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バトル・クライム  作者: 緑羅 贈
9/10

決戦

 試合(バトル・)会場(アリーナ)には、私たちの方が先に着いた。

 昨日、と言うよりは、日付が変わってすぐの今日。戦闘用に新調した、衣類を付けて。

「はぁ、はぁ、ふぅ。よし、大丈夫、大丈夫」

 気持ちを落ち着かせる。いつかこんな日が来ることは予想していた、覚悟していた、分かっていた。

 それでも、やっぱり緊張してしまう。

「なんだ、結局お前、動揺してんのか」

 ライフセイバーの格好に、ゴーグルをつけ、浮き輪を所持している、場違いな姿の猫男が言ってくる。

 その馬鹿馬鹿しさに、速まっていた鼓動が正常になって行くのを、感じ取れる。

「レストは、何だかノリノリだな。まあ、そのおかげで私も、こうして…来たね」

 私たちが入ってきたゲートの反対側から、暴食陣営が姿を現した。彼等の着ている服は、以前見た時と同じく、ツナギと呼ばれる作業着。

「こんにちは。白琉さん、レストさん。宜しくお願いします。ボクたち、全力を出しますから」

 暴食の動物、正体はリスのロニーカちゃんが、ポニテと巨乳を揺らしながら、笑顔を向けてくる。

「もちろん、私たちも手を抜く気は無いよ。最後まで、お互いに尽力しようね」

 暴食ペアは、私たちの衣装について、何も感想を述べなかった。そこまで望んでいたわけではないので、別にいいのだが。

 少しして、審判が現れた。

「これより、第2試合暴食陣営対怠惰陣営の試合を始める。両陣営の、健闘を祈る」

 審判が姿を消した。それが、試合開始の合図となる。数日前の約束が、果てる時が来た。

 いつもならここで身構えるが、今は不思議と、凄く自然な体勢を取っていられる。

 戦い始める前に、ちょっと話そうと口を開くと。

【作って(メイキング )食べて(イーティング)、(・)遊びましょう(エンジョイ ワンセルフ)】

 いきなり能力が発動された。構えの姿勢を取っていなかった私は、驚きの余り危うく扱けそうになった。

 慌てて気を引き締めた私に、暴食の化身ともいえるロリ巨乳なロニちゃんが、楽しそうに。

「ボク、言いましたよね。全力を出すって。ここまで一回も発動していないので、対策を練られているとは思えないのですが。どうですか」

 少女の能力は、説明することができない。なぜなら。

「ごめん、何も変わってない気がするんだけど。よく分からないから、どう反応すればいいのか」

 何かを出現させるわけでも、姿を変える訳でもない。むしろ、何の変化も見られないのだ。少女には。

 どうすることもできず、ただ相手が動きを見せる時を待っていると。

「本当に、男性って浅はかですよね。傲慢さんは、武器を何もない所から出したり。嫉妬さんは、ガラクタに魂を与えたり。ええ、それも便利だとは思うけど。でも、やっぱり一番必要なのは、技術ですよね」

 少女が、私たちにはっきり聞こえるように呟きながら、服の中から物を取り出した。

 小さくてよく見えないが、恐らく、B玉かそれに近い球体であると認識した。少女はそれを掌に乗せると、素早く握りしめる。そして、開いた時に掌に乗っていたのは、ただの球体ではなく。

「じゃ~ん。ほら、見てください。どうですか、ボクの能力。手品じゃないですよ。なんと、触った物体の構造を理解して、全く別の物体に作り替えることができるんです。因みにこれは、小型爆弾♡」

