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絆の星のアステリズム  作者: 赤月
24、ヴァージョンアップ・ファイト
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6、新たな敵・マルフィク

 頼火と射水は二人並んで歩いていた。

 なるべく自然をよそおいながら。

 その様子は後ろから見ればどこにでもある中学生の下校風景だが、前から見ると二人の顔に笑顔はない。

 頼火は目が点になって、どうすればいいのかわからないと言った顔をしていた。

 射水は後ろからはわからないようにちらちらと目線を泳がせながら頼火の反応をうかがっている。


「……どういうわけよ? なんで私たち、満に尾行されてるの?」

「もしかして、私たちが悪いことしてないか監視してるんじゃ?」

「なんで?」

「いやその……前に私、私と頼火が何をしてるのって高丘さんに訊かれたことがあってね。そのとき私、なんて誤魔化せばいいかわからなくなって、悪いことはしてませんって言っちゃったの」


 少し前にも満は頼火と射水が何をしているのか気になっていたことがあった。そして射水と二人でいるときに訊いたことがあったのだ。そのときの射水はどう答えていいかわからず、結果として誤魔化しどころか誤解を招くような表現をしてしまったのだ。


「でも……誤解はちゃんと解けたと思うはずなんだけど」


 射水は不思議そうな顔をしていた。

 二人にはそれくらい心あたりがないことだったのだ。


「だいたい、ホントに満なの?」


 頼火はアンカーの察知能力を疑い始めた。言葉にはしないが射水も同じ気持ちのようである。

 これまでアンカーの察知によって何度も敵の出現を確認してきた頼火たちであるが、今回はさすがに信じられないという反応である。

 下手に後ろを向けば気づいていることに気取られると言われたので振り返って確認などしていない二人だが、振り向きたいという気持ちがあった。

 そうすればはっきりするのにできないもどかしさから頼火は段々と苛々し始めていたのである。


『間違いないさ。まぁそれでも信じられないってなら立ち止まって振り返ればいいんじゃないか。ただし……』

「「ただし?」」

『その時は俺たちのことと奈落の使徒のこと話しちまう覚悟をある程度したほうがいいだろうがな』

「なんでそうなるわけよ!?」


 頼火は可能な限り声を抑えながら怒ってはいるが、もはやいつ満に聞こえておかしくない。

 対してアンカーは落ち着いている。


『いやだって、お前らの……っつか頼火がフェニックス・ブレイズだってこと、たぶん高丘は気づいているぞ?』

「なんでわかるのよ?」

『いや、だって頼火お前――高丘の前で戦った時、思いっきりあいつのこと「みちる」って呼んでただろ?』


 頼火は言われてもすぐにはその時のことを思い出せなかった。

 その時は状況も特殊であったし、頼火は満が戦いに巻き込まれたことにいら立っていた。感情的に高ぶっており、取り繕うことをせずに素の自分として話していたのである。

 頼火はそこで確かに、満のことをいつものように名前で呼んでいた。

 それを思い出した瞬間、夏場だというのにだらだらと冷や汗が止まらなくなった。


「…………もう、バレてる?」

「わ、わからないわよ!! あの時は満さんもそこそこ混乱してたから案外気づいていないかもしれないわ!!」


 射水は必死になってせめてものフォローをいれるがそれはもはや気休めでしかない。

 なんとなくの直感ではあるが、二人は自分たちの正体が満に露見していることを察した。


「……ねえ、どうする? もう言っちゃう?」


 射水はどこか諦めたように肩を落としながら頼火に訊いた。


「でも……できれば、言いたくないかな」

『それはあれか、変身ヒーローは正体不明がお約束ってやつか?』

「それもあるわ。でも――いや、もう諦めて腹括るわ!!」


 パチンと渇いた叫びが響く。

 頼火は自分の頬を思い切り両手で叩いた。自分に喝を入れたのである。


