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バトル・クライム  作者: 緑羅 贈
1/10

邂逅

 目が覚めると、森の中で倒れていた。

 どのような経緯で今に至るのか、全く思い出せない。

 それ以前に、自分の性格や容姿、名前すら分からない。

 体の形状から、女であることは確かである。それでも、自分がどこのだれで、どうしてこの場所にいるのかを知らないのでは、話にならない。

 一応、女の身体なので、一人称は私にしておく。

 私は立ち上がり、勘を頼りに歩き始める。



 数分の間、歩き続けたというのに、一向に景色が変わらない。まるで、同じところをループしているような。鬱蒼と茂る草木に囲まれているので、視界には同じに映っているだけかもしれないが。

 気を取り直して、今までは真っ直ぐ進んでいたが、今度は体を90度右にまわし、再び歩き始める。

 森から出られないかもと、心配することも無く。



 もう何分経ったか分からない。太陽の光が真上から差し込んでいるので、正午位だとは思うが、正確な時間はハッキリとしない。

 疲労と空腹、それに、意味不明な状況に対する憤りで、頭がクラクラしてきた。

足がふらつき、何度もこけそうになる。仕方ないので一旦、足を止めて地面に腰を下ろす。

 喉が渇ききり、息が乱れ声も出せない。出したところで、誰かに助けてもらえることは無いのだが。

 妙に蒸し暑く、風も吹いていない。高温多湿と言ったところだろうか、森だし。

 など、朦朧とする意識の中で雑念が鳴りやまない。頭を抱え、精神を落ち着かせる。治まったところで顔を上げると、目を疑った。

 目の前、正しくは、木々の隙間から幽かに見えるところに、何かしらの建物が存在していた。

 遂に頭がイカレたかと、半ば絶望した。はずなのに、脳の指示とは関係なく、体が建物へと動き出す。

 そして、とうとう入り口前まで来てしまった。

 近くで見て分かったが、かなり大きい木造建築の三階建てで、昭和の学校か病院みたいな外装だった。

 木造の三階建てとはまた珍しいと思ったが、それよりも、建物が傾いた様子は無く、窓ガラスだって一枚も割れたりしていないのが、気になった。

 つい最近まで、誰かが利用していた雰囲気だ。

 こんなところに入ったって、何とかなるはずがない。むしろ、人に見つかって問いただされでもしたら、面倒なこと極まりない。そう言った考えとは裏腹に、私は入り口のドアノブを回し、玄関を開けていた。

 ゆっくり中を覗き込むと、驚くほど真っ暗だった。一条の光さえ、差し込んでいない。

 とことん不気味ではあるが、中に入らずにはいられなくなっていた。よって、建物内に足を踏み入れる。

 体が完全に室内に入ると、その瞬間に、開けっ放しにしていたはずの玄関が閉まる。外に出ようとあがいても、一向にドアは開かない。

 お決まりのパターンと言うやつか。

 明かりの無い屋内で、一人たたずんでいると突如。

「ニャ~ン」

 甲高い猫の鳴き声が聞こえた。と同時に、廊下には赤色の光を放つ蛍光灯がつく。

 恐る恐る足元を見ると、世にも珍しい緑色の毛並みの猫が、礼儀正しく座っていた。

 猫は、もう一度なくと、私を案内する課のように歩き出した。大人しく、着いていく。

 ほんの少し歩いただけで、猫はとある部屋の前に倒れ込む。疲れたからか、それともこの部屋に何かあるのか。分からないので、両手で猫を抱き上げると、その部屋のノブを回し、躊躇わず中に入る。

