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バトル・クライム  作者: 緑羅 贈
6/10

復活②

 会場(バトルアリーナ)には、私たちの方が先に着いた。

 これまでの成績は、二勝一敗。本当は全勝でいたかったが、敗北を知らずして勝者の栄光は手にできない。という、自分でも意味不明な理屈を唱える。

 大丈夫と、何度も自身に言い聞かせる。緊張が和らいできた辺りで、敵が姿を見せる。

「……」

「勝利は我らに」

 聞いた通りの二人だった。一方は、退屈そうな顔で、レストと同じくらいの平均体型の青年。もう一方は、背は確かに高いが、コートのような服を着ているので体格はよく分からない、何やら祈りを捧げている男性。

 何故だか、今まで見たどのペアとも違う、独特な雰囲気を醸し出している陣営のような気がした。

 毎度のことなのに、どこから現れたのか未だに不明の登場をした審判が、合図を告げる。

「これより、敗者復活第三戦、嫉妬陣営対怠惰陣営の試合を始める。この試合の勝者が、決勝トーナメント進出となる。審判として、両陣営の健闘を祈る」

 そして、姿を消した。

 今の言い方だとつまり、昨日は嫉妬陣営が勝ったことになる。ということは、傲慢陣営は既に脱落したらしい。何にせよ、私たちは、ココで負けるわけにいかない。本腰を入れ、構えの姿勢を取ると。

 それまで黙っていた青年が、突如、口を開いた。

「ねぇ、旦那。あいつらを倒せば、復活なんだよな」

 相方のことを旦那と呼ぶとは、変わってるな。

 私が心の中で呟くと、その旦那さんが。

「その通りです。我々を倒したあの小癪な奴らに復讐するためにも、まずは彼らにやられてもらいましょう」

 初老なのか、男性の顔には皺が多い割に、熱意は若く感じる。隣の、本当に若いであろう青年は、相方の言葉を聞くや否や、豹変した。

「そんじゃ、いっちょ行くとしますかっ」

 いきなり、ズボンのポケットからサバイバルナイフを取り出した。能力のある動物が、わざわざ攻撃しにくいナイフを使うとは思えないが、こちらを騙すためかも知れない。なので、確信は持つべからず。

 服装はかなりラフだから、あまり大きな武器を隠しているようには見えない。もし、本当に装備がナイフだけだとすると、青年のほうは私一人でも、倒せる可能性がある。動物でなければ、だが。

 旦那は、服下に何があるか不明なので、要注意だ。

 先に青年を攻撃して、動物であるか確かめてはどうかと、猫男に相談する。

「賛成だ。向こうもやる気を見せてきたが、こちらから仕掛けさせてもらうぜ」

 肯定すると、彼はいつもの爪攻撃ではなく、床に手をつく。そして、またしても言葉を唱える。

「影は我の代わりにして、我自身。命無くして動けず、命受ければ果たすなり。【影は私の思うままに(ジャスト・ア・マスターズ・ホープ)】」

以前は盾となった彼の影が、今度は人型のまま、具現化された。そして、影人が敵へと攻め込む。

「うわっ、すげぇ。爪の長い影が攻めてくるよ」

「どうやら彼は、影を操れる動物なのでしょうね」

 嫉妬陣営は多少驚いたものの、すぐに猫男の技を理解し、打って出た。

「私が相手をしますゆえ、貴方は下がってください」

 青年を後ろにやった男性が、動物である。と考えるのが普通だが、いまいち納得できなかった。

 能力や技を一切使わず、コートの中から出したであろう拳銃を、攻撃をかわしながら、撃ち続ける。相手は影だから、物体は当たるはずもなく透り抜けるのに、なぜ懲りずに繰り返すのか。

