復活①
翌日、敗者復活戦第一試合開始時刻が、目前に迫る。
既に武器庫からは、服の中に隠せる程度のものを、いくつか貰ってきている。おまけに、着替えまであったので、動きやすい服装にチェンジした。
端的に言えば、動物が人間状態の時に着衣している全身緑色の服装にならっての、上下緑のジャージ。
ゴム製なので、凄く快適。
「よし、そろそろ入るか」
深呼吸をして、戦闘場所に足を踏み入れる。対戦相手はまだ来ていないので、堂々と待ち構える。
お互いに、話しかけることはしなかった。
開始直前、ついに敵が現れる。
「なんだぁ、今回の敵も男女ペアかよ。しかも、今までで一番弱そうだなぁ」
「そんなことを言ってはいけません。下に見るのは仕方ないですが、口に出すのはマナー違反だ」
筋肉質な低い声のサングラス男と、見た目は真面そうな少年だが、正体は傲慢の罪を宿す犬が、入場と同時に、大口をたたいている。
直接顔を合わせるのはこれが初めてだが、早くもぶっ倒してやりたくなった。
態度が腹立つし、なにより、色欲陣営の仇を取りたい。絶対に、負けたくない。
「レスト、勝つぞ」
隣にいる彼にだけ聞こえる声で、呟く。
「ああ。もちろんだ、飼主」
ガチの気合を入れたところで、審判が現れた。
「時間となった。それではこれより、敗者復活第一対戦、傲慢陣営対怠惰陣営の試合を開始する」
いつもより短めのあいさつを残し、消えた。
「じゃあ、昨日言ったとおりに行くぞ」
「うん」
猫男が、爪を鋭く伸ばして、相手に攻め込む。いつもと違うのは、その爪の先に毒が塗られていることだ。掠るだけでも、かなりの効果を期待できる。
「馬鹿がっ、そんなの食らう訳ねぇだろ。力の差を見せてやれ、ラッシュ」
名前を呼ばれた少年は、両手に拳銃を出し、そのまま猫男に向かって撃つ。
目前まで迫っていたので、躱せるか不安だったが、彼は見事に爪で銃弾をはじいてくれた。そして、少年に切りかかると見せかけて、隣で油断しているグラサンをひっかく。
ひたすら撃ち続けられる二丁拳銃を上手く避けながら、彼は私の元に戻ってきた。
「とりあえず、だな。飼主も傲慢で、助かったぜ」
少し息が合っているが、まだ大丈夫そうだ。私が持って来た道具を使うのは、後の方がいいらしい。
皮膚に傷がつく程度には爪を掠らせたが、あの筋肉の壁の中まで毒が届いているかは、定かじゃなかった。
が、その時は突然来た。
それまで、笑いながらひっかかれた場所をさすっていたサングラス男が、突然膝から倒れ込んだ。
歯を食いしばっている男と、動揺している少年。
「どうやら、上手くいったみたいだぞ」
猫男は、黙って頷く。
男のゲージが、僅かだが確実に減りつつある。私たちが、その様子を静かに見ていると。
「何しやがった、テメェ。毒でも、仕込んでたのか。俺の鋼の肉体にきづを付けるたぁ、やるじゃねぇか」
グラサン男が、切られたところを抑えながら、笑っているように言ってきた。
「だがな、この程度でこの俺が、怯むと思うかぁ」
彼は、四肢に力を込め、筋肉を膨張させる。膨らみ過ぎて、かえって動きが鈍くなる気がする。
「今度は、俺の番だぜ」
男は腕を後ろに引くと、勢いよく私たちの方へ突き出した。伸びる訳でもなく、ただ拳が空気触れただけ。なのに、なぜか。
私たちの身体は、圧だけで地面に叩き付けられた。
「いたたっ。なんで、一体どうなったの」
床に手をついて体を支えながら、目の前で既に立ち上げっている猫男に聞いてみる。
しかし、息を荒げており言葉が出せない。そんな彼の足元を見ると、赤い液体が滴っている。
私はすぐさま起き上がり、背後から大声で聞く。
「どうしたっ、何があったんだ。どうして、そんなに苦しそうなんだ」
彼は、目線を敵に向けたまま、説明する。
「オレたちが、あの筋肉野郎の風圧で、足を取られた瞬間に、あの餓鬼が、銃を撃ってきやがった。それが、まんまと当たっちまっただけだ」
そうは言っても、私を守ってくれたことに違いない。いや、むしろ、私を守るために、自ら当たったという方が、正当ではなかろうか。彼ほどの俊敏性があれば、銃弾をかわすことなど造作もないはず。それでも、受けてしまってのはやはり。
