを痛感したらしい。0から鍛え直すと言って姿を消してしもうた」
「そうだったのか」
まさか〈白銀の紺碧〉が解散してしまうなんて……。
なんの思い入れもないけど、一瞬だけ罪悪感を抱いた。
「そこでそなたに白羽の矢が立ったわけじゃ。そなたなら、独自の特殊能力で業者の居場所を洗い出し、叩きのめすことができるのではないか?」
「まぁ、余裕だろうな」
「そう言うと思った。〈白銀の紺碧〉ですら、『売り子』と呼ばれる末端の奴隷商を特定することしか出来なかった。その後ろに控える巨大組織を潰すには至らなかったのじゃ」
「かなり規模の大きな組織なんだな」
「相当なものじゃよ。他所の国にも手を広げている、と噂されている。隷属の首輪を自分達で作れるという時点で、その組織力は計り知れない」
「裏世界の大物というわけか、面白い」
多少の暇つぶしにはなりそうだ。
そう考えた俺は、二つ返事でこの依頼を引き受けた。
「国を挙げて協力させてもらう。必要な物があればいくらでも要請してくれ」
「安心するといい。必要な物など何もない。俺が1人で片付けるよ」
俺は話を切り上げ、謁見の間を出て行く。
そんな俺に、左右に突っ立っている者共が平伏した。
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