 室内には、窓の外を見ている、要するにドアに背を向けた形で、長身の男が立っていた。

 私は声を掛けようと、口を開いた。が、その前に男は振り返り、私にこう言葉を発した。

「ようこそ、10番目(ラスト)挑戦者(チャレンジャー)よ。私の名は高読(こうどく)霊夢(れいむ)、この度の戦いの審判役だ。質問があれば、何なりと」

 まさかの急展開、動揺が隠せない。だが、聞くだけ聞いておかなくては。このままでは、取り返しが。

「あの、戦いってなんですか。私、この森で迷ってしまい、偶然この建物を見つけたから、中に入っただけなんですけど」

 高読と名乗った男は、驚いた表情もせず、只静かに聞き返してきた。

「失礼だがお嬢さん。君はどのようにして、この森で迷ってしまったのかな」

 なんだか上から目線で話してくるコイツに腹が立ったが、正直に応える。

「気が付いたら、森の中で倒れていたんです。それで、自分がどこのだれで、なんでこんな所にいるのかも、全然思い出せなくて」

 今の私の言葉を聞いても、男は顔色一つ変えず再び聞いてくる。

「それは、記憶喪失というやつかな」

 興味無いといった態度に、思わず殴り掛かりそうになった。でも、体格的に勝てるわけ無さそうなので、グッと堪える。

「普通に考えて、そうじゃないですか」

 適当に返事をした私に、男は突拍子もない事を言う。

「特別ヒントを与える訳ではないが、何も知らないのでは流石に不利なのでな。教えてやる、お前の名前は夜桜白琉(やざくらはくる)だ。後は、戦中に自力で思い出すんだな」

 頭が真っ白になった。なぜ、初対面の男が、私の名前を、しって、いる、んだ。

「どうしてですかっ。どうしてあなたは、私の名前を知っているのですか。いえ、私は記憶を無くしているので、それが本名なのか信じかねますが」

 言いかかる私を、男は平然とあしらう様に。

「本名だとも。なぜなら、君の名は挑戦者名簿に掲載されているからな。先ほど、十番目と言っただろう。他の9人の名は確認済みだ。よって、君が最後の一人、夜桜白琉で間違いはない」

 件の名簿らしきものは見当たらないが、私が挑戦者とは、一体何のことなのだ。

 戸惑いが顔に出たのか、男は不敵な笑みをこぼしながら、話しかけてくる。

「君は本当に何も知らないのだな。いやまあ、記憶を無くしているなら仕方ないか」

 一呼吸置いて、男は説明を開始する。

「いいか、一度しか言わないからよく聞くんだぞ。君が今から参加するのは、人間が所有する罪の中で、どれが一番凶悪で、重いかを決める闘いだ」

 男が言うには、人間の持つ七つの大罪。傲慢・憤怒・強欲・暴食・嫉妬・色欲・怠惰。加え、過去に存在した、憂鬱・虚飾。以上、9種の罪を、9種の動物に宿らせ、契約した動物(ペット)飼主(キーパー)として共に戦い、勝ち残った一組には特典として、№1の称号とは別に、どんな願いでも一つだけ叶えてもらえると言う。

 ちなみに、負けたらどうなるかは、教えてもらえなかった。それは、恐怖以外の何物でもない。

「これで説明は終わりだが、最後に何か、聞いておきたいことはあるか」

 もはや、完全なる上から。あきらめて、質問する。

「契約する動物は、どうやって決めるんですか」

 割と重要なことなので、真剣に聞いた。

 参加は決定事項らしいので、文句は言わない。それに、参加をすれば記憶を戻す手掛かりも見つかるかも。

 一方、私の本気の問いに対し、審判役の男は、申し訳なさそうな、呆れたような、よく分からない顔で、ゆっくりと答える。

「実は、契約を結ぶ動物決めは、早い者勝ちなんだよ。だから、最後に来た君と契約をする動物は、そこで退屈そうに横たわっている猫と、決まっているんだ」

 抱きかかえて部屋に入ったはずだが、どうやら話している最中で、放していたらしい。

 猫は、話に区切りがついたのを察したのか、またしても私の足元へとすり寄ってくる。今度は放さないように、絶妙な力加減で抱きかかえる。

 ふと、契約を結ぶうえで疑問が浮かんだ。

「あの、この子の罪ってなんですか。それと、戦うのならやっぱり、技とか持っていたりしますよね」

 素朴な疑問だったが、男は愛想も無く。

「それは、そいつに直接聞くんだな。あと、戦いには予め日時が定まっているから、勝手に戦闘は始めるな。それから、これが君たちの部屋の鍵だ」

 9と書かれたプレート付きの鍵を、渡される。腑に落ちないが、仕方ないので用意された部屋に向かう。



            ○



 部屋は、一階の一番端っこだった。廊下の途中に階段があったが、ロープが張られて立ち入り禁止になっていた。だが、今はそんなことどうでもいい。

 一番の問題は、何日続くか分からない戦いに参加するのに、私物が何一つないということだ。森の中で気が付いた時には、既に手ぶらだった。そのまま現在に至るので、何もないのは当然のことだが。

 部屋に設置されていたベットの上で途方に暮れている私に、猫は優しく寄り添ってくれる。

「そう言えば、審判の人があなたに聞けって言ったけど、喋れないよね。猫だもんね」

 猫は、鳴くこともせず、ただ静かに私の側にいる。

「悩んでいても何も始まらない。よし、シャワーでも浴びて、リフレッシュしよう」

 この部屋は、下手なホテルより設備がいい。

 テレビ、洗濯機、冷蔵庫はもちろん、シャワーとトイレが別だし、机やソファー、フカフカのベッド、エアコンに固定電話まで着いている。広さも大分ある。   

 洗濯機は、洗剤を入れてボタンを押すと短時間で、すすぎ、脱水、乾燥までしてくれる優れもの。シャワーを浴びている間に終わることを祈って、着衣物を全て洗う。洗剤も、室内用のが用意してあった。