「ぐだぐだ思い悩んで言い訳して、関わりたくないこととは曖昧にして濁す私はもう終わりにする!! いいかしら、射水?」

「ええもちろん」


 射水はそう言って笑った。

 覚悟を決めて振り返ろうとした、その時である。

 地面が揺れた。

 空――二人の真上で何かが赤く閃いた。目がくらむほどの光に思わず二人を顔を腕で隠す。

 何かが降ってきた。それは粉塵をまき散らしながら二人の前に降り立つ。

 人の姿をしていた。だが頼火と射水にはわかる。明らかにそれは人ではないと。

 褐色の肌、錆びたような赤茶けた長髪。それだけであれば、何も知らない人間にはそういう人種としか思われないだろう。しかし二人にはわかる。


「奈落の使徒……よね?」

「こんなトンチキな登場の仕方する奴らがほかにいてたまるかって話よ!!」


 疑問符を浮かべる射水に頼火は怒鳴る。

 もちろん、あり得ない高さから降ってきて平然としているというのもだが、纏う雰囲気がただの人間ではない。

 陽気そうな青年だった。

 何が楽しいのか、とにかく満足そうににこにこと、それでいて見るものに怖れを感じさせる笑みを浮かべている。


『よォ、はじめまして嬢ちゃんたち。お前たちの武名は聞いてるぜ』

「先にこっちの質問に答えなさいよ!!」

『あァ、俺が奈落の使徒かってやつか? いかにもだ。俺の名はマルフィクっつうんだ。ま、陪臣(ばいしん)だけどな』


 得意げになって名乗るマルフィクを前に二人は、警戒したりするよりも先に耳馴染みのない言葉に首をひねった。


「ばいしんって、どういう意味なのかしら?」

「なんかそういや……あのサビクって女もそんなことを言ってたような気がするわ」

『陪臣っつうのは臣下の臣下っつう意味だよ。プリミティブ風に言うなら部下の部下だ』


 そこに、こういった面では一番知識のあるアンカーが補足をいれる。


「つまり、アンタの主人ってのは他にいるってわけね? 誰なのよそれ? フォザード? それともアルネロス?」

『ああ、そりゃ――っと、うっかり口を滑らせるとこだったぜ。団長殿と会ったことがないのならわざわざ名を教えてやる義理もないからな。俺はただお前らと戦えればそれでいいんだ、が……』


 マルフィクはそこでくいと顎をあげて二人の背後をさした。


『あそこで腰抜かしてる小娘はなんだァ? 最低限の人払いはしたはずなんだがな』


 言われて二人は背後を見る。

 そこでは満がぺたりと地面に座り込んでいた。

 目の前で起きている現象。不思議な単語の入り混じった会話が繰り広げられ、頼火も射水もその中に当たり前のようにいる。何が何だか理解できないと言った顔だった。


「満!!」


 二人は満のもとへ駆け寄る。

 満は二人が気づいてくれたことで少しだけ落ち着いたようだった。


『あァ、そっちのやつ。もしかして前にあの狐か蛇女かに何かされたのか? よくよく見りゃァわずかだが術耐性があるな』


 などとマルフィクは一人で解析して納得していた。しかしそんなことなど二人の耳には届かない。

 マルフィクに背を向けながら満の前に膝をつき、落ち着かせるように満の両肩を掴んだ。


「あの、満……これは――」


 どう説明すればいいのか、頼火はうまく言葉に出せなかった。

 満を落ち着かせるのが先か、自分が落ち着くのが先かといった具合で、頼火も決して精神的に安定しているとは言えない。


『水を差された気分だぜ。折角この世界までやってきて緒戦がこれかよ。俺はこれで一応、それなりに配慮っつうやつをしてやったんだが――なんか馬鹿らしくなってきたぜ』


 パチンと指を弾く。

 パン、と風船が弾けるような音がした。その音だけであればかわいいものだが、伴って起きた現象はお世辞にもかわいいと言えるものではない。

 頼火たち三人に向かって突風が吹く。ただしその風は人間を優に十メートルは吹き飛ばせるような突風だ。

 風にあおられてすぐ、アルタイスが水色のバリアを張った。三人の体は見えない何かに抑えられて吹き飛ばされることはなかったが、強い風に吹きつけられていることに変わりはない。十秒ほどしてようやく風が止んだ。

