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絆の星のアステリズム  作者: 赤月
24、ヴァージョンアップ・ファイト
9/81

9、新たな敵

 激突の火蓋が切って落とされる。

 戦車を引く巨牛が地面を蹴って頼火へと突進してきた。

 その速さは雷鳴の如く。

 地を砕き大気を乱して進むことは野火のようであった。

 その速さはとても頼火に目視できるものではない。ゆえに、アンカーが頼火にしたアドバイスは一つ。

 相棒からの助言に従って頼火は、巨牛が地を蹴ると同時に自らの足元を思い切り殴りつけた。頼火が殴った場所を中心に亀裂が走り、地盤が沈む。

 巨牛の速度は速く、一足にて頼火との間合いを詰めるほどであった。

 ゆえに巨牛は、突如として不安定となった足場に飲みこまれて前のめりになる。そして当然、巨牛の曳く戦車に乗っていたマルフィクは投げ出されるようにして頼火の頭上へと放り出された。


「スターフォース・フェニックス」


 頼火は右の拳を握り、叫ぶ。

 その右手には赤く輝く炎のような光が収束していた。狙いは当然マルフィクである。

 今、マルフィクの槍の射程は頼火を収めていない。加えて不安定な状態。そこに頼火のもつ唯一の遠距離攻撃を叩きこむ。それが頼火とアンカーの作戦だ。

 真下から突き上げんとして自分を狙う頼火を見下ろしてマルフィクは楽しそうに笑う。

 いい作戦だと認めたのだ。

 そして、認めた上でマルフィクにはまだ手があった。

 まさに頼火が集めた赤い光を放とうとした、それよりも先にマルフィクが空中で体を捻る。全身のバネを利用して空中で勢いをつけながら、手に持った槍を頼火めがけて投げつけたのだ。

 その穂先は頼火が技を放つ前に頼火の体を貫くだろう。

 槍がマルフィクの手から離れるまでのわずかな間、頼火はどうすべきかを考えた。そして攻撃を放つ動作を速めることにした。

 マルフィクが投擲を行い、わずかに遅れて頼火も技を放つ。

 赤い光の奔流と漆黒の槍が衝突した。

 結果は、頼火の勝ちである。赤い光は天井にまで槍を弾き飛ばした。しかしそれだけである。迷ったせいで動作が遅れ、マルフィクに攻撃を当てることはできなかった。

 マルフィクは口笛を吹いて巨牛を落下予測地点へ呼ぶと戦車の上に着地した。やがてその手の上には狙ったように弾き飛ばされた槍も落ちてきてストンとマルフィクの手に収まる。


『一回目は引き分けか。ならもう一度行くぜ!!』


 そう叫んでマルフィクは再び巨牛に突進の構えを取らせた。

 再びの突進に備えて頼火が身構えた。そのときである。頼火の横に射水が降ってきた。比喩ではない。文字通り、真上から降ってきたのだ。


「い、射水?」

「頼火、大丈夫?」


 派手な登場に面食らいながらも頼火はうなずく。射水はめずらしく少し顔に焦りを見せていた。


「そっちこそ大丈夫だったの?」

「ええ。その話はあとで話すわ。あと、満さんは大丈夫よ」

「ありがと。じゃあ――とりあえずよろしく!!」

「ええ、任せて」


 何を、とは頼火も射水も言わなかった。二人にはその言葉だけで通じていた。


『増えたか、あの魔術師め――。いや、まあいい。行くぜ!!』


 射水が来たことに少しだけ眉を顰めつつもマルフィクは止まらない。元より一人で二人を倒す気概でいたためそこまで気にしている様子はない。むしろ好都合とさえ思っている。

 吶喊してくるマルフィク。

 迎え撃つべく二人が構えたその時、二人の体が閃光の如く眩い光を放つ。その光はほんの一瞬であったが、光が晴れた時には二人の姿が変わっていた。

  頼火は両手に赤く輝く羽が何枚も付いた姿に。靴は金色に変わり、そのつま先は鳥の鉤爪のように鋭く。こめかみに金色の鳥形の髪飾りで飾っている。

 射水は頭に銀色の、山という漢字をさかさまにしたような冠をつけている。それの中央からは背中のほうにかけて白い、枝分かれした角が生えている。腰の後ろのあたりからは龍のそれを想起させる水色の尾を生やし、両肩にはそれぞれの半身を覆うような水色のマント。