 何発か撃つと、男性は拳銃を床に落とした。

物体をすり抜ける影人が、物体に攻撃はできるというのも都合のいい話だが。ついに、影の爪が男性を貫こうとした。そのとき。

「やりなさい、私の使い魔たち」

 床に散らばった空薬莢が形を変え、影人に襲い掛かる。危険を察したのか、猫男は影を自分の足元に戻す。

 同時に、気色悪い動作をする元空薬莢たちが、溶けて消えた。男性は、両手で頭を押さえながら。

「私は、価値無きものに魂を与え、使い魔にできるのです。世の役立たず共に、救いの手を差し伸べる。この素晴らしき力を持つ私が、どうして評価されぬかっ」

 最初は丁寧だったその声は、徐々に怒りへと変わっていった。理解してもらえないことなんて、ざらにあるのに。力以前に、性格が受け付けない。

「あなたの言い方には、侮蔑が感じられます。この世に、役に立たない物なんてありませんよ」

 錯乱している男性に、思い切って言ってみる。すると、その人は急に落ち着いて。

「貴女の意見も、一理あります。本当に役に立てないのなら、私の使い魔にすらなれるはず有りませんから」

 そう思うのなら、あのような発言は今後、しないでいただきたい。私が願うと、男性は唐突に声を荒げて。

「そんなことより。私が妬ましいと感じるは、大した能力も無いのに、勝ち残っている奴らだ。生きる価値が、果たして本当にあるのか疑わしい者どもが、私の上に立っているなど。断じて、許されることではない」

 願いは、届かなかった。私の中に、嘗てない憤りが現れる。嫉妬だろうが関係ない、この男は倒さねば。

「レスト、間違いなくあっちが動物だよ。嫉妬の塊何て、これ以上見るに堪えないから、やっちゃって」

 猫男は走りだし、男性の目前で爪を伸ばして、そのまま貫いた。かのように見えた。

「残念でしたね、怠惰の動物。私の身体は、鋼鉄の鎧に守られているのです。そして」

 男はコートを広げると、鎧を纏っている。また、広げた勢いで、コートからいくつかのガラクタが落ちた。

「さあ、こちらの番です」

 鉄や鋼球など、総重量何キロあるのか気になる物体たちが、生きているみたいに猫男へぶつかっていく。

 何とか避けたり、爪で弾いたりはしているが、全ては無理だ。当たるたびに、ゲージが減っていく。隙を見て抜け出し、私の元へ戻った時には、半分手前まで失われていた。

 何カ所にも痣が出来ているので、すぐに冷やしたい。けれど、それができるものが何もない。

 とりあえず、優しくさすって気休め程度のことをしていると。これまで傍観していた青年が、閃いたかの顔で、私たちに言ってくる。

「なあ、そこの可愛い飼主さん。一つ提案なんだけど、動物は動物同士戦わせて、俺たちは俺たちでやらない」

 そんな、明らかに自分が有利な条件を、飄々と相手に提示するとは。受け入れてもらえるとでも、思っているのだろうか。答えはもちろん。

「私たちは、もはや一心同体。戦いは常に、二人で協力して挑みます。あなたの提案は、飲めません」

 猫男の腕をさすりながら、きっぱり言い返した。

「チェッ。他の女なら、ちょっと褒めればすぐに言うこと聞いてくれるのに、まあ昔の話だけど。あーあ、つまんね。リア充死んじまえ」

 青年の言う昔とは、何時のことか。気になったけど、聞ける状況ではない。あと、女を甘く見ている発言をしたので、教えてやる。

「あなたより、レストの方が格好いいですから」

 その言葉が、青年の逆鱗にでもふれたかのように。

「ああそうですかい、そんじゃ。旦那、やっちまえ」

 私たちを指さし、彼は動物に命令した。

「宜しいのですか、奴らに使ってしまって。今まで、ひた隠しにしてきたというのに」

 皺顔の男性は、なんだか渋っているように見える。

「構わねぇよ、どうせいつかは使うんだ。最後の切り札としてとっておいた能力が、思いのほか敵に効かなくて負けたら、それこそもったいないだろ。勝てそうな今発動してこそ、価値があるってもんだよ」