「ごめん、ごめんね、レスト。また、私のために」
涙は、いつも無意識のうちに流れ出る。ゆえに、意識的にとめることは、難しい。
泣いている私に、まだ呼吸が整っていない猫男は。
「こんなことで一々、泣いてんじゃねぇよ。向こうだって、ダメージは受けてんだ。まだ五分だろ」
必死に、励ましてくれる。
これ以上話しかけても、迷惑にしかならない。そう思った私は、動物に相談せず、行動に出る。
「おいっ、なんのつもりだ」
突如、自分の前に出た私に対して、彼は怒りの声を浴びせるが、やはり体が痛むのか、動けないでいる。
「レスト、ちょっと休んでて。私だって、やれるから」
思ったとおり、私が近づいても傲慢陣営は守りの姿勢を見せない。むしろ、笑っている。
隙を見せて足元を掬われては、元も子もない。殺気は出さず、口角を上げて怪しまれないようにする。
三メートルほど手前まで来たところで、いよいよ独断作戦を開始する。
限界まで上げているファスナーを、ゆっくり下ろす。いくら貧乳だからと言って、女が目の前で服を脱ぎだせば、自然と男は見てしまうものだ。
胸元まで開けたところで、素早く手を動かす。
「これでも食らえっ」
服の中から取り出した、モロトフカクテルを全力で敵の飼主に投げつける。
毒を食らっているからか、筋肉が邪魔だったからか、はたまた、単純に油断していただけか。男の顔面に直撃し、グラサンと瓶が同時に割れて、破片と火が飛び散った。男の顔は燃え、ガラスの破片と火の粉が動物に降りかかる。
傲慢陣営が慌てふためいているうち、猫男の元へ戻り、すぐさま背中に隠れる。別に怖いからではない、猫男の背後が落ち着くだけだ、
一仕事終えた私に、彼は最初こそ激しく怒鳴ったが、途中から、感謝の言葉に変わった。それが嬉しくて、私は思わず笑ってしまう。
だが、笑っている時間など無かった。
傲慢の飼主を包んでいた火が、消えた。現れた姿は、皮膚が焼け焦げ、ところどころ流血をしている。自分でやったことだが、見るに堪えなかった。ちなみに、ゲージは殆どゼロだった。一方の動物も、やけどの跡が目立ったりして、ゲージも半分を切っている。
そんな、傲慢の罪を宿した動物(今は少年の姿をしている)は、憎悪に満ちた表情をしている。いつの間にか、彼の頭上にはアイコンが出ており、私がそれに気付くのとほぼ同じタイミングで、弾けた。
【油断なくして(ノーコンシートドッグ)、勝利は得れぬ(ノーゲットウィン)】
敵の能力が、発動してしまった。どんな攻撃をしてくるか、集中して見ていると。どうしようもなさそうな光景が、目の前に広まった。
傲慢陣営の遥か頭上から、数多の剣や槍、弓に銃、それから、爆弾のようなものまで、出現した。
あの数の武器が一度に襲ってくると思うと、敗北を認めざるを得ない。私が、諦めて顔を伏せると。
「だらしねぇ飼主だな。やっぱり、お前はまだ、現実を受け止めきる目を持ってねぇみたいだ」
目の前にいる動物の批判に、とっさに顔を上げる。すると、彼はこちらを見向きもせず、再び言ってくる。
「よく見ておけ。俺にはな、能力以外の、とっておきがあるんだよ」
彼は片膝を床につき、自分の影に手をかざす。
猫男が何かするのに気付いた傲慢の動物は、私たちに向けて道具を放つ。
武器の雨が降り注ぐのも間も無くとなったその時、猫男が言葉を告げた。
「影は我を映す鏡なり、鏡は全て反す物なり。奴の武器は、奴の元へ戻るべし。【影は私から離れない。(オールシング・バック ザ マスター)】」
目前まで迫っていた武器と私たちの間に、黒い壁に見える何かが現れた。それに武器が当たっているのだろう、騒音が耳の鼓膜を揺るがす。
暫くすると音は止み、壁みたいなものも消えた。
開けた視界に映ったのは、いろんなものに串刺しにされた、顔が焼け焦げた男と、金色の毛の犬。
一人と一匹は、仲良く消えて行った。
恐らく勝利したのであろうが、未だに現状がよく分かっていない私と、猫男のもとに、審判が現れる。
「敗者復活戦第一試合は、怠惰陣営の勝利。第二戦は、翌日の同時刻より開始する。では、これにて」
