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絆の星のアステリズム  作者: 赤月
24、ヴァージョンアップ・ファイト
7/81

7、大丈夫!!

 二人は変身し、名乗りを上げてから自分たちの姿が以前と少し異なっていることに気付いた。

 しかし初対面であるマルフィクは当然ながらそのようなことに気付くはずはない。ようやく変身した二人を前ににやりと笑みを浮かべた。


『いいぜ、そうこなくっちゃな。さァ、存分に楽しもうぜ!!』


 マルフィクは両腕を大きく広げた。その両手には赤黒く禍々しい光が収束している。

 何かを仕掛けてくる。二人がそう警戒しているとザクッとマルフィクが地面を蹴る音がした。そう認識した瞬間にはもうさっきまでの場所にマルフィクの姿はない。

 マルフィクは両手に集めた光を至近距離から放つ算段だ。

 隙を突いたはずであった。決まる、マルフィクがそう確信した次の瞬間、その体は華麗に宙を舞っていた。もちろんマルフィクの意志に反して。


『な……ッ!?』


 ズドン、といい音が響く。

 マルフィクは何がなんだかわからない顔をして頭から地面に落ちていた。


「遅いわね」


 突撃してきたマルフィクを真っ向から殴り飛ばした頼火は平然とした顔で言った。

 射水はその横で自然体で立っている。警戒心はあっても緊張感がない。とても自然体で落ち着いているのだ。


「アンタ、よくその程度の実力であんな大口叩けたわね」

『うるせェ!! 今のはちょっと油断しただけだ!! 今からが俺の本領発揮なんだよーッ!!』

「どうして最初から本気を出さないの?」


 射水がきょとんとした顔で訊いた。

 挑発しているような言葉ではあるが恐ろしいことに射水にその意図は一切ない。ただ純粋な疑問を口に出しただけなのだ。

 無垢な瞳に見つめられてマルフィクは言葉に詰まった。


『そ、それはだな……』

「「それは?」」

『うるせー、俺の勝手だろうがッ!!』


 マルフィクがその場で拳を振りかぶる。その手から真っ直ぐ二人に向かって赤いレーザー光線が飛んだ。

 しかしその攻撃は二人には届かない。

 射水が右手を前に出す。その手の先に円形の盾のような青いバリアが現れた。レーザーはそれと激突して霧散する。射水のバリアには傷一つない。


『なんだよ、これもダメなのかッ!!』


 一人で地団太を踏んでいるマルフィクは駄々っ子のようで頼火と射水は肩透かしを食らった気分になった。

 奈落の使徒と名乗った以上、敵であることに違いはないのだが、基本受動的な射水はともかく敵に対しては好戦的な頼火でさえ、マルフィクを敵と見なして倒そうと言う気がまるで起きなかったのである。


「……ねぇ射水。なんか、すっごい調子狂うんだけど」

「なんていうか、悪い人じゃないのかもしれないわね」


 どうするべきか二人は迷っていた。

 そこに。

 ひらり、と空から何かが落ちてきた。

 黒い、トランプのカードくらいのサイズの紙きれだった。頼火も射水も、そしてマルフィクもそれに目をやった。紙切れはひらひらと風にゆられながら地面に落ちた。しかし何も起きなかった。