 青年は、動物に能力の開放を求めている。確かに、大した戦力を持たない私と、ゲージが半分ほどの猫男相手になら、どんな能力だって効果はあるだろう。

 こちらとしては、今発動されては厄介だが。

「分かりました。あなたがそこまで言うのなら、あの女飼主を壊して見せましょう」

 どうやら、その気になってしまったようだ。

 覚悟を決めたのと同時に、嫉妬の動物の台詞が、どこか怪しかったことに気付く。

 こればかりは、その言葉の意味を尋ねようとした。が、手遅れ。敵の頭上にあったアイコンが、弾けた。

【囚人に与えられるのは、絶望のみ(プリゾナーズ・デスぺアタートル)】

 百聞は一見に如かず。私は、嫉妬陣営の能力を食らう羽目となる。

 突如として、足元から何かが生えてきた。それらは、一瞬で私の腕足に絡みつくと、体を持ち上げる。

「な、なにこれ。すごく、ヌメヌメして、気持ち悪い」

 触手だった。一所懸命体を動かしても、まったく逃れられない、焦っている私に、皺顔の男性は。

「私の能力は、敵をじわりじわりと苦しめるものです。一度絡みつかれれば、決して離れることができない。ゲージがなくなるまで、苦しみ続けなさい」

 言い終わるが合図だったかのごとく、触手が戦闘服(緑のジャージ)の中に滑り込んでくる。どれだけ耐えられるかは分からないが、全身に力を込める。すると。

「…あれ、なんかいいかも。別に、そんな変じゃない」

 私を助けるためか、爪で必死に触手を切り裂いてくれている猫男に言う。

「意外と大丈夫だから、早く嫉妬陣営を倒しちゃって。私、レストの方が、感じちゃうかも」

 できるだけ心配させないために、大声で言ったのかまずかったか。会場の男たちが、見事に黙った。

「ちっ、ちがうよ。変な意味じゃなくて、その、今のは、レストを安心させるためであって」

「了解!」

 彼は短く叫ぶと、ポカンとしている敵に向かった。

 体が鎧で守られているならと、無防備な敵動物の顔に、爪を突き出す。

 もう少しのところで逸らされたが、それでも、頬に傷をつけることができた。

 その後も、ひたすら顔面を狙い続ける猫男。敵飼主の青年は、自分の動物が攻められているにも関わらず、離れたところに立っている。自分が加勢したところで、効果は無いと言った所だろうか。

 私は、動けないなりに精いっぱい応援しているが、時間が経つにつれ、苦しくなってきた。

 流石にこれは、かなりヤバイ。

 目だけは、必死に猫男を追う。すると、彼はこちらを向いて、今の私の状況に気付いた。

 そして、再び叫んだかと思うと、今までは片方の手の爪だけで攻撃していたが、両手になった。つまり、槍のように鋭い爪が十本、ものすごい勢いで敵動物の顔に向けて、突き出されている。ついに、相手は防戦一方となった。

 猫男の疲労度も心配だが、反対に心の中で助けを求めると、体が急降下した。どうやら、触手から解放されたらしい。だが、このままでは地面に叩き付けられてしまう。堪らず瞼を閉じると、何かに抱きかかえられた気がした。ゆっくり目を開けると、其処には猫男の綺麗な顔があった。