 暴食ちゃんは、喋り終わるのと同時に、爆弾をこちらに向かって投げてきた。威力がどれほどかは知れないが、何となくヤバい気がする。

 反射的に動くことができなかった私の目の前に、猫男が現れた。彼は、持っていた浮き輪で正確に爆弾を弾くと、庇うように私を包み込んだ。

 壁にぶつかったからだろうか。先ほどの小型爆弾は、騒音を響かせながら爆発した。

 猫男に手を離され、音のした方を向くと、何の異常も見られなかった。そのことに、吃驚していると。

「改造♪ 修復♪ 何でもござれ。ボクこそが、史上最強の鋳掛屋(ティンカー)。だけど暴食の、ロニーカちゃんだよ」

 キャラブレしているみたいに、ハイテンションの暴食ロリ。今すぐにでも、その跳ねる度に揺れる巨乳を鷲掴みにしたくなった。

 が、まずはペアの猫に、相談をしよう。

「どうしよう。あの子たち、絶対まだ服の中に、武器とか道具とか仕込ませてるよ。私たちは水着だから、そんなに隠せなかったけど」

 動きやすさばかりを意識して、隠し玉を用意し忘れた。今回の敵は、武器を器用に使い分けることを知っていただけに、ちょっと失敗した。

 猫男は、問題ないという感じの、得意気に満ちた顔で私の方を向いている。気がした。

 ゴーグルで目が隠れているせいで、確かな表情が読み取れないのだ。そんなの、陸で付けていたら視界の妨げにしかならなさそうなのに。

 それはそれとして、愛も変わらず良い声で、彼は私にこう言ってきた。

「以前の試合の様子、そして、あの能力。あいつらの基本攻撃は、銃や爆弾の単純道具だ。技を使えば、対して苦戦するはずはない」

 策があるのか、それともただの傲慢なのか。今は、彼の動きを見て判断しよう。

「オレがまず囮になるから、お前は奴らの行動や癖を、少しでもいいから見つけてみろ」

 久しぶりに、男の爪が鋭く伸びた。至近距離でしか攻撃を食らわせることができないので、余裕がある戦闘開始時でしか使えない。

 私に浮き輪を持たせたまま、彼は、敵陣に向かって攻め行く。仮にも、相手は能力を発動しているので、やり過ぎないように自重してもらいたいのだが。

「ああ、気を付けてよ」

 予想通り、相手はピストルやボムなど、小型の武器を駆使して猫男に攻撃する。しかし、慣れた感じで躱し進んでいく私のペット。日ごとに逞しく、そして、頼りがいのある背中になって行く彼に、流れ弾に当たる危険も気にせず、私は見惚れてしまう。

 目の前まで敵に迫った猫男が、狙ったのは。

「そっちから行くか」

 暴食の飼主、2mを超える長身のアリン君から。的が大きい分、当たる範囲も大きい。

 二人からの攻撃をうまく躱しながら、的確に体を裂いていく。猫の視野は、人より遥かに広いと聞いたが、仮に見えていたとしても、体がついて来なければ意味が無い。つまり、猫男は見て考えて動くという一連の流れを、瞬時に判断しているのだろうか。