審判らしいセリフを言い終わると、その後は特に何も声に出さず、静かに消えた。
二人きりになった空間で、私は動物に尋ねる。
「ねえ、さっきのなんだったの。あれって、能力じゃないの。なんか、凄くカッコよかったけど」
猫男は、お腹を押さえながら言ってくる。
「お前なぁ、心配が先じゃねぇの。仮にもオレ、撃たれてるのに、無理して技を使ったんだぜ」
などと小言を呟きつつも、私の質問に応えてくれた。
「さっきのは、あれだ。ほら、憂鬱の奴だって、能力とは別に使ってただろ、技(狐火)。それと同じだよ」
それにしては、便利過ぎると思うが。普通の技があれなら、能力はどんなのだろうか、気になる。
とりあえず、復活に向けて順調な滑り出しができた。一日置いて、明後日はいよいよ、勝てば復活が決まる嫉妬戦。高鳴る鼓動を抑え、決闘室を後にする。
○
部屋に戻ると、私は早速ベッドに跳び込んだ。
猫男の撃たれた傷は、廊下に出た時にはすっかり完治していた。勝とうが負けようが、試合で負った傷はすぐに回復するのは、何とも有り難いことだ。
寝転がりながら、私は彼に言う。
「ねえ、もう一度図書室に行こうと思うんだけど」
なぜか、休みたい気持ちより、今調べに行けば何かが分かるかもといった不確かな勘が、上回っている。
期待して無かったが、猫の反応はやっぱり。
「行ってら~。オレは、暫く横になる」
何をしても無駄なことは明白なので、私は一人で部屋を出る。思えば、二階に来てから一人で廊下を歩くのは、これが初めてだ。
途中で誰かに会ったら、どう対処しようと悩みながら進む。が結局、誰にも会わないまま目的地に着いた。
扉を開けても、中には人の気配が無い。
私は、静寂に包まれた室内を歩き回り、気になる本を片端から集め、机に座って読み始める。
表紙やタイトルに騙され、内容はそうでもないような本が大半だったが、一冊だけ違った。
自分で持って来たのに、いつ手にしていたのか全く思い出せない、猫の写真集だった。
「この本、どこに有ったっけ?」
いまいち腑に落ちないが、ページをめくる。
この写真集の作り方は、見開きの左ページに猫の写真が掲載されており、右ページに種名などのその猫のプロフィールと、一番下に、飼主だろうか人の名前が書かれているものだった。
どの猫も愛らしく、幸せそうな表情をしている。本に載る写真だから、当然と言っては当然なのだが。それでも、見ているだけで癒される。
かなり厚さのある写真集だったが、すっかり惹かれてしまった私は、一匹一匹の写真とプロフィールを、時間を気にせずゆっくり読み込んでしまった。
とうとう、残すは最後の一ページ。トリを飾っているのは、どれだけ可愛い猫か。期待を込めてめくってみると、写っていたのは。
「えっ! これって」
緑色の毛並み、それは間違いなく彼だった。
だが、右ページに記されているその猫の名は。
「…monarch」
其処にはしっかり、『モナーク』(王)と書かれている。偶然同じ種類なだけで、彼とは関係ないと思った。
しかし、更に驚くべきことが書かれていた。
モナークと言う猫の飼主の名が、私と同姓同名なのだ。こんな偶然、あり得ない。
真っ白になりかけた頭を、再起動させて考える。
私はかつて、普通の猫だった彼を、飼っていたのではないか。彼が罪を宿してしまったことにより、それまでの日常が壊れたのかもしれない。私がこの戦いも飼主に選ばれたのも、偶然ではなく必然。参加したのは、記憶とともに失った過去を取り戻すためでは。
だとしたら、なぜ教えてくれない。むこうも、実は罪を宿す前の記憶が無かったりするのか。それとも、やはりわざと。彼はどう見ても成猫だ、子猫では無い。生まれつき罪を持っていたとは、考えにくい。
無理やり脳を働かせたので、頭痛が起きた。私は机に倒れ込み、そのまま意識を失った。
意識が戻った時、私は一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった。男の声を聴くまでは。
「ようやく、お目覚めか。まったく、本当に君はよく意識を失うな。体調管理くらい、気を遣ったらどうだ」