「ったく、最初から助けを求めればよかったものを。余計な応援何かするから、こんな目に合うんだぞ」

 彼は文句を言いながら、私を降ろした。

 すかさず、質問をぶつける。

「どうしてっ、何があったの。なんで、さっきまでアイツに攻撃してたのに。いつの間に、どうやって私を、あれから救ってくれたの」

 無意識に敵を指さしながら、叫んでしまった。彼は、私の頭を押さえながら言ってくる。

「お前が助けてと言えば、オレは助ける。お前が応援すれば、オレは戦う。それだけだ」

 確かに私は、助けを求めた。しかしそれは、あくまで、心の中でだ。どうして彼は、分かったんだろう。

 何にせよ、この男がいう事を聞いてくれたのは嬉しい。とりあえず、頭の上の手をどけてゲージを見る。

 敵飼主は、ほとんど減っていない。それ以外の、私を含む三人は、なんだかんだで半分以下となっている。

 相手の能力を回避できたのは大きいが、総合的に見たら、まだ相手の方が有利な状況かもしれない。

 乱れた服装を整え、敵に申し出た。

「嫉妬の飼主さん。先程の、動物は動物、飼主は飼主同士で戦うという話、まだ有効でしょうか」

 またしても、男たちは黙った。

 先ほどまで、敵の動物は能力を破られたことを悔しがっていたが、今は、顎に手を当てて、悩んでいる。

「どうする、旦那。俺は問題ないよ。あんな子、滅多にいるタイプじゃないから。殺しがい、ありそう」

 ナイフを器用に手で回しながら、青年は言う。

「あなたがそう思うのでしたら、私は従いましょう」

 どうにか、敵は了承してくれた。あとは。

「レストも、いいよね。私を、信じて」

 彼は何も言わず、ただ黙って頷いた。そして、十本の擬装槍である爪を構えなおし、皺顔の男性の姿をした敵動物に向かって行った。

相手はコートを脱いで鎧姿となり、手品のように服から剣を取り出して、猫男と対峙する。

動物たちが戦う光景を見ていると。

「それじゃあ、俺たちもやろっか」

 気配を消していたのか、青年は目の前まで来ており、いきなりナイフを突き出した。

「あぶなっ。不意打ちとは、卑怯ですよ」

 相手は、聞く耳を持たない。体格に差があるので、こちらは躱すので手いっぱいになっている。

 遠くでは、金属がぶつかり合う音が聞こえる。爪と剣が、互いに弾きあっているのだろう。

 しつこく逃げる私に腹が立ったのか、青年は立ち止まると、ナイフを思い切り投げてきた。

 まさか、そう来るとは思っていなかったので、あまりにコントロールに良い刃物を避けきれず、左肩に刺さってしまった。

 抜くと、血が想像以上に流れ出す。笑っている青年に右手で投げ返すも、簡単によけられ、地面に落ちた。完全に油断したのか、相手はついに、お腹を抱える程大笑いをしている。

 やるなら今しかないと思った私は、靴の中から、小さな瓶を取り出した。中に入っているのは、硫酸。

 以前読んだ本に、強力な酸は人体まで溶かすと書いてあったので、微量でも効果はあるはずだ。

 生で見るのは初めてなので、どんな結果になるのか怖かったが、それを顔に向けて投げた。

 もしかしたら、青年の顔がグロいことになるかもしれない。覚悟をしていたのが、無駄になった。

 なぜなら、片手でキャッチされてしまったから。

 青年は笑うのをやめて、手中にある瓶を見つめると。

「これって、硫酸? 君、見かけによらず危険なことするね。そんな子には、御仕置きが必要かな」

 投げ返されると思った。しかし彼は、瓶を後ろに放り投げた。そして、今度はポケットから剃刀を出す。

「俺はね、皮膚を溶かすのは趣味じゃないんだ。やっぱ皮膚は、削り取らないと」

 目つきが変わった。怒りでも憎しみでもないその瞳は、快楽を求めているみたいだった。

 視界の隅に映るか映らないかの所では、能力名からしてその正体はカメとネコが一触即発している。

 よそ見はできないので、視点は青年に向けたまま視野を広げると、気になるものが映った。

 それは、皺顔の男性が最初に使った、拳銃。

 奴は、価値のなくなったものに魂を与え、使い魔にすることができる。だから、空薬莢やガラクタは、猫男に襲い掛かった。ではなぜ、あの銃だけはずっと、放置されっぱなしなのだろうか。

 近づいてくる青年と、常に一定の距離を保ちながら、襲われる前に走り出した。

 わずかな可能性にかけ、私は銃を手にした。

「あれぇ、それって初めに旦那が使ってたやつじゃん。今頃そんなの手に入れて、どうするつもり」

 腕をダランとさせながら、剃刀をしっかりと握りしめ、男は歩み寄ってくる。

 その隙だらけな腹に銃口を向け、引き金を引いた。

 耳鳴りのするような音と、衝撃による反動で、私は後ろに倒れ込んだ。痛む左肩を右手で、右腕を左手で押さえながら腹筋を使って起き上がると。目の前に、自分のお腹から流れ出る血を見ながら、目を輝かせている青年がいた。