 しかし三人は精神的にかなりまいってしまっている。


『俺は別にどっちでもいいんだぜ? 戦いに来たっつうのが本音だが、コロナ・ジュエルが手に入るんなら戦う必要もねェからな。選ばせてやるよ、好きにしろ。ただし逃がしはしねェ』


 腕を組みながらマルフィクはゆっくりと歩み寄ってくる。

 頼火も射水も満も、風にあおられた衝撃で倒れていた。

 しかし頼火と射水は、ゆっくりとその体を起こす。まだ倒れている満を庇うように。


『生まれたての鹿みてェだな。生身じゃお前ら雑兵以下なんだっけか?』


 起き上がる二人は無防備でマルフィクからすれば隙だらけであった。

 しかし何もしない。ただ眺めているだけである。


『ほら、変身しろよ。そうじゃないとつまらねェ』


 煽るようにマルフィクは笑う。その笑みは挑発だ。このままならば簡単に勝てるがそれではつまらないからと、二人に戦いを促しているのである。


「ねえ頼火……」

「わかってるわ、射水」


 二人は顔を見合わせてうなずき合う。

 それは覚悟を決めた表情だった。

 そして満もまた察した。二人の顔から、マルフィクの言葉から。


「満……。そこで待ってて。すぐに終わらせるから」

「安心して高丘さん。あなたは私たちが絶対に守って見せるわ!!」


 頼火はそう言って満に笑いかけた。

 その笑顔はいつも学校で見せるようなあどけないものだったが、しかし今の満にはとても頼もしく見えた。

 自分よりも背の低いはずの頼火と射水の背中が、とても大きく、そして頼もしく見えたのだ。


(あぁくそ……格好いいなこいつら)


 自然と笑みがこぼれていた。

 恐怖など、もう満の中にはない。満の目の前には、漫画や特撮の中から飛び出してきたようなヒーローたちがいるのだから。


「「我が身に宿れ、原初の世界の星辰よ!!」」


 頼火と射水が同時に叫び、右手を掲げる。

 その手に赤と青の光が宿り、握り手のついたリングが現れた。

 頼火の手には燃えるような炎の紋様が刻まれた、グリップの上に金の鳥型の宝石がはめ込まれた赤いものが。

 射水の手には、波うつような水色の紋様が刻まれていてグリップの上には銀色の龍の姿をした宝石がはめ込まれている青いリングが。

 ステラ・リングと呼ばれるそのアイテムを手に二人は叫ぶ。自分たちを戦う自分へ変身させるための言葉を。


「空に輝け勇気の火よ」

「大地を満たせ慈愛の水よ」


 頼火の体はオレンジ色の炎のような光に包まれる。熱を帯びてはいるがそれはすべてを焼き尽くす苛烈なる熱気ではなく、残冬の雪を溶かす春の日差しのように暖かいものだった。

 射水の周囲には、水のように青い光のラインが流れていく。それは見ているものを和ませるような穏やかな光だ。

 そして、それらの光が太陽のように眩い光を放って二人の体を覆い、爆ぜる。

 閃光に思わずマルフィクは腕で目を覆った。


「邪悪を払う情熱の翼――フェニックス・ブレイズ!!」

「心を守る悠久の大河――ドラゴン・ストリーム!!」


  頼火の姿は、紅色の、前側の開いたノースリーブの上着を羽織っている。上着と同じ色の紅色のズボンを着て、左手には鳥の嘴と翼の形のチャームのオレンジ色のリング状のブレスレットがある。そして髪の色は燃えるようなオレンジ色になり、左目から頬にかけて金色の鳥の紋様が浮かび上がっている。

 射水の姿は、淡い水色を基調としたワンピースタイプの服装に、青色のスパッツ。さらに濃い青色のブーツを履いたものへ。左手には龍のチャームをつけた青いリング状のブレスレットをつけ、髪の色は海のように青い色へと変わり、右目から頬にかけて東洋的な龍の紋様が浮かび上がっている。

 そして二人とも、両の手首から胸、そして足にかけて金色のラインが走っていた。


「さぁ、覚悟を決めなさい!!」

「今の私たちは、もう誰にも止められないわ!!」

 年内の更新はこれが最後になります。みなさんよいお年を!! そして来年もよろしくお願いします!!

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