 湯船は無かったが、温かいお湯を万遍なく浴びて、これまた用意されていたボディーソープやシャンプーにリンスで、余すところなく全身を洗った。

 乾燥終了までまだ時間があったが、モフモフのバスタオルに身を包んでいるので、少しの間はこの姿でいることにする。窓の外は、既に真っ暗だった。

 ここでまた、ふとした疑問が浮かぶ。

「外装は古めかしい木造なのに、なんで室内はこんな洋風建築なのかな」

 独り言をつぶやいた。聞こえていたとしても、どうせ猫だけだろう。あれ、そういえば。

「まだ、あなたの名前、決めてなかったね」

 猫を抱きかかえてソファーに座り、名前を考える。

 何分か悩んだ結果、やっぱりシンプルな名前にしようと決めた。そこで出て案が。

「緑色の毛並みだから、グリーン。森の中の建物内で会ったから、フォレスト、ビルディング…は、ないな。ん~、どうしよう。あっ、そうだ」

 一つ、ピッタリの名前を思いついた。

「ここは、(フォレスト)。私は、記憶(メモリー)喪失(レスト)。だから、あなたの名前はレスト。うん、決まり。宜しくね、レスト」

 ようやく、動物の名前を付ける。その瞬間、猫の体が突如光り出した。私が吃驚して手を離すと、膝の上からジャンプし床に着地。そして、猫の姿から徐々に、人間へと姿が変わっていく。

数秒で、完全に成人男性みたいになった。呆気にとられている私に、猫男は若干高めの声を浴びせる。

「なあ、飼主。あんた、名前付けんの遅くね。確かに、正式に契約を結ぶためには名付けが必要とか、名前を付けられた動物は人間になれるとか説明しなかった、あのクソ審判が一番悪いけどさ。でも、もう少し早めに付けてくれねぇかな。シャワーより先に、とかさ」

 猫は、喋れるようになった途端、大量の愚痴をこぼす。ていうか、オス猫だったんだ。…ん? オス…。

 今の自分の姿を、見つめ直す。そう、裸体にバスタオル一枚。いや、まだ隠せているだけマシだ。さっき、服を脱いでからシャワー室に入るまでの数秒間、私は完璧な裸だった。たしか、その姿を、コイツに見られていてような。ああ、羞恥心が込み上げてくる。