 もう一発お見舞いすれば、絶命する気がする。だが、拳銃にはもう残弾は無いだろうし、あったとしても、到底撃てる状態ではない。

 両陣営の飼主が、それぞれ血を流して倒れているというのに、放っておく動物はいない。

 猫男と亀男性は、互いの飼主の元に駆け寄ってきた。

「大丈夫か、白琉。どうしたんだ、この怪我は」

「何があったのです、辰弥。まさか、あの銃に弾が残っていて、それを撃たれたのですかっ」

 両動物は、飼主の名前を叫びながら、体を支える。

「申し訳ございません。私が使い切っておれば、貴方をこんな目に合わせることは無かったのに」

 皺顔の男性の姿をしている亀は、似合わない涙を流している。余程、反省しているのか。

「気にすることないって、旦那。ほら見てよ、スゲェ綺麗だ。こんなの、見た事ねぇよ」

 ゲージが4分の1にまで減ったことも気にせず、青年は手に血を付けて喜んでいる。かく言う私も、残りはそれほど無いのだが。

 両陣営両者ともに、余裕が無い状況。もはや、戦闘不能であろう挑戦者(チャレンジャー)がいるこの戦い。どちらが勝つのか、分からなくなってきた。

 このタイミングで、支えてくれている猫男が、私の耳元で囁いた。

「白琉、能力を使って、いいか」

 その声は、本気だった。正直、不安はある。威力が強い分、大小の大きい能力を此処で発動するのは。それでも、使わざるを得ないのかもしれない。

 彼がやる気を見せてくれたのだ、私にそれを否定する権利は無い。

 敵の動物は、物体を操る力がある。直截攻撃しかないこちらは、どう考えても不利。それに、あの青年も言っていた。最後の切り札にしていた能力が、思いのほか効果が無かった。それは、あまりにも虚しい。

 だから、私は言う。後悔しないために、必ず勝つために。心から、想いを込めて。

「お願い。この戦いを、早く終わらせて。あなたの、本当の力を見せて」

 ガラスが勢いよく割れたような音が、頭に響いた。

【解き放つ、本当の自分(レットルース・トゥルーワンセルフ)

 どこか、不思議な感じがした。

 今までは、側にいて心地よかった猫の雰囲気が、変わっていく。とても、近寄りがたいものに。

 動物(レスト)の身体が、闇に包まれるかのように黒くなっていく。だけでなく、姿がどんどん大きくなり、やがて、ある獣の形に変化した。

 影のごとく真黒の、巨大な獅子へと。

「これが、レストの能力」

 獅子は、右手を挙げると、そのまま相手に向かって振り下ろした。

 敵の動物は、飼主を押し、その反動で自分も横に跳び、一撃を躱す。だが、何度も繰り返しはしなかった。   

先に狙われたカメは、人の姿をしているから、多少は素早く動けるものの、獣との俊敏性には大差がある。

途中で、床に散らばっているガラクタに魂を与え、獅子に攻撃させたが全く無意味。結局、鋼鉄の鎧もむなしく、最後は叩き潰された。

 自分の動物がやられたのを見て、青年は叫ぶ。が、長くは続かなかった。獅子の太爪が、彼の喉元を的確に突き刺した。

 敵を脱落させると、今まで暴走していた真黒の巨大獅子は、突如動きを止める。倒れ込み、体が小さくなっていく。本来の緑色の猫の姿へ戻ると、寝ていた。

 かなり激しく攻撃していたので、疲れてしまったのだろう。呆気ない終結だったが、彼の能力がいかなるものか、これではっきりした。

 私が猫を抱えていると、審判が現れる。

「おめでとう。君たちが、復活となった。早速で悪いが、ここでトーナメントの組み合わせを伝える」

 敗者復活戦が終わったばかりというのに、もう次へと進むとは。まんと、段取りの良いことか。

 とりあえず深呼吸をして、床に座ったまま話を聞く。

「君たちの最初の相手は、暴食陣営だ。開始時刻は、三日後の午後二時。思い余ることも多いだろうが、覚悟して臨んでくれ」

 これ以外の詳しい話は明日すると言い残し、審判は再び姿を消した。明日は試合が行われず、明後日には、憂鬱陣営と強欲陣営の試合が行われるらしい。よって、私たちの次の試合は、三日後となった。

 何にせよ、今回の試合は過去最高に疲れたので、早く部屋に帰ってベッドに飛び込みたい。

 其処ら中が悲鳴を上げている体を無理やり動かし、猫を抱いたまま部屋を出る。

 いつも通り、怪我は治っていたが、疲労感は半端ない。別に酔っているわけではないのだけど、千鳥足で歩く。壁に手を突きながら片腕で動物を支え、何とか自室まで来れた。何も考えず、寝具で眠りにつく。