 銃弾などは、固い爪で弾いたりもしている。

 そこら辺の剣となら、互角にやり合えるほど固く強い、彼の爪だ。そう簡単に、折れることは無い。

 アリン君のゲージの減少が、はっきりと確認できるようになった時。猫男が、なぜか緑色の猫に戻ると、敵に注意しながら私の足元にまで戻って来た。

 すぐさまその場に屈んで、どうしてか尋ねると。

「あれだけ狙われてて、無傷でいられると思うか」

 よく見たら、猫の右足から血が流れ出ていた。

「まさか、当たっちゃったの」

 当の猫は、掠り傷だからそこまで心配するなと言うが、懸念していた分少し悲しい。

 向こうも、動物が飼主の切り傷を、舐めている。

 傷口は消毒した方が勿論よいのだが、舌で直接舐めるのは、果たして効果があるのだろうか。

舐め終わると、先程、アリン君がレストに向かって撃っていた拳銃を手にするロニちゃん。少女は、両手でそれを握ると、物体を変化させていく。

その後、出来たのは大きめの絆創膏。丁寧に、飼主の傷口に貼る暴食の罪を宿したリス娘。

私は、回復薬どころか大した武器も持ち合わせていないので、慰めるためにできることと言えば。

「おい、どういうつもりだ」

 抱きしめるしかない。無い胸に、猫の顔を押し付けるようにして。少しでも、休んでもらうために。

 なのに、彼は離れようと暴れる。挙句の果てには、人間の姿になり強引に私の体を引き離した。

「ちょっと、何でそんなに嫌がるの」

 彼に文句を言った時、思わず驚いた。どうなっているのか、人型に戻った猫の衣装が、いつも通りの上から下まで緑一色になっているのだ。

彼は、驚く私を無視して叫ぶ。

「お前、そういう事は勝った後に部屋でやれ。いくらでも相手してやるから」

 向こうも照れているからなのか、思い切り恥ずかしいセリフを言い放ちおった。私も当然、恥ずかしい気持ちになった。それに、先ほど舐めたり舐められたりしていた暴食陣営まで、顔を赤くしている。

 なんだか、試合中に照れくさくなることが多々ある気がする。こちらも相手も。

 互いに辱を曝した中、誰よりも悶えている暴食の飼主が、ふと手を挙げた。そして、私に聞いてくる。

「最初から気になっていたんですけど。どうして、白琉さんは水着なんですか」

 多分、羞恥心のせいで今まで聞けなかったのだろう。吹っ切れた今だからこそ、長身男子アリン君は尋ねられたのだと思う。そうだとすると、こちらも性格に分かりやすく説明しなければならない。

「ふっふっふ、それはね。私には胸が無い、つまり、見られる心配が無いからなのだ。もし、ロニちゃんが水着だったら、私、絶対に凝視すると思うけど」

 最後に、本音も付け加えるサービスもした。

 言った途端、当のロニちゃんが不敵な笑みを浮かべた気がした。すると、ポニテロリは、首元まで上げている作業着のチャックに手を掛け、徐に一番下まで下げた。そして、自身気に。

「どうです、白琉さん。これであなたは、ボクに見惚れて攻撃できないはずです。さあ、アリン。今のうちに、怠惰の罪を倒そう。って、どうしたの」

 確かに、私の目は少女の巨乳に釘付けになった。が、それ以上に、少女の飼主が顔を両手で覆い、全く視界を遮ってしまっている。

 おまけに、勢いよくチャックを下げたせいで、服の中に隠していた武器や、能力で変形させようとしていたのであろう数々の物体が、床に落ちた。

 暴食娘の計算は、かなり杜撰なものだった。

 相手が自滅しているうちに、逆にこちらから仕掛けようと思った。それで、隣の猫男の顔を見ると。

「えっ。ちょっと、レスト」

 彼の目は、確かに暴食をとらえている。だが、どこか様子がおかしい。彼も男ならば、胸に目が行くのは当然と言えば当然なのだが、この場合は。

 どこか嫌な予感がした時、怠惰の猫男は呟いた。

「…旨そうだ」

 その瞬間、私の背筋に寒気が走った。

 多分、眼つきからして彼は、少女のことを性的にではなく、マジの捕食者として発言したのだろう。

 暴食娘の正体は、リス。対する、怠惰男の正体は猫、もとい、百獣の王ライオン。

 草食と肉食、種族的な問題だ。

 そう言えば、強欲戦の時も。相手が、真の姿のハムスターになった時、彼は興奮していた。そして、確か勢いに任せて攻めて、返り討ちに合ったんじゃなかったっけ。だとしたら、この流れはマズイ。

「レスト、落ち着いて…」

 遅かった。私が止める寸前に、彼は怪我をしているにもかかわらず、再び敵陣へと走り込んでいく。しかも、今回は鋭い爪も生やさないままに。

 気付いた暴食娘は、ずっと手で顔を覆っている飼主を庇うように前に立ち、凄い速さで床に落ちている武器を拾って構えた。

 私は、どうなるかただ見ているしかできない。

発砲音が聞こえた。これまでのいかなるものより、相当大きな音が。途端に、猫男の膝が曲がり、そのまま彼は床に手を着いた。

当たっただけでなく、かなり重い一発が直撃したのだと、私の中は不安と悲哀で溢れ出した。

しかし、後ろ姿しか見えないが、彼から血が流れているようには思えない。それに、床に手を着いただけで、倒れ込んだりはしない。一体、どうなっているのか分からずにいると。