 恥ずかしさのあまり奮えている私に、猫男は飄々と話しかけてくる。

「おーい、聞こえていますかぁ。あんた、オレに質問したいこと、色々あるんじゃないのか」

 そうだった、喋れるようになったということは、教えてもらうことができる。

 今更恥ずかしがってもどうしようもないので、とりあえず気になることを、片端からぶつける。

「それではまず、なんでアニマル状態では裸なのに、人間になったら服を着ているんですか」

 急速に、今のが一番知りたい疑問となった。

 猫男は、右手で頭を掻きながら。

「んー、やっぱ裸じゃ、心許ないからっしょ」

 確かに、変身する度に全裸で登場は困るが、なんか納得はいかない。

「まあ、細かいことは気にするなよ。それより、もっと知っておかなきゃいけないこと、あんじゃねぇの」

 だよね、ですよね。じゃあ、次に行ってみよう。

「では、どうして人間になる必要があるのかと、もう一度猫の姿になることはできるのか、教えてください」

 なるべく、手っ取り早く聞いていく。

「戦闘になったら、人間の姿の方がやりやすいから。人間の姿にも動物の姿にも、いつでも自由に変身可能」

 彼も、簡潔に応えだけを述べる。

「それじゃあ、いよいよ。あなた、レストに宿った罪と、能力的な何かがあれば、教えてください」

 彼は、よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりの顔で、悠々と応える。

「オレに宿った罪は、怠惰。他の飼主たちは、誰もが一度はオレに目を向けたが、結局誰も選ばなかった。なんでか分かるか」

 ここで、いきなりクエスチョンを返された。なぜかと聞かれても、思い当たる理由は一つしかない。

「怠惰では、勝てそうにないから、ですか」

 発言が素直すぎたかと、言った後で悔いた。しかし、彼は笑いながら。

「ビンゴだ、飼主。歩くのすら面倒と思っている奴と組みたいなんて、普通は成らないよな。なんせオレ、自称最弱の動物だし」

 速攻でイラついた。コイツを打ん殴ってやろうと拳を構えたが、なんとか抑える。

「いいですよ、あなたが最弱でも。どうせ私も、飼主の中では最弱でしょうし。激弱同士、やられましょう」

 本音だ。記憶が無く、規則も知らない私が、他の挑戦者と互角にやり合えるはずがないもん。

 自己批判勝負を挑んだつもりだったが、彼の表情が一変、凄く真剣なものとなった。

「オイ、御宅、なんか勘違いしてねぇか。オレはあくまで、自分は弱いと言っただけだ。戦う前から負けを認めたりは、一切しねぇからな」

 瞳は、真剣そのものだった。獣の睨みにひるんだが、頑張って聞き返す。

「じゃ、じゃあ。何か勝算は、あるの?」

 声を振り絞って質問すると。

「まぁな。さっきのあんたが言ったように、動物にはそれぞれ、能力が宿らされている。オレのは、割と最強クラスの物だぜ。まっ、最後の切り札だがな」

 どんな能力なのか、概要だけでも教えてほしいと頼んだが、その時までのお楽しみと、何もヒントをもらえなかった。意地悪だ、この猫男。

 私が精一杯睨みつけても、彼は平然としている。そのうえ、軽い口調で、こう言ってきた。

「あのさぁ、飼主。折角付けたんなら、オレのこと名前で呼んでくれよ。それと、契約を結んだんだから、お互い敬語は無しと言うことで。タメ口で頼むわ」

 あなたに敬語を使われた覚えは無いんですけどと、心の中で突っ込む。

「分かった。ならこれから、レストはタメだ。あと、レストも私のことは名前で呼べ、いいな」

 敬語をやめると、変に口調が強くなる。

「おっ、いいねぇ。敬語キャラの上から目線、そういうギャップ萌え的なの、オレ結構好きだぜ」

 意味不明だが、喜ばれたなら別にいい。

 言葉づかいもそうだが、彼は見た目もチャラい。

 髪は明るめのオレンジ色で片目が隠れており、猫毛同様に全身緑色の衣類に包まれ、なぜか片耳イヤリング。イケメンのような整った顔立ちに、色白の肌。

「レストは、なんだか綺麗だな」

 ふと、声に出してしまった。目の前で言ったので、当然彼の耳にも入っている。

 分かりやすく、色白の顔が段々と赤く染まっていく。どうやら、意外と純粋らしい。よく分からないが、なんだか苛めたい衝動に駆られた。

 その時、部屋の固定電話が鳴った。私が受話器を取ると、聞こえてきたのは審判役の声。

 夕餉の支度ができたが、食堂に来るか部屋で食べるか、どちらがいいかということだった。

 食堂に行ったら、他のペアと顔を合わせる可能性が高いが、私はあえて、行くことにした。

「という訳で、ご飯食べに行くぞ、レスト」

 ドアを出ようとしたところで、彼が恭しく言う。

「なぁ、白琉。先に、服を着ないか」

 未だにバスタオル一枚だった。反射的に彼を叩く。



            ○



 乾燥が終わって間もない、ホカホカの服に身を包み、私たちは食堂へと向かう。彼の頬には、紅葉マークがついている。強く、叩きすぎただろうか。

 歩きながら、何度も謝っている間に、食堂へ着いた。

「廊下では、誰ともすれ違わなかったな」

 食堂のドアの前で、私は呟く。

「まあ、これから戦う奴らと、わざわざ一緒に飯を食う物好きなんか、そういねぇだろ」

 なんだか、軽く批判された気がした。

 恐らく彼は、ご飯を部屋まで運んでもらえるサービスがあったのに、自ら食べに行くことを選択した私に、少し腹立ったのだろう。