            ○



 夢を見た。

 見覚えのある景色の中で、眠り猫を膝に乗せ、木に靠れながら座っている。聞こえるのは、風と、揺れる葉の音だけ。その静けさに、世界で人間は自分一人になった気になる。

 突然、猫は起き上がると、そのまま走り出した。慌てて追いかける。途中で、何度も見失いそうになったが、必死に姿を目で追った。

 やっとの思いで捕まえると、全くと言っていいほど見知らぬ場所に立っていた。

 西も東も分からない。太陽があれば方角を把握できるが、生憎と空には雲がかかっている。

 怖くなって、しゃがみ込む。気が付くと、猫まで居なくなっていた。知らない場所に、一人きり。

 雨は降っていないのに、頬には水滴が流れている。



「おい、起きろ。目を覚ませ、白琉」

 瞼を開けると、片目が隠れるほど長いオレンジ色の髪に片耳ピアス、全身緑の衣装と言った、何度も見たことのある姿が映った。

「おっ、やっとお目覚めか。ったく、心配させやがって。お前、ずっと魘されてたぞ。どんな夢見たんだよ」

 起床と同時に、雨のように降り注がれる声。だけどなぜか、とても心地好かった。

「…レスト」

 一言つぶやいて、彼に抱きつく。相手は動揺しているが、私を引きはずそうとはしない。むしろ、温かく包み込んでくれた。

 暫くその状態が続くと、体勢は変えないまま、話しかけることにした。

「ねぇ。私、どれくらい眠ってた?」

 カレンダーも無いし、時計には日付表示機能はついていない。今日がいつかは、誰かに聞くしか方法が無い。彼は、口を耳に寄せたまま言った。

「正確な時間は分からないが、丸一日くらいは寝てたんじゃねぇか。今、午後4時だし。まあ、オレも起きたのは今朝だから、曖昧だがな」

 午後四時、それを聞いて、私は無意識に立ち上がった。驚いている動物に、焦りながら話す。

「霊夢に、トーナメントの詳しい要項を伝えるから来いって、言われてたんだ。絶対に愚痴を聞かされる」

 着ている衣類を全て脱ぎ捨て、シャワーを簡単に浴びる。体はバスタオルで拭けばすぐに乾くが、天パのロングである茶髪は、熱機器を使ってもそんなに。

 仕方ないので、中途半端に乾くとすぐに、下着をつけて一番簡単な衣服を着る。

「よし、留守番電話は録音されていない。レスト、少しでも奴の文句を減らすために、速く行こうぞ」

 ところが、私が準備をしているうちに彼は、元の緑色の猫の姿でソファーに寝転がっている。

 幸せそうな顔をしていたが、強引にその小さな体を掴んで、部屋を飛び出した。



「遅くなりまして、誠に申し訳ありません」

 部屋に入ると、真っ先に謝罪をした。別に時刻指定は無かったので、問題ないと言えばそうなのだが。思わず、謝るを選択してしまった。

「その言葉に免じて、今回は許してやろう。しかし、電話は通じないし、部屋に行っても応答は無い。一体、何をしていたのだ」

 部屋にまで来てもらった何て、本当に申し訳ない。が、なぜ、猫男は出なかったのだろうか。

 後に尋ねたところ、私の寝顔をほかの男に見られたくなかったから、らしい。嬉しかったので、頭と背中を撫でてあげた。

 それはさて置き、審判の質問に正直に応える。

「寝ていました、すみません」

 あまりに直球だったからか、審判の男はすんなり納得してくれた。そして、本題の詳しい内容に移った。

 トーナメントの特例として、武器は全種持ち込み可になり、戦闘開始前には回復薬が支給されるらしい。

 それ以上に、私が驚いたのは。

「動物に、新能力!」

 審判曰く、能力は唯一無二である必要は無いし、既に使用したペアもいるので、最終奥義として与えたらしい。それだけでなく。

「君も含め、すべての飼主にそれぞれの性格に見合った力を、戦闘中に使用できるようしておいたぞ」

 つまり、今までは動物同士の戦いを傍観するだけだった人間も、技が出せるようになったのか。

 これは、なんとも喜ばしいことだが。

「ちなみに、どうすれば飼主は技を発揮できるので」

 私の質問に、審判は一言「自分で確かめるんだな」とだけ言い放った。

 そりゃあ、自分で考えることも大切だけど、少しくらいヒントをくれてもいいんじゃないかな。と思ったが、言わないことにした。

 しばらくして話が終わると、室内に置いてある振り子時計が6時を告げた。

 部屋を出ようとした私たちに、審判が言ってくる。

「今日は都合上、ルームサービス用の食事を用意できなかった。悪いが、食堂に来てくれ。久しぶりだし、いいだろう。まあ、強制はしないがな」



 とりあえずかどうか、図書室に来た。ずっと寝ていたので、行動して無い分、お腹がペコペコではない。

 今回の目的は、未だ猫の姿をしている彼に、以前見つけた猫の写真集について、尋ねるためだ。

 彼がまだ眠っている隙に、件の本を探す。しかし、なぜか記憶ではあるはずの場所に、無かった。誰かが持ち出すわけでもないし、場所が違うはずもない。よく考えると、あることに気付いた。