考えてみれば何故か、追加攻撃ができる機会だったのに立っているだけの暴食娘が、突然倒れた。

増々意味を理解できないでいると、怠惰男子が立ち上がり、私の方へ戻ってくる。

奥では、アリン君が流石に、上半身下着姿で倒れている自分の動物へ、声をかけたり体を揺らしている。

帰ってきた猫男に、すぐさま尋ねる。

「レスト、説明して。貴方、何をしたの」

 彼は、面倒そうに返答する。

「影を伝って、やる気を頂いたんだ。互いの影を繋ぐ必要があるから、わざと地面に手をつき連結した」

 久しぶりに見た、猫男の影技。しかも、前に見たのは、相手のやる気を無くさせるものだった。しかし、今回彼は、やる気を頂いたと言った。

 といことは、この怠惰男子は今、やる気に満ち溢れていると言う事か。

 期待を込めて、猫に尋ねると。

「いや、やっぱりメンドくせぇ。技を発動するまでに力を使ったから、結局、対して頑張る気になれねぇわ」

 敵の動物が倒れている、絶好の機会だと言うのに。彼からは、斃す気力を感じられない。

 戦いは無情。私としても、この機は逃したくない。

 夢中で駆け出し、ロニちゃんの服から落ちた武器を一つ、手に取った。ドラグノフを。

 それに気付いたアリン君が、動物を床に寝かせて、直ぐに私に対抗してくる。

「たまには、飼主同士殺り合うのも、ありかもね」

 引き金は、こちらが先に引いた。

 さっき、レストが攻めて行った時、暴食陣営の行動をしっかり観察した。

 そして、半信半疑だが、癖らしいものを見つけた。

 アリン君は、背が高い分小回りが利いていない。簡単に言えば、動きが少し遅い。

 私が全力で動き回れば、きっと、敵の攻撃は当たらないはず。問題なのは、体力がどれだけ保つか。

 最低でも、猫男が動く気になってくれるまで粘ればいい。飼主同士だから、多分、向こうもこっちの動物には手を出さないはず。

 頭で考えたって、体がついて来なければ意味が無いので、とりあえず私は動き出した。スピード勝負を仕掛けるので、武器は扱いやすいものに変えた方が良い。

 最初に撃ったライフルは囮。こちらから攻撃することで、相手を一瞬怯ます。その隙に、今持っているそこそこでかくて扱いにくい武器を敵に投げつけ、さらに時間を稼いだところで、新たな装備品をゲット。

 私の戦闘スタイルは水着。服の抵抗が殆どないのが、功を奏した。

 床に落ちていたところを、無我夢中で掴んだ手榴弾のピンを抜き、キャッチされないよう、足元をめがけて投げつける。結果は、狙い通り。

 爆弾は、敵の真下の床で爆発し、飲み込んだ。

 爆破の衝撃をもろに受け、アリン君は膝から崩れ落ちている。ゲージも、今の一発でかなり減った。

 暴食の飼主は、残りが半分ほどに。動物も、4分の3ほどまで減少している。

 しかし、こちらが圧倒的有利という事ではない。私は大丈夫だが、レストの方が、暴食の飼主より少し多めに残っているくらいだ。

 現在、まともに立っているのは私だけ。この絶好のチャンスを、逃すわけにはいかない。例えそれが、仲を深めた相手でも。決して、手を抜かない。

 足を進める。床にはまだ、飛び道具を含め武器が沢山残っている。その中の一つ、小型の拳銃を手に取り。

「脳天をぶち抜けば、即死だろうな」

 頭をめがけて、銃口を構える。だが、指が動かない。心では撃とうとしているのに、体が動くのを無意識のうちに拒否してしまっているのだ。

 凍りついたように固い指を、無理やり動かそうとした時、暴食の動物であるロニちゃんがゆらりと立ち上がった。そして、近くで倒れている自分の飼主の元に駆け寄る。本当に、今ペアは互いへの思いやりが凄い。