「でもさ、レスト。部屋で食べるなら運ばれてきた分だけだが、食堂に来たならバイキングらしいぞ。労働の対価だ、贅沢しよう」

 私が、頑張って気を落ち着かせようと声を掛けたのに、この男は。

「オレ、小食だから。バイキングに来たって、そんな食えねぇよ」

 と、へそを曲げたままだ。

 だから私も、ついカッとなって。

「ここまで来て文句言うな。ほら、さっさと入るぞ」

 食堂の扉を開け、足を踏み入れる。室内には、見たところ私たちの他に4人が、既に食事を始めていた。

 今のレスト同様、もし動物が人間になっているのだとしたら、単純計算4割る2で、2組いることになる。

 誰と誰がペアで、それぞれ何の罪かは分からないので、警戒もかねてちょっと離れた席に座る。

 見た目、大人の男性が2人、大人の女性が1人、子供の女の子が1人いるが、一番食べているのは女の子のようだ。積み上げられた皿の数が、全然違う。

 私は、その女の子がとても気になった。

「なー、いつまで座ってんだ。さっさと飯を取りに行こうぜ、白琉。いい加減、腹減ったんだけど」

 緊張感の無いペットの声で、料理を取りに行く。

 彼は、意外と真剣に食べる料理を選んでいる。本当に怠惰なのか、今のところそんな感じはしない。

 私はそっと彼の側を離れ、食悦少女に歩み寄り、彼女が箸休めにお茶を飲んだタイミングで話しかける。

「あの、ちょっといいですか」

 自分のペット以外の人には、敬語で話す。

 女の子は、食事中からずっと目を閉じている。私が話しかけても、目は開けずに声の方を向いただけだ。

 反応はしてもらえたので、次いで尋ねる。

「よく食べますね。じゃなくて、あなた、名前は何ていうの。ちなみに、私は夜桜白琉。宜しくね」

 少し考えればわかることだが、ココにいるということは当然、敵に違いない。そんな子に、宜しく何て。

 でも、あまりに可愛いんだから仕方ない。小さいのによく食べて、茶髪のポニテを可愛く揺らし、意外と巨乳。何かやたらと、母性をくすぐられるんだもん。

 などと、余計なことを思っていると。

「ボクは暴食の罪が宿ったリス、名前はロニーカ。それで、あっちに座ってる男の人が、飼主さん」

 女の子は、一言で自分の素性を明かしてくれた。

 一方、指を刺された男性は、もどかしそうに立ち上がり、近づいてきた。

「初めまして、僕の名前は相場アリン。ロシアと日本のハーフだけど、生まれも育ちも日本だから、日本語しか話せないんだ」

 照れながら自己紹介する、凄く背の高い男性。でも、体は細いので、あまり強くなさそう。

 ここで女の子が、目を開いて話し出す。

「アリンは恥ずかしがり屋で、ボクとあまり目を合わせてくれないのだ。まあ、身長差もあるけど」

 二人の身長差、かなり気になる。ので、聞いてみた。

「ボクは124㎝。折角人間になれたのに、元の姿が小さいから、大きくなっても小さいのだ」

 女の子は、残念そうにつぶやく。

「えっと、僕の身長は204㎝。だから、丁度80㎝差だね。あっ、一応言っておくけど、僕はロリコンとかじゃないから。普通の、健全な男だから」

 何言っているかはわからないが、弁解する姿は愛らしい。ペットの女の子も、ほほえましそうに彼を見つめる。そこへ、私のペットが料理を持って、来た。

「あのよぉ、白琉。仮にも、この先戦う可能性がある奴らと、じゃれ合ってんじゃねぇよ」

 猫男は、野生の警戒心をむき出しにしている。

 その彼を横目で見ると、自らをリスと称したロニーカと言う女の子が、楽しそうに私に尋ねる。

「ねえ、白琉さん。今度はこっちから聞くけど、この人は何の動物で、何て名前なの」

 教えてもらったのに教えないのは、フェアじゃない。レストは、「言うな」と言っているけど、どうせ戦いになったらばれるんだし、別にいいやと思って言う。

「彼は、怠惰の罪が宿った猫。名前は、レストだよ」

 あーあ、言いやがった。的な顔をしているが、私としては、何で教えちゃいけないのか不思議だった。

 聞いた暴食ペアは、純粋に納得しただけなのに。

 あれ、そう言えば、暴食(この人)ペア(たち)の他にも、男女が一人づついたような。あの人たちは、誰なんだろう。

 と思って周りを見回すと、いきなり何かに捕まった。

 なにやら、とても柔らかい感触。だがそれよりも、息苦しい。思いきり暴れ、何とか逃れる。

 反動でこけそうになったところを、マイペットの猫男に助けてもらった。

 前を向くと、暴食の女の子よりもかなり大きな胸に逞しい雰囲気を醸す女性と、背は私より少し高いくらいだが眼鏡が似合うクールな男性が立っていた。

 貴方たちは誰かと問うと、女性は堂々と。

「あたしは、色欲の罪が宿ったウサギさ。名前は、外見に会わないけど、ミルクって言うんだ。宜しくな」

 あっ、この人も宜しくって言った。ふ~ん、ミルクか。飼主の人も、人間の姿がこんな姉御系だって知っていれば、違う名前にしたのかな。

 その飼主の人も、自己紹介をする。

「俺は井原喜助。コイツの名前の理由は、ウサギ姿が牛乳のように白かったからだ。他意はない」

 男の紹介が終わるとともに、姉御さんは口を開く。

「いやさ、あたしらは普通に飯食いに来ただけだけど、あんたらがお互いの素性言い合うのを聞いちまったからさ、ここであたしらだけ何も伝えずおさらばってのは、情けないだろ。だから、話に加わったわけよ」