 以前に二人が一度だけ変身したことがある姿だった。

 その変化にしかしマルフィクは気づいていない。

 念頭にあるのはただ槍を振るうことのみ。標的は先ず頼火だ。先ほどの一撃を止められた屈辱があり、それをぬぐうためにもまず頼火からという考えである。

 無論、マルフィクにはこれまで二人が奈落の使徒と戦ってきた際の戦法や技能などの情報はあり、射水のバリアの堅牢なことも知っていた。ゆえに、頼火を狙えば射水は頼火を守るだろうということも予想がついている。

 知った上で、マルフィクは細工らしい細工をしなかった。

 己の力への自負である。邪魔だてしようものならドラゴン・ストリームの守りごと貫かんという気概を胸に真っ直ぐに槍を振るう。

 戦車の突進が止まる。

 それは頼火が巨牛の両角を手で掴んで勢いを殺したからだ。

 だが完全に止まりはしない。頼火の体は巨牛の勢いに押され、ゆっくりとではあるが電車道を引きながら背後へと下がっていく。

 そしてそんな頼火などマルフィクにとっては的でしかない。戦車の上からその無防備な胸めがけて槍の一突きが放たれる。

 当然、射水がそれを許しはしない。

 頼火と槍の間に青い障壁が現れる。マルフィクは構わず槍を振りぬく。その一撃はバリアを貫くことは叶わなかった。しかしパキン、とひびをいれることはできた。無理と分かった瞬間にマルフィクは槍を手元に引き、すぐさま二撃目を放つ。

 狙いはバリア、それも一撃目にひびを入れた場所と寸分たがわず同じ位置を。

 射水のバリアは確かに堅く、今までに傷をいれられたことはあっても一撃で破られたことはほとんどない。そして射水のバリアの優れている点として、亀裂をいれられてもそのバリアを消して再び展開すれば強度は変わらないということである。