聞きなれた声の方を向くと、審判が立っている。
「高読、貴方が私を手当てしてくれたの」
男は鼻で笑うと、首を左右に振りながら言ってくる。
「まさか、君に呼び捨てされるとはな」
完全なる無意識だった。私が弁解する前に、男は全身の動きを止め、真剣な面持ちで話しかけてくる。
「あの本を見たということは、少しは記憶に変動が起きたのではないかね」
審判は、私が気を失ってから今に至るまでの経緯を説明する。まず、昨日、夕食の電話を掛けた際、猫男から、私が図書室から帰ってこない事を聞いた。彼の頼みと、見回りも兼ねて、図書室に行く。そこで、倒れている私を見つけ、この部屋まで運び、一晩の間、側に居てくれたらしい。
気を失っている私の横に、あの猫の本が置いてあったことから、審判は察したみたいだ。
私が、あの本に書かれていたことから出した推論を伝えると、男は一言「そうか」と呟き、後は黙る。
考えてみれば、審判であるこの男も、確実に何かを知っているはずだが、問いただす気になれない。きっと、当の猫に会っても、同じだろう。今の私は、誰にも質問してはいけない感じがしてならない。
数秒の沈黙の末、男は時計を見て言った。
「あと三十分ほどで、傲慢と嫉妬の試合が始まるが、君はどうする。試合を見るもいいし、もちろん、自室に戻って休んでも構わない。ただ、図書館に行くことは、お勧めしないな」
言われずとも、この状態でもう一度行こうとは思わない。私は、大人しく自室に戻ることにした。
○
「おかえり、白琉」
部屋に戻ると、緑毛の猫が出迎えてくれた。私は、何も言わずただそっと、小さな体を持ち上げる。
急な行動に驚かず、彼は静かに抱かれてくれた。
そのままソファーに座って、お互いに沈黙のまま、時間だけが過ぎていく。
私が一言切り出せば、何か答えてもらえるかもしれない。そんな雰囲気だったが、どうしても声が出ない。
察してくれたのだろうか、落ち着かない私に、彼が話しかけてきてくれた。
「審判から、図書館で倒れていたお前を一晩保護したことは聞いてる。もしかして、誰かに襲われたのか」
そうではない。本に書かれていることに対して考えを巡らせていたら、勝手に気を失ってしまっただけだ。
事実を伝えるのが一番早いが、余計なことを口にして、変に悟られたくない。
怖くて、私は一向に、喋ることはできない。
すると、「なあ」と彼が声を出した。返事をしない私に怒ったのかと思ったが、実際は違った。
「ごめんな、一緒に居てやらなくて」
まさかの謝罪。本当に、私が襲われたと思っているのか。それとも、飼主と動物は助けあうべきなのに、一人で行動させたことを悔いているのか。
いずれにせよ、彼の声色からは、悲しみが感じられる。どうすればいいか考えた結果。
「レストは、悪くないよ。私が弱いのが、悪いんだ。図書館に行ったきり戻ってこない私を、あなたが探しに来てくれなかったのには、ちょっと怒ってるけど。きっと、何か訳があったんだよね」
励ましつつも、本音を漏らした。慌てて片手で口をふさぐ。抱かれていた手が離れた瞬間に、猫は跳んで人間の姿になった。そして、真っ直ぐ私の目を見て。
「言い訳になるが、聞いてくれ。ここ最近の戦い、オレはあまりお前の役に立てていない。それならなお、努力しないといけないはずだ。だが、頑張ろうとすればするほど、体が動かなくなっちまう」
その言葉が事実なら、飼主としてはこの上なく嬉しい。でも、動かなくなるとはどういう事か。
悩んでいると、一つ、予想が浮かんだ。
「レストは、怠惰なんだよね。だったら、頑張っちゃダメなんじゃないの。むしろ、やる気が無い方が、力を出せたりして」
冗談交じりに言うと、彼の目から鱗が落ちた。
「そうか。言われて見れば、そうだな。頑張ろうとか、どうかしてたわ。よし、これからは、気を抜いていくぞ。ありがとうな、白琉」
恐らく初めての感謝の言葉が、このタイミングで何て。正直、全然喜ばしくない。
でも、元気になってくれたのは、良かった。
猫男は、私を助けに来なかったんじゃなくて、来れなかったのだと分かり、少し気分が晴れた。
あとは、あの本についてのことを、何時聞くかだ。
