絶対に倒せない魔物②
街を出てすぐの草原で、絶対に倒せないスライムと発見。
一目見て、そいつが目的のスライムであると分かった。
見た目は他のスライムと同じだが、動き方が明らかに違う。
通常のスライムがぴょんぴょん跳ねるのに対し、そいつは滑っていた。
スーッと、氷の上を滑るように動いているのだ。
「今度の挑戦者はお前かぁ!」
俺に向かってスライムが言う。
話に聞いていた通り、人の言葉を話せるようだ。
「お前が絶対に倒せないスライムで間違いなさそうだな」
「いかにも! オラの名はリムノーレ!」
「スライムの癖に名前があるのか」
「ただのスライムと一緒にするでないわ!」
リムノーレが擬態を披露する。
他の魔物や人間など、色々なものに姿を変えていく。
そのクオリティは高く、もはや擬態というより変身だ。
「こんなことができるスライムは世界でもオラのみ!」
「なるほど、そういうことか」
「なにを納得している……?」
「悪いがお前のことはもう分かったよ」
「なに……? どういうことだ!?」
「お前、〈転生〉した元人間だろ」
リムノーレからは別世界のオーラを感じる。
それに全身からほとばしる魔力はスライムでなく人のものだ。
「ななななーっ!? 貴様、何故それを!?」
「やはり図星か」
別の者に魂を宿して生まれ変わる行為――転生。
「まさか貴様も転生者なのか!?」
「真の強者は転生なんぞに頼らずとも死なん」
このスライムには、前世の情報が上書きされている。
人格、記憶、能力、エトセトラ……。
つまり、姿はスライム、中身は人間なのだ。
「おおかた人間に転生しようとして失敗したクチだろう。お前はこの世界の人間なのか? それとも別の世界からやってきたのか?」
「別の世界だが……貴様、どうしてそこまで詳しいのだ? まさか貴様も、オラと同じで賢者なのか?」
「賢者ではない、ただの最強だ」
「最強だと!?」
「賢者ってのは魔法の勉強しかしていないザコのなるもの。真の強者をそんなザコと一緒にされては困る」
「賢者がザコだと……? なら貴様はオラを倒せるというのか!? この全てを無にするぷにぷにボディを突破できるというのか!?」
そういえば、絶対に倒せないスライムを倒す、というのが本題だった。
コイツが転生者と分かって興ざめしたことで、すっかり忘れていた。
「楽勝だ」
「ならば証明してみろ!」
「いいだろう。冥土の土産に教えてやるさ」
俺はリムノーレに掌を向ける。
そして、対象の魔力を吸収する能力を発動した。
「お前の装甲は魔法によって成り立っている。つまり、魔力を奪いきれば無敵ではなくなる」
「たしかに理論上はそうだ! だが、それが分かっていても意味はない! オラは独自の魔法術式により、極めて少ない魔力の消費でこの装甲を維持している。さらに別の魔法によって、魔力を超高速で生み出している。この魔法は負荷が強く、人体では耐えられなかったが、スライムの身体であれば余裕。つまり、どれだけ魔力を吸収しようとも、オラの魔力が底を尽きることはない!」
「ふっ」
思わず笑ってしまう。
「何がおかしい!」
「何も分かってねぇよ、お前」
「なに!?」
リムノーレが気づいたのは、それから数秒後のこと。
「こ、これは……! オラの魔力が減っていく……!」
「そうだ」
「どうして!? どうしてだ!?」
「どうしてもこうしてもない。単純なことだ。お前が魔力を生成するよりも遥かに速く魔力を奪っているに過ぎない」
「なんだとぉおおおお!? オラは賢者! 大賢者リムノーレだぞ!」
「大賢者だろうが、真の強者には及ばない」
みるみるうちにリムノーレの魔力が俺に吸われていく。
「だがまだ勝負は分からない! オラの魔力量は常人の比ではない! 貴様の魔力許容量がいかほどかは知らぬが、いずれは上限を超えるだろう! そうなった時、貴様は魔力の暴走によって死ぬ!」
「面白い、ならば試してみようじゃないか」
俺はさらに超高速で魔力を吸い込む。
そして、最終的には、全ての魔力を吸い尽くした。
「そんな……オラの魔力を……完全に……」
「これが最強と賢者の差だ」
「あり……えん……」
案の定、結果は俺の勝利だ。
絶対に倒せないと謳われた装甲が消えた。
今のリムノーレはただのスライムと同じである。
「じゃあな、転生賢者」
「ま、待って! 待ってくれ!」
トドメを刺そうとした時のこと。
リムノーレが俺の前でぎゅーっと小さく縮んだ。
それが何を表しているのか分からないので、次の言葉を待つ。
「この通りだ! 殺さないでほしい!」
どうやら命乞いだったようだ。
「オラはこの数日で100を超える冒険者と戦った。しかし、誰一人として殺していない。一般人にも危害を加えていない。殺そうと思えば殺せたが、そんな気がなかったので殺さなかった。それに免じて、オラを殺さないでほしい!」
「なるほど」
「そして、可能であれば貴方様と共に行動させてほしい!」
「はっ?」
「オラは今日の今日まで、自分を凌駕する者がいるとは思わなかった。だが、貴方様がいた。オラより遥かに強い、貴方様が。だから、貴方様の下で過ごさせてほしい。誰にも危害を加えないし、可能な限り協力するから!」
「ふむ……」
リムノーレの気持ちには納得の余地があった。
ある種、俺も同じような境遇の人間だからだ。
だから、俺は承諾することにした。
「いいだろう」
「本当か!?」
「今後、俺のことはジークと呼べ。貴方様ではない。呼び捨てで結構だ」
「分かった! ありがとう! ジーク!」
「それと、俺には仲間がいる」
「ジークの仲間……ということはそいつらも強いのか?」
「いや、仲間は2人いるが、どちらもお前より弱い」
「な、なんだって!? どうしてそんな奴等と仲間に!?」
「それは些末なことだから気にするな。それよりも、仲間の内の一人が、この国の王女だ」
「なるほど! オラに王女の護衛をしろということだな!」
「その通り。あと、王女に魔法を教えてやってくれ。といっても、強烈な魔法は教えなくていい。いざという時の護身に使えるような魔法だ。失敗しても問題のないやつ」
「分かった! 任せるがいい!」
「では街に戻ろう。まずは冒険者協会に行って、お前が俺のペットになったと報告する。そう言っておけば、お前を倒す必要がなくなるからな」
「なるほど、賢いな。賢者よりも賢い」
「真の強者とはそういうものだ」
俺はリムノーレを連れて街に戻る。
こうして、絶対に倒せないスライムが仲間になった。
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