 オォ、姐さん。その潔さ、尊敬します。

 その後色欲ペア、もとい、姉御さんは一人一人に挨拶し、飼主を引き連れて出て行った。

「すごいですね、ミルクさん。僕も、あんな気高い魂が欲しいな」

 暴食の飼主は、敵にあこがれていた。

「それはそうと、食事の続きだ。早くしないと、食堂

の閉鎖時間になっちゃう」

 リスは、急いで次の料理を取りに行く。

「白琉、お前も早く持って来い。晩飯、抜きになるぞ」

「うん、そうだな」

 話に夢中で、すっかり食べるのを忘れていた。

 急いで美味しそうな料理を皿に乗せ、最初座った席に戻り食べ始める。

 結局、満足のいくまで食べ終わったのは、部屋が閉まる寸前だった。



            ○



 部屋に戻った時刻は、21時30分を超えた頃だった。私は早くも眠たかったが、ペットが何やら話があるそうなので、聞くことにする。

「あのさぁ、なんで無闇に敵との接触を試みるかな。変に仲良くって、とどめを刺すの躊躇ったりしたら、洒落に何ねぇぞ」

 とどめを刺すとか、別に殺し合いをするわけじゃあるまいし。面倒くさがりのくせに、やたら用心深い。

「おい。今なんか、失礼なこと想わなかったか」

「別に、何とも思ってないから安心して」

 それより、早く寝たい。

 だが、猫の話はもうしばらく続きそうだ。

「いいか、恐らく明日か明後日には、闘いが始まるだろ。それまでに、より多くのペアの情報を集めておく必要がある。が、こちらの素性を明かす必要は無い」

 彼が言うには、人間の姿をしていれば、他の飼主はもちろん、同じ動物ですら、誰がどの動物なのかは分からないらしい。正体が分かれば、宿った罪も知れる。罪を知ることは、弱点の見当もつけられる。なので、彼は伝えてほしくなかったらしい。

「戦いがどういった形式で行われるかは、分からない。だが、万が一に備えて、本番まではできるだけ身を隠すのが賢明だろう。情報集めは、最低限でいい」

 そうは言うが、相手の秘密を知ったところで、最弱コンビである私たちに、価値はあるのだろうか。

「ねえ、レスト。あなたは怠惰のはずなのに、なんでそんなにやる気なの。どうしても叶えたい願いでも、あるのか。私は、記憶を取り戻したいだけだが」

 私の問いに、彼は口を閉じた。

 飼い主とペットの関係なのに隠し事とは、共闘の上で必要不可欠な信頼感に、欠けるのではないか。

今の私には分からないことだらけだ。今ここで言い争った所で、解決の兆しなど見つかるはずもあるまい。

 室内は沈黙のまま、ただ時間だけが過ぎていく状態になった。埒が明かないと思った私は、立ち上がって寝支度を開始する。彼は、止めなかった。

 当然、パジャマなどある筈もないので、ずっと着ている服のまま、ベッドにもぐりこむ。

彼は、元の猫の姿になって、寝具に入ってくる。

そのまま言葉を発することなく、深い眠りに落ちた。



 翌朝、電話のコール音で目が覚めた。

 隣の猫は、まだ気持ちよさそうに寝ている。が、起こしても構わない感じで受話器を取り、大きめの声で話し始める。相手は、またしても審判だった。

「どうしたんですか、こんな朝早くに。なにか連絡事項でもありますのか」

 寝ぼけているせいで、言葉が上手くまとまらない。

 審判の男は、特に気にした様子もなく言う。

『朝早くも何も、もう10時だぞ。まあいい、試合の要項を伝えるから、昨日と同じ部屋に来てくれ』

 それだけ残すと、電話は切れた。

「…ホントだ、10時だ。朝ごはん、食べ損ねた。いや、それより行かないと」

 猫の体を揺らす。しかし、起きる気配が無い。先に、顔を洗うことにする。

 顔を洗い、寝癖を直し、歯を磨いてベッドに戻ると、猫はまだ寝ていた。

 しょうがないので、抱きかかえて部屋を出る。

 またしても、他のペアとすれ違うことのないまま、昨日審判がいて部屋に着いた。

 中に入ると、その男が一人、室内のソファーに座っているだけだった。

「おはようございます。あの、他の方々は」

 尋ねると、男はゆっくりと口を開いて、向かい側のソファーに座るよう促した。

 私が、猫を膝の上に乗せた状態で座ると、審判はいきなり説明を開始する。他の人は、もう聞いたらしい。

「ではこれより、戦闘についての試合内容とルール説明を開始する。心して、聞きたまえ」

 男が言った試合内容は、こうだ。

 まず、クジで9種の罪を3つのグループに分ける。各グループでリーグ戦を行い、2勝したペアが、決勝トーナメントに進める。それで、トーナメントに参加する3組が決まる。トーナメントは4組で行われるので、最後の1組は各グループ2位のペアが再びリーグ戦を行い、そこで2勝したペアが進む。最後に、トーナメントで優勝したペアのみが、晴れてチャンピオンとなる。またしても、敗者については述べなかった。