時間には余裕がある、しっかり見極めねば。
「私の体調も戻ったし、レストも顔が明るくなったし。これでひとまずは、落ち着けるな」
最近、頭と気を使い過ぎたせいで、疲れが出てきた。もう一回風呂に行きたいところだが、なんだか、部屋から出るのも面倒に思えてしまう。
もしかしたら、猫男に感化されてしまったのか。
とりあえず、ベッドに移動して寝転がる。たまにはゴロゴロしないと、壊れてしまう。人間だもの。
体が動くようになると、すぐにシャワーを浴びて全身をくまなく洗い、今日はもう部屋から出る気は無いので、パジャマに着替える。
いいタイミングで、審判から夕食の電話が掛かってきた。もちろん、持って来てもらう。
料理が運ばれてくるまでの間、私たちは明日の嫉妬戦について、少し意見を出し合うことにした。
この戦いが始まって、未だその姿を見たことのない唯一のペア。結構前に暴食陣営から教えてもらった情報を、思い出す。
片方は、中肉中背だったか細身だったが、そんな体型の男性。もう片方は、それなりに長身で、そこそこ体格の良い男性。だった気がする。我ながら、曖昧な記憶力を持っている。
どう対処するか悩んでいると、扉を叩く音がした。
開けると、審判が料理を台車に載せて立っている。頭を下げて受け取ると、男は無言のまま去って行ったが、気にせず食べることにする。動物と一緒に手を合わせてから、箸を手に持つ。
「そう言えば、傲慢と嫉妬、どっちが勝ったんだろ」
気になることを口にする。聞いていた猫男は、箸を止めて応える。
「どっちが勝ったかなんて、どうでもいいだろ。復活するのは、オレたちなんだから」
「それもそうだね」
再び、箸を動かす。食べる早さも、普通は女より男の方が早いものなのか。彼が、先に食べ終わった。
こちらもご飯を食べ終わったので、食器をいつも通り廊下に戻し、歯を磨く。
ご飯前にお風呂に入ると、寝る時に、風呂に入ったかどうか分からなくなる。今回は、いろいろあったので、ちゃんと覚えているが。とにかく、明日に備え一刻も早く休みたかった私は、ベッドに潜り込んだ。
めずらしく、自分で目覚めることができた。時刻は、7時30分。試合は午後2時からなので、かなり時間がある。顔を洗って髪をとかし、身支度を整える。
猫はまだ寝ていたので、今のうちに素早く着替える。上はカッターシャツにカーディガン、下はスカートといった、自分的にはシンプルな服装に。
ここで、朝食の電話が掛かってきた。毎度ご丁寧にありがたいのだが、そろそろ気を使って、何も言わなくても持って来てもらいたい。
まだ寝ている猫を叩き起こし、今日の計画を伝える。
まず、午前中に武器庫に行き、闘いで使える道具を集める。その後、時間があれば、図書館で未だ調べていない本棚を漁る。昼ご飯を食べて少し休んだ後、試合に向かう。そこで勝利をおさめ、敗者復活を果たす。
と言った、私の理想を言い終わると。朝食が届いた。
ドアを開けると、いつも通りの審判が立っている。今の私は普段着なので、男も変には成らなかった。朝食と、「いよいよだな」と一言残し、去っていく。
朝ごはんは、昨日の夕食とのバランスが良く考えられており、軽めだった。
無駄話は止めといて、さっと食べ終える。
「よし、まずは道具の確保に行くぞ」
一息ついてから、二人で武器庫に向かう。
相変わらず誰もいない廊下を進み、目的の部屋に着いた。中には、誰もいない。気兼ねなく、使えそうで、尚且つ邪魔にならない大きさのものを選ぶ。
カバンに詰めて、誰かに見つかる前に出る。
次に来た図書室にも、人はいなかった。まだ行ったことのない、本音を言えば、薄暗くて近寄りがたかった奥の方へ、猫男と一緒に行く。
人気は無いが、それが一層恐怖心をかきたてる。けれど、特に気になる本は見つからず。そもそも、光が薄くて見にくいし、読書スペースまでは若干距離あるしで、何の収獲も得られないまま、部屋に戻った。
お腹はあまり空いていないが、一日三食は必須。量を少なめにしてもらった昼食を取り終え、試合前最後のグダグダタイム。時間の無駄遣いを堪能して、気持ちを入れ替え、決闘室へと足を踏み出す。