 しかしそこで三人は、そもそも何故自分たちはこんなただの紙切れに意識を割いてしまったのかという疑問を抱く。


「頼火!!」


 射水が叫ぶ。

 言われて頼火も気づいた。自分たちの周囲を黒い霧のようなものが包んでいるのだ。それは頼火と射水とマルフィク、そして満を包みこんで濃くなっていく。

 そして霧が晴れたとき、そこは先ほどまでいた場所ではなかった。

 そこは地下のような空間だった。周囲を灰色の壁に囲まれている。天上の壁も同じ色だが、その高さはざっと五十メートルはありそうだった。とにかく高い。

 そして周囲にはあちらこちらに大理石の円柱が天井まで伸びている。

 明らかに頼火たちの世界から隔絶された空間だった。


「これって……」

「ダークフィールドよね」


 それは奈落の使徒が用いる戦闘フィールドである。

 しかしそれはマルフィクが展開したものでないのは瞭然だった。何故ならマルフィクも突然ダークフィールドが展開されたことに驚いていたからである。


『やれやれ。私はただ傍観に徹するつもりでいたのですがね』

『な、狐野郎!?』


 マルフィクの横にはいつの間にかフォザードがいた。

 呆れたような、困り果てたような顔をしながら、錫杖を右手にもったままで腕を組んでマルフィクを見つめている。


「フォザード!! もしかしてあなた、最初からこれが狙いだったの!?」


 フォザードが現れたことで射水の表情が変わる。キッとまなじりを裂いて叫んでいた。

 射水の言っているのは、この場に満がいることだ。守るべき対象が近くにいては頼火と射水は戦いにくい。それを狙っての卑怯な手段だと射水は非難しているのだろう。

 しかし頼火は――確かに、満を巻き込まれたという怒りは射水同様にあった。

 だが射水のそれは見当はずれだろうとも思っている。


『おやおや、これはドラゴン・ストリーム。そちらのお嬢さんのことに関してはただの事故ですよ。私はただ、劣勢である同僚に少し救いの手を差し伸べたにすぎません』


 フォザードは芝居がかった、生ぬるい粘着性をもった喋り方をした。聞くだけで苛々がつのるような、カンにさわる声である。

 だがその調子は最初だけであった。

 付け足すように言った。


『実際、私も自分自身に困っていましてね。どうにも私らしくないと』


 それは言葉通り、表裏なくそのままの意味のようである。やや大仰に肩を落とす仕草をしたが、頼火にはそれが偽りだとは思えなかった。


『余計なことをするなよ、狐野郎』

『それは失礼。実際に私も、そう思いますよ。ですがやってしまったことはもう取り消せませんからね。一つ、勝手に助力させていただきますよ』


 そう言ってフォザードは許可も得ぬままマルフィクの横に立ち、手に持っていた錫杖を構える。


『あちらは二人。そしてこちらもこれで二人です。何事もフェアなほうがいいとは思いませんか?』

『……そうだな』


 マルフィクは少し考えていたが、やがて納得したように手を打った。


(短絡的で向こう見ずなのはテリオンやアルネロス殿と似たり寄ったりですが、拘りがないあたりは二人と違うので楽でいいですね)


 フォザードは心の中でそんなことを考えていた。


『奈落に呑まれし星屑よ。黒き光にて蘇れ』


 そう言ってフォザードは錫杖を指揮棒のように振るう。その切っ先はペンのように空中に魔法陣のような紋様を描いた。そしてその中からは無数の黒いトビウオが出現し頼火と射水へ飛んでいく。大きさは普通のトビウオだが数が多い。五十や百では済まないだろう。

 頼火と射水だけであれば大した問題ではなかったが、今は二人の後ろに満がいる。


「一掃するわよ射水」

「りょうか――ッ!!」


 二人は力を合わせることで強力な光線技を放つことができる。それをやろうとしたのだがかなわなかった。

 トビウオの群れの中をマルフィクが突進してきたのだ。

 今度は確実に、その拳が頼火の喉元に命中する。マルフィクの勢いはなおもやまず、右手で頼火の首元を掴んだまま円柱へと突進し、砕いて真っ直ぐに進み続けていた。


「頼火――!!」


 射水の叫びは届かない。

 頼火とマルフィクはもう見えなくなっていた。

 射水は仕方なく満の横にいき、自分と満を覆うようにドーム状にバリアを展開する。トビウオはその周囲をぐるぐると飛び回りながら体当たりを仕掛けてくるが射水のバリアはびくともしない。


「……なあ、頼火は大丈夫なのか?」


 射水に守られながら満は不安そうだった。顔色は晴れず、肩を震わせている。

 しかし射水はそんな満の態度を、その言葉を聞いて思わず口元に笑みを浮かべた。


「な、何がおかしいんだよ龍波?」

「ごめんなさい。でも……こんな状況でも高丘さんは頼火のことを心配するんだなって思っただけよ」

「そりゃ……だって、頼火だぞ。危なっかしいし、私があいつのこと心配するのは昔からっていうか」


 射水の言いたかったことは、この状況で満が自分の心配というものを棚に上げていたことなのだが満はそういう意識がそもそもないようである。


「頼火なら大丈夫よ。だって頼火だもの」


 射水は自信に満ちた笑顔で言いきった。

 その言葉、根拠とするところにはまるで客観的な説得力というものがない。しかし満はそう言われて不思議と納得してしまった。


 ■■


 頼火はマルフィクによって射水や満たちと大きく距離を取らされてしまった。

 マルフィクは今もなお頼火の首元を掴んだまま走り続けている。


「いい加減に……離しなさいッ!!」


 首根っこを掴まれた状態で、そんなことはおかまいなしに頼火は右の拳をマルフィクの顔面に向けて放つ。躱すためにマルフィクはその手を放し、そこでようやく移動は終わった。

 すでに射水たちと頼火との距離は遠く、ぼんやりと遠目に見ることしかできない状態であった。

 射水たちのほうを気にするそぶりを見せるとマルフィクは口元を釣り上げた。


『なんだァ、お仲間が心配か? それとも一緒にいたあの小娘のほうか? どっちにしろ気にしたって無駄だぜ。お前は逃がさねェ。助けに行きたきゃ俺を倒していくんだな』

「そうね……。気にはなるわ。でも心配はしてないわよ」

『なんだよ、存外と薄情なのかお前?』


 すっかり上機嫌になってマルフィクは呵々と笑う。

 実際、同じような状況にありながらマルフィクはフォザードのことなどまるで心配していない。いや、そもそも歯牙にもかけていない。戦い易い状況を作ってくれたことに多少の感謝はしているがそれだけだ。射水に勝とうが負けようが大した問題ではないし、一瞬で負けて射水がこちらに来ても今なら纏めて倒せるという自負がある。

 マルフィクにとって他人の心配をしないというのはそういうことであった。

 ゆえに頼火がどうして射水を心配していないのかがわからないのである。


「私の相棒を――私の友達を甘く見ないでよね」


 それは信頼だった。

 何度も共に戦ってきたことで培われた互いへの信頼ゆえに、頼火も射水も一人で戦う状態になっても互いのことを気に掛けはしても変に不安がったり焦ることはないのである。

 ふぅんと興味もなさそうに鼻で笑って、マルフィクは再び頼火に突撃を仕掛けた。

マルフィクくんは、まあ面白いやつですよ彼は。


……なんでこうなったんだろう?

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