 続いてルールだが、これがよく分からなかった。

 各ペアを1とし、バトルは1対1で行われる。勝敗の決め方は、戦闘が始まると、人間と動物の頭上にそれぞれライフゲージが表示され、先に両方共のライフが0になった方が負けだという。

 ライフの削り方は、単純な打撃攻撃や特殊攻撃、能力によって、与えるダメージは異なるが、行われるらしい。なんだか、しょぼい格ゲーみたいだ。

 以上が、大まかな説明である。

「何か分からないことや、気になることはあるかな」

 審判は、何故か笑いながら聞いて来た。

「あの、試合内容や勝負方法はある程度の理解できましたが、最初のリーグ戦のクジは、どんな順番で引くのですか。まさか、全員一斉とか」

 審判はついに、声を上げながら笑い出した。

 私が怒鳴ると、笑いをこらえながら応える。

「これは申し訳ない、実はクジを引く順番も早い者勝ちでな。君ら以外のペアは、既に引き終えたのだよ」

 それって、つまり。

「君たちの参加するグループは、もう決まっている」

 やっぱりそうかよ、コノヤロー。

 私が思い切り睨むと、審判はやはり笑いをこらえたまま、言ってくる。

「まあ、そう怒るな。君たちがどのグループで、敵の罪がなんなのか、先に教えてやるから」

 それは、譲歩と言う奴か。納得したわけではないが、ありがたく聞いておく。

 私たちが参加するのはCグループで、敵には虚飾と強欲がいるらしい。

 ちなみに、Aグループは傲慢・色欲・憂鬱、Bグループは憤怒・嫉妬・暴食、だと教えてもらった。

「良かった、色欲と暴食は別グループなんだ」

 思わず言葉をこぼすと。

「ほう、君はその2組と友達にでもなったのかね。もしかしたら戦うかもしれない相手に情を持つとは、人がいいんだな、君は」

 嫌見たらしく、しかし正当な意見を言われた。

「そんなの、私の勝手でしょ。いくら審判だからって、挑戦者の感情にまで口を出さないでください」

 ずばり、言い返した。

 審判は、急に真面目な顔になって、聞いてくる。

「確かに、誰かに感情移入するのは君の勝手だ。だが、それより先に、やるべきことがあるのでは無いかな」

 やるべきこと。私が、一番やらなきゃいけないこと。

「記憶を取り戻すにしても、こう何もヒントが無い状態じゃ、どうすることもできませんよ」

 諦めているわけではない。でも、考えなしに動いたところでどうにかなるとは思えない。

 私は、自然と顔を伏せていた。猫は、相変わらず起きる様子が無い。

 すると、また審判が声を掛けてくる。

「それでは、この後行われる試合を見ることをお勧めする。他人の勇姿を見れば、おのずと過去の自分も振り替えられるかもしれんぞ」

 室内の時計に目をやると、11時5分過ぎだった。戦いの火ぶたが切って落とされるAブロック第1試合は、本日午後2時より行われるらしい。

 どのペアも見学自由みたいなので、審判の誘いを受けたわけではないが、行くことにする。

 だが、その前に。

「あの、お腹すいたんですけど。お昼ご飯の時間は、いつからいつまでですか」

 部屋に運んでもらえるサービスはあるが、私はやはり、食堂で食べたい派だ。

 審判は、時計も見ずに応える。

「もう始まっている、11時から13時までだ」

 ならば、一刻も早く食べに行きたい。そんな私の気持ちを察したのか、審判の男は食堂に行くよう勧めてくれた。私は、猫を抱いて昼食へと向かう。

 食堂へつづろうかを歩きながら、ふと思った。

「そう言えば、ココのご飯って誰が作ってるんだろ」



 食堂に着いた。またしても、狙い通りバイキング形式だ。今度は、なるべく料理から近めの席に座る。

 ここで、ようやく猫は目を覚ました。

 室内には、昨晩同様に暴食ペアと色欲ペアがいたので、挨拶をする。色欲ペアに至っては開幕戦で早くも登場らしいので、応援の言葉もかける。

 他には、小柄だが子供ではない男女ペアがいた。

 昨日の反省も踏まえて、お話はそこそこにして料理を取りに行く。私のペットは、もう食べ始めていた。

「早いね、レスト。よく起きたばかりで、そんなに食べられるな」

 彼の隣に座り、私も食べ始める。

「目はずっと前から覚めていた、寝ているふりをしたんだ。もしオレが起きていたら、あの審判はあそこまで喋らなかっただろ」

 猫男は、静かにそうつぶやいた。

 聞き返すのではなく、言葉の意味を考える。私は、恐らくこういう意味じゃないかと思う。

 記憶喪失で、どうして自分がこのような状況に陥っているのか分からない私だからこそ、あの男は必要以上に気にかけてくる。現状を理解しているレストには教える義理が無いので、詳しく教えない。