 だからマルフィクの狙いは、亀裂をいれてから射水がバリアを展開しなおすより先に連撃を放つ。

 ほとんど一瞬のうちに同じ軌道に二撃の突きを放つ。それは言葉では単純だがた易いことではない。しかしマルフィクにはそれをやってのけるだけの技量があった。

 ただし相手が悪かった。

 技量においてマルフィクは二人を凌駕している。

 しかしマルフィクが相対している二人――特に頼火は、技量の差を力に頼って解決しようとし、そしてそれができてしまう存在であった。


「おーりゃぁぁぁぁッッ!!」

『な――ッ!?』


 頼火は巨牛の角を掴み、そのまま真上に持ち上げる。当然、巨牛の曳いていた戦車も宙に浮く。しかしマルフィクの体が戦車から振り落とされることはない。

 なぜなら、頼火は牛を持ち上げるやいなや、その場でぐるぐると回り始めたからだ。

 ダークフィールドの中に竜巻が起こる。その勢いはとどまることを知らず、むしろ加速していった。

 当然、その渦の中にいるマルフィクにはもはや突きを放つどころではない。どうにかしてこの中から逃げ出さねばというただそれだけに必死だった。

 しかし頼火はそれを許さない。

 回転をある程度加えたのちに、頼火は腕の角度を急転させ、巨牛と戦車を渾身の力で地面へと叩きつけた。


「スターフォース・フェニックス!!」

「スターフォース・ドラゴン!!」


 頼火と射水が手をつなぐ。

 二人を包むのは虹色の光の奔流だ。高く、高く。どこまでの伸びていく光の柱は、フォザードが生み出したダークフィールドさえも打ち消していく。


「「ツイン・スター・アステリズム!!」」


 二人がつないだ手を巨牛とマルフィクに向かって放つ。

 光線が放たれた。マルフィクは巨牛を盾にするが、光線はあっさりとそれを飲みこんで黒い粒子へと変えた。そしてマルフィクにも届きそうになったその瞬間。

 光線が真っ二つに割れた。

 横一文字に両断されたのだ。

 宙にマルフィクの前には庇うように一人の男が、立っていた。そこは空中であり足場のようなものはないにも関わらず悠然と立っているのである。

 ラサルハグウェである。肩には口を開けた蛇の装飾をつけた日本刀の峰を当てている。


『気は済んだか、マルフィクよ』


 ラサルハグウェは自らの部下をたしなめるように、しかしどこか揶揄うように気さくに言った。


『団長殿……。申し訳ありません、不覚を取りました』

『なに、気にするな。次があればその機会に挽回すればいい。それよりも――魔術師殿に助勢の礼を言うのを忘れぬようにな』


 そう言うとラサルハグウェはちらりと上空から頼火と射水を見て、それからマルフィクとともにどこかへと消えていった。


「何よ、あれ?」

「まだ見たことない敵、よね?」


 まだ見ぬ敵を前に二人は身構えたが、あっさりと撤退したのを見て一先ず肩を撫でおろす。

 そして二人は変身はそのままに満の前へと向かった。


「えっと……その、満…………大丈夫?」

「あー、うん。まぁ、無事だ」


 頼火と満はお互いにどんな顔をしていいのかわからぬままちぐはぐな言葉をどうにか口にした。


「それよりも……本当に、頼火と龍波なんだよな?」

「まぁ……うん。残念ながらね」


 頼火は困ったように笑いながら変身を解いた。

 そして照れくさそうに頬をかく。


「ごめんね、前はなんだか偉そうなこと言っちゃって。あれ、言ったのが私だったってなると白々しいわよね」

「そんなこと、ないさ。むしろ今は……うん、私の存在は無駄なんかじゃないって頼火に言ってもらえんただってわかったから――それは素直にうれしいよ」


 真っ直ぐな声だった。しかし言葉にしてから気恥ずかしさが込み上げてきたのか、照れくさそうにそっぽを向いた。


 ■■


「これで一件落着ね」


 射水はにこやかな笑顔を浮かべてぽんと手を打った。

 もうさっきまでのことなど忘れてけろりとした顔をしている。


「龍波、お前ってほんとマイペースだな。なんかそのあたり、たぶん真紀といい勝負だぞ」

「ってかそもそもあの時は射水が私と満を二人きりにしたから――いや、まぁその、感謝はしてるけどさ」

「だって、あの時はああするのが一番いいなって思ったんだもの」

「とりあえず満。その、さ――。私たちの正体はみんなには秘密で!!」

「まあ私はいいけど、龍波は委員長くらいには話してないのか?」

「話してないわ。なんだか凜にはそのうちバレちゃいそうな気もしてるけれど……今のところ大丈夫なはずよ」


 射水は曖昧に言葉を濁した。

 凜も満よろしく奈落の使徒絡みの事件に巻き込まれたことが何度かあり、そのうち何かのはずみに露見してしまうかもしれないと射水は思っていた。


「でも委員長って案外とそういう勘するどそうだよな」

「そうなのよねぇ……」


 射水は困ったように、しかしどこか他人事のようにため息をついた。


 ■■


「そういや龍波。お前さ、あの……狐になんか言われてなかったか」


 満の言葉に射水はうつむいて黙りこんだ。満は迂闊なことを言ったかと思い、申し訳なさそうにしていた。


「いや、気にしないで。うん、そうね。言っておかなくちゃ。ねえ頼火。フォザードがね、去り際に言ったのよ」

「……その感じだとあんまりいいことじゃなさそうね」

「うん。――もうすぐアルネロスが、万全の状態で私たちの前に現れる、って」


 アルネロス。

 それは頼火と射水、特に頼火とアンカーには因縁浅からぬ奈落の使徒の名であった。

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