「そういえば、前に見た時はいつの間にか、手に持ってたんだった。じゃあ、なんでココにあったって記憶があるんだろ。それに、私は読んでる途中で倒れて、高読に保護されたから、アイツなら隠すことができる。あーもう、また訳分かんなくなってきた」

 欲しいものは見つからないし、なんか不思議なことばかりだし。頭を抱えずには、いられなかった。

 一冊も手に取らないまま、猫を置いた席に戻ると、彼は人間の姿をしていた。

 そして、何か読んでいる。

「ねぇ、何読んでるの。見せて」

 肩越しに覗き込むと、それは間違いなく、私が捜していた本ではなかった。

 何やら、専門書みたいな、よくわからない文字とかが並んでいる。疑うわけではないが、堪らず尋ねる。

「ねぇ、それ本当に読んでるの。理解してる? ただ眺めているだけじゃ、ないよね」

 耳元で話しかけられて鬱陶しかったのか、彼は勢いよく本を閉じてこちらを向いた。

「図書室内では、黙ってろ」

 それだけ言って、表紙を私に見せた。

「えっと、なになに。『記憶の取り戻し方』。…これ、私のために読んでくれてたの」

 彼は顔をそむけると、口の部分に手を当てながら、頬を若干赤らめて言ってきた。

動物(ペット)はあくまで、飼主に尽くす存在だからな。よく、猫は人を下に見るとか言う奴がいるけど、そんなことねぇから。オレだって、お前の役に立ちたいんだよ」

 ったく、素直じゃない猫。ほんと、可愛い奴め。

 本を受け取ると、流し読みをする。手掛かりになるかは分からないが、タイトルも気になるし、何より、あの怠惰の化身である猫が見つけてくれたのだ。

 内容は理解できなくても、読めるだけでうれしい。

 終盤に差し掛かったところで、気になる文が目に留まった。それは。

「記憶に於いて、失うのは自分、取り戻すには恋人の意思が反映される…か」

 恋人の言葉や行動が、記憶を取り戻す鍵となるらしい。私にとっての、恋人は。

「レスト、ちょっと聞きたいんだけど」

 小声でも届くように、耳元で囁く。

「飼主と動物の間に、恋愛は成り立つと思う?」

 その瞬間、彼は椅子から飛び跳ね、本能的の警戒しながらこちらを見てくる。

 そんな動揺した態度を取られても、反応に困る。

「真面目に答えて、真剣な話なんだから」

 彼はようやく落ち着くと、照れくさそうに。

「そ、そりゃあ。愛があれば、問題ないだろ」

 あら、柄にもないこと言っちゃって。

 ついでに、猫と人間の間にも子供はできるか聞こうとしたが、流石にやめておいた。

 目当ての本も見つからないし、本を読んだところで記憶が戻るとも思えない。おまけに、空腹で頭が働かなくなってきている。

「レスト、食堂に行かない。このまま図書室にこもってても、進展があるとは思えないんだ」

 持っている本を置いて、尋ねる。

「お前がいいなら、構わない。動物は、飼主の選択に、基本的には逆らわないからな」

 人間の姿をしている以上、反発することもあるのだろうか。とりあえず今は、本を元の位置に戻して部屋を出る。相変わらず、廊下には人気が無い。

「前々から思ってたけど、なんで食堂とか浴場では会うのに、廊下では誰ともすれ違わないんだろ」

 何気なく漏らした言葉に、猫男が反応した。

「なんだ、今まで知らなかったのか。廊下では、パートナー以外の存在は認識できないんだよ。すれ違いざまに攻撃とかするのを、防ぐためにな」

 初耳なのです。

「そのことは、誰に教えてもらったの」

 私は、確信を持ちながらも一応聞いてみた。

「そりゃあ、審判に決まってるだろ。お前がまだこの建物に入って来る前、暇だったからあの男がいろいろ教えてくれたんだよ。まあ、今となってはほとんど覚えてねぇけどな」

 そんな大事なことを、猫男は笑いながら言った。だから、思い出させてやる意味も込めて、私は彼の頭を殴った。当然、相手は怒ったが、「ハエが止まってたから」と、適当な言い訳をして流す。