 一方で、私の動物は。

「暫く様子を見ていたが。白琉、やっぱお前、あと一歩が踏み出せねぇな。折角、斃せたのに」

 いつも通り、猫背状態で起き上っていた。動けるなら、手を貸してくれればよかったのに。

 彼だって、体より口が先走っている。

「私だって、精一杯やったんだ。どうせなら、勝つまで無意識に攻撃を続けたかったさ」

 そうしたら、躊躇うことも無かったのに。

 などと、雑念が行動を止めていると。

「やってくれたね、白琉さん。直撃は避けられたけど、それでも、今の結構痛かったよ。ロニーカの二つ目の能力は、決勝で使いたいから。貴方には、僕の力で倒れてもらいます」

 致命傷を負ったはずのアリン君が、立ち上がって私に言ってきた。動物に何かされたのか、自力でどうにかしたのか。分からないが、とにかく警戒せねば。

 敵は、今から本気で私たちを、いや、最低でも私だけを、斃すつもりで来るだろう。

 レストは、私を守ってくれるのか。

幸運(ロシアン)な(ルー)(レッ)だけ(ト イズ)が( ラ)、(ック)生き残る( ヒューマン ステイ)】

 頭上に、新たな拳銃が出現した。

 アリン君が、笑みを浮かべながら説明する。

「今から皆で、ロシアンルーレットを行います。この銃は八弾式で、銃弾は三発分仕込まれていて、一人二回ずつ自分に銃口を向けて、発砲してもらいます。一発食らえばゲージは半分ほどなくなるので、運が悪ければ、白琉さんもこれで終わりですよ」

 その代わり、暴食(自分)陣営(たち)も脱落の可能性が大いにある、博打的能力だと言った。

 レストとアリン君は既に半分前後なので、一度でも当たれば十中八九エンド。

 動物が消えれば、私独りで勝てる見込みはないので、なんとしてでも猫男には残ってもらいたい。

 緊張感が高まる中、暴食の飼主が撃つ順番を言う。

「これは僕の能力なので、僕が順番を決めることが出来ます。と言うわけで、最初はロニーカから」

 銃口が、暴食の動物へと向けられる。

 はずれの確立は、8分の3。

 暴食は、躊躇うことなく引き金に手をかけ、そのまま引いた。結果は、セーフだった。

 次に、発動者のアリン君が引く。こちらもセーフ。

 そして、順番は猫男へとまわってきた。彼は、銃を手にしたまま、隣にいる私に向かって呟く。

「白琉は、これが本当に運勝負だと思うか」

 珍しく、声が震えていた。緊張しているのか、はずれを引くことを恐れているのか。

 私は、激励の意も込めて。

「大丈夫、のはず。だって、アリン君がそう言っただろ。確かに、暴食陣営の余裕の表情は気になるけど、でも、信じて良いと思う」

 彼は、まだ疑っているようだ。

 能力を発動したのも、順番を決めたのも敵。仕込むことなど、容易いのは当たり前。

 それでも、私は暴食陣営が、どうしてか強がっているようにも見える。

 もしかしたらこれは、緊張したら駄目なパターンのやつなのでは。

 そう考えた私は、猫男の背中をさすり、落ち着かせる。たまには、飼主らしいことをしてあげないと。

 彼は、深く呼吸をし、自分に向けた銃を発砲した。

 空砲だった。

 私は、無意識にその場に座り込んでしまった。気付いていなかったが、どうやら、自分もかなり動揺していたらしい。次は自分の番だというのに、情けない。

 ここまで3発、全て不発。もし、私までセーフだったら、二周目は4分の3でハズレになる。

 何度も心の中で、大丈夫だと自分に言い聞かせる。こういう時は、躊躇わない方が免れられる気がしたので、勢いよく銃口を自分に向け引き金を。すると。

 物凄い音とともに、体が後ろに弾き飛ばされた。瞬間は、痛みより驚きの方が強かったが。

 徐徐に、状況を理解し始めると。

「痛い。イタイイタイイタイッ。うっ、ぐ、あぁぁぁ」

 これまで経験したことのないような痛みが、脳に響き渡ってきた。

 苦しむ私に、動物が何か声をかけている。しかし、何も聞こえない。

 痛さが、全てを上回っている。

 苦しみの中で、私はようやく、ハズレを引いたのだと分かってきた。

 ゲージは、かなり減っていることだろう。

 小さい玉が、自分の身体にめり込む。それが、どれだけ辛いものか。できれば、知りたくなかった。

「大丈夫か、しっかりしろ。白琉」

 目の前にいるのに、彼の声が遠くの方から聞こえてきた。声が聞こえるといことは、少しは治まってきたのだろうか。

 動物に手伝ってもらい、身体を持ち上げる。

 視界が、はっきりしていた。今まさに、二周目を行おうとしている暴食が、拳銃を持って立っている。

 だが、何だか可笑しい。

 一回目と比べて、明らかに動揺している気がする。私の体が、痙攣しているせいだろうか。

 いや違う。これは、完全に彼女が震えている。

 銃口が、激しくぶれている。飼主のアリン君が、何か喋り掛けているが、全然落ち着かない様子。

 やはり、本当に運勝負だったらしい。

 私が一発引いたので、確率は2分の1。

 一気に、ハズレの可能性が高くなったように感じる。それが分かっているから、相手も緊張しているのだろう。余裕など、誰にもないのだ。

 ついに、暴食の動物の指が動いた。

 思わず耳をふさぎそうになった私の腕を、猫男が掴んで止める。その時。

 先ほどと同じく、凄まじい発砲音が聞こえた。

 音が鳴りやむのと同じタイミングで、ロニちゃんがその場に倒れ込んだ。

 叫び声は聞こえない。ただ、明らかに苦しんでいる。その姿に、今の今までの自分を重ねる。

 敵であっても、その光景は見ていて楽しいものではない。ましてや、仲の良かった相手なら。

 飼主のアリン君は、自分の能力で動物(ペット)を苦しめる結果になったことを、覚悟していたのか。叫んだり、涙を流したりなどは、しなかった。

 落ち着いた様子で、今度は自分に向けて、銃を構える。肝が据わって見える。

 ハズレを引けば、自滅するにも関わらず、恐怖心が伝わってこない。

 発動者である自分は、ハズレを引かないことにでもなっているのかと、疑いたくなるほどに。しかし。

 三度、銃声が城内に響き渡った。

 まさかだった。3発連続でハズレになっており、うち2発が、暴食陣営側が食らうことになるなんて。