 長いと言っても所詮は屋敷の廊下に過ぎないので、そんなに時間がかからず食堂に着いた。

「はぁ。この扉を開けるのが、こんなにも辛くなるなんて。レスト、先に入ってくれない」

 中に誰かいたら、誰がいても気まずくなりそうなので、動物にお願いする。

 彼は、躊躇なく扉を開け、中に入って行った。



「あーっ! 白琉さんだっ、お久しぶりです」

 数日ぶりに見た暴食(リス女)は、いつも会ってた時となんら変わりは無かった。それは、飼主の方も同じ。

「本当に、ご無沙汰ですね。突然、食堂(ココ)に来なくなってしまって。どうしたんですか。もしかして、僕たちを避けていたとか」

 寂しそうに、長身の男は聞いて来た。

「ううん、そんなことないよ。ただ、敗者復活戦で疲れちゃってさ。食べに来るのが億劫になったんだ。ほら、一応私、怠惰の飼主だから」

 この件に関しては、笑誤魔で済ましたかった。

 だが、暴食の飼主が、終わらせてくれない。

「そうだったんですか。確かに、傲慢も嫉妬も、それなりに強かったですしね。映像でも、大分分かりましたよ。怠惰(あなた)陣営(達の)の、戦い方もね」

 妙な言い草だった。まるで、弱点でも見つけたかのような。…弱点。

 私たちは、敗者復活の二戦分、今残っている他のペアよりも多く戦った。つまり、それだけ相手に、行動を読まれている可能性があるということか。

 慌てて、暴食の動物に尋ねる。

「ね、ねぇ、ロニーカちゃん。敗者復活戦の私たちの試合、見てた」

 すると、人間の女の姿をしている彼女は、楽しそうな笑顔を見せながら言ってきた。

「もちろんですよ。全試合、見させていただきました。だって、復活したペアが、ボクたちの相手になるって話でしたからね。正直、怠惰陣営が復活してくれて、すごく嬉しかったんです」

 一呼吸ついて、最後に一言、付け加える。

「だって、この手で屠ることができるんですから」

 その台詞で私が呆然としてしまった間に、暴食陣営は去って行っていた。

 猫男に意識を呼び戻されたが、あの言葉が気になって、食事が喉を通らなかった。



「あれが、奴らの本性だ」

 部屋に戻ってベッドで休んでいると、真剣な面持ちで猫が言ってきた。

 きっと、情けを掛けるべき相手ではないということを、伝えたいのだろう。

「結局、勝ち残れるのは一ペアだけだもんね。なら、みんな自分たちが勝ちたいと思って当然だ」

 いつかは戦わないといけない相手、そんなことは分かっていた。分かっていたからこそ、あんな言い方をされては、こちらだけ手を抜くことはできない。

 向こうが本気なら、こちらも相応の態度を見せなければ。闘いと言うのは、其処まで甘くない。

 私が、ようやく心を決めかけた、その時。

「悲しいけどコレ、戦争ニャのよね」

 前にもどこかで聞いたことのある台詞が、再び耳に響いた。途中でニャと言ったのは、噛んだのか。それとも、気を落ち着かせようとしたのか。

 全く持って、余計なお世話だった。折角、気を引き締めたというのに、一気に全身の力が抜けきってしまった気がする。

 完全にやる気を消滅した私は、数日ぶりに大浴場へ行くことにした。動物には、どうせ無駄なので最初から誘うつもりはない。

 部屋を出る瞬間、幽かに。

「浴場に行くと、欲情してしまう」

 と、くだらない言葉とともに、なぜか猫男の笑い声が聞こえたが、無視した。



 廊下で誰ともすれ違わない理由は判明済みなので、もう気にならなくなった。

 しかし、風呂場についても使用中の籠は一つもない。恐らく、どのペアもすでに、そんな気分ではなくなっているのだろう。私も、緊張感を待たなくてはいけないのだが、つい。

「ワーイッ‼ 貸切だー、気兼ねなく入り放題だー」

 調子に乗った結果、湯あたりした。

 足がフラフラ、目がクラクラ。それでも、ギリギリ自力で部屋に戻る。

 そして、今度は布団におぼれた。

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