 今ので、私のゲージも半分以下。ロニちゃんは、4分の1あるかないか。そして、アリン君は。

「もう、いつ消えても不思議じゃないな」

 凝視して、ギリギリ見えるくらいしか、残っていない。もう、動かなくても、怪我のダメージで自然に脱落すると考えられる。

 ハズレを引かず、一番幸運であることを証明された猫男は、まだ半分ほど残っている。おまけに、今頃になってやる気に満ちているみたいだ。

 虫の息の敵を倒すことに、優越感など到底感じられるはずもないが、勝たなければすべてに意味が無い。

 私たちは、というより、私は動物に任せて、このまま勝負を決めさせるつもりだった。それよりも早く。

過去(パスト)も( トゥ)未来(ー フュ)も(ーチ)、(ャー)喰い滅ぼす(・ワイプ アウト)】

 暴食の、二つ目の能力が発動した。

 出現したアイコンを、見逃してしまっていたらしい。

 決勝で使いたいと言っていたアリン君は、瀕死状態。これは、動物であるロニちゃんの、自己判断か。

 一つ目の能力は、手持ちの武器を改造するものだった。二つ目もそれに類似すると考えると、また武器を手にするのか。

 相手の動きに、集中していると。

「いただきま~す」

 不気味な声で、呟いた暴食少女。すると、動けない飼い主の首に顔を近付け。

「なっ!」

 声を上げて、驚いてしまった。

 正体がハムスターの暴食は、飼主の首筋に噛み付いたのだ。それにより、完全にアリン君のゲージが消えた。消えて行くパートナーをよそに、ロニちゃんは私たちの方を向いて。

「やっぱり、アリンは美味しいなぁ」

 聞き間違いかと思ったが、どうやら、冗談ではないみたいだ。目が本気過ぎる。

 少女は、こちらを向いたまま続けざまに。

「でも、まだお腹ペコペコだ。猫って、どんな味がするんだろ……いただきまーす」

 草食動物のハムスターが、天敵であるはずの猫を襲うと言う奇妙な状況。

 激しく迫ってくる敵を躱しながら、猫男はまた伸ばした爪で、反撃をしている。

 しかし、彼の攻撃は一向に当たらない。それどころか、どんどん距離を詰められている。

 見た目は何も変わっていないし、武器も使っていない。動物同士で戦っている間に、私は、暴食の能力の効果について推測する。

 変わったのは、雰囲気。それと、動き方。なんだか、やたらと俊敏になっている気がする。

 あと少しで分かりそうなところで、ロニちゃんが一瞬のすきをついて、猫男に噛み付いた。

 窮鼠猫を噛むではないが、似たことが起きた。

 同時に、あることに気付いた。

 猫男のゲージが減り、代わりに、暴食のゲージは増えている。異様な雰囲気に加え、アリン君に噛み付いた後のスピードの上りよう。レストに噛み付いて、体力の回復。そこから予想できる、能力の効果は。

「レスト。もしかしたらロニちゃんは、誰かに噛み付くことで、身体能力を高めているんじゃないのか。それか、体力を吸い取るか」

 自分の意見を、動物に向かって叫ぶ。

 これまで武器に頼っていた暴食陣営の最後の切札が、身体能力の強化とは。

 だが、それしか思いつかない。

 私の言葉を聞いて、レストはこれ以上噛まれないために、一層スピードを上げる。

 それでも、何だかハイ状態になっているロニちゃんの動きも、かなりしなやか。恐ろしい程、一進一退の攻防を繰り返している。

 私が一番驚いているのは、猫の動きがやたらと機敏であること。そんなに動けるなら、最初から動けよと言いたくなった。

 埒が明かないと思ったのか、彼は唐突に。

【解き放った(レットルース・トゥ)、(ルー)真( ワ)の(ンセ)(ルフ)

 勝負を決めに行った。なぜ、もっと早くに発動しなかったのか。発動するのに、条件が必要だったのか。

 色々問いただしたかったが、「疲れるから」の一言で片づけられそうなので、闘いの行方を見守る。

 ロニちゃんは、巨大な獅子の攻撃をも、素早く避ける。だが、反撃ないことを悟ってか、標的を。

「わっ、こっち来た」

 私に変え、襲ってくる。

 少女の顔が、これまでの愛おしい物とは違い、欲と飢えで溢れており、見たくないと反射的に顔を伏せてしまった。食べられると思ったが、全然来ない。

 恐る恐る、顔を上げると。暴食のハムスターは、ライオンに掴まれて、さらに、食べられた。

 猫男の能力が消え、代償として彼は、緑色の猫の姿になったが、ハムスターの姿は無い。

 食べられた時に、ゲージが無くなったのだろうか。

 間もなくして、毎度のことながら何処からともなく現れた審判が、私たちに勝利を告げた。


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