 ということでは、なかろうか。

 頭を動かしていると、急に体を揺らされた。我に返ると、猫男が私の顔を見ながら話しかけてくる。

「どうしたんだ、白琉。さっきから、全然手が動いてねぇぞ。何か考え事か」

 皿を見ると、さっき持って来た料理が全然減っていなかった。どうやら私は、考え事をすると周りが見えなくなる。あるいは、同時に二つのことをできない人間なのかもしれない。

 またしても、慌てて食べることになった。



「急いであんなにガッつくからだよ、もっとペースを考えろ。まったく、どうしてウチの飼主は加減することができんのかねぇ」

 部屋に戻った途端、私は苦しさのあまり、ベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。猫男の言葉を聞いて、自分は加減のできない人間でもあるのかと思いながら。

 動かないこと数分、ようやく落ち着いてきた。時計を見ると、13時30分過ぎ。試合開始まで、残りは30分しかなかった。

 本日行われる試合は、教えられたことが事実なら、Aブロック第一試合の傲慢対色欲と、Bブロック第一試合の憤怒対嫉妬の二試合らしい。

 私たちの初陣は、明日午前10時から予定されている、Cブロック第一試合。相手は、虚飾と言われた。

 作戦を立てるのも大事だが、それは今晩やるとして、今は姐さん達の勝負を見に行くことにする。

 怠惰な彼は、面倒なのと、他のペアと顔を合わせたくないのとで、行くことを拒んでいた。

 それでも、私が必至で誘うと、渋々だがついてきてくれた。伝えられた、観戦場所へ向かう。



 戦いが行われるのは、決闘室と書かれた部屋。今の私たちがいるのは、観戦室と書かれた大きなモニターのある部屋。生で見るのではなく、スクリーンに映し出された映像を眺めるようだ。

 不思議に思うのは、この建物は外装よりも遥かに中が広い。まるで、空間が操作されているような。

 構造が、とても気になる。

 しかし、それ以上に気になるのは、観戦室にいるもう一組のペア。彼らは、先ほど食堂にいた、小柄な男女。どちらが動物で何の罪か見当がつかないが、気軽には話しかけにくい雰囲気を漂わせている。

「おい、集中しろ。始まるぞ」

 隣のマイペットに声を掛けられ、雑念を振り払ってモニターを見つめる。

 画面には、誰が撮っているのか分からないが、審判役の男と色欲ペア。それに、かなり筋肉質なサングラス男と小さい金髪男子の、傲慢ペアが映っている。

「井原さん、姐さん。頑張って」

 顔見知りだから応援するわけではないが、やはり、尊敬する方には勝ってもらいたい。

 数秒待った後、画面から審判の声が聞こえる。

『ではこれより、Aブロック第一試合、傲慢陣営VS色欲陣営の試合を、開始する』

 審判はそう言い終わると、突如として画面から消えた。が、残された2組は驚いたそぶりも見せず、お互いを睨み合っている。

 私だけが混乱している状況で、戦闘を開始する鐘のようなものが鳴り響いた。

 と同時に、姐さんことミルクが、敵の筋肉質な方へ跳びかかる。飼主の井原さんは、落ち着いて様子を見ている。一体、どんな作戦なのか。

 ウサギだけあって、姐さんは天井高くまで跳ね上がり、グラサン男に殴りかかる。一方の男は、片手を突き出すと、彼女の拳を掴み、井原さんに向かって投げ飛ばした。が、姐さんは空中で体勢を整え、何と無しに地面へ着地する。ゲージは、特に減っていない。

 罪の宿ったウサギの攻撃を止めた、グラサンが動物か。または、単純に筋肉を活用しただけで、本当は男の子が動物か。この段階では、まだ判断が付かない。

 私たちの最初の相手は、未だに姿も見たことが無い人たち。なるべく早く正体を暴けるように、やはり観察は大切だった。

 意識を画面に戻す。今度は、グラサンが色欲の飼主に向かって拳を構える。が、この男は腕を上げながら突進しているだけで、見た感じは普通の人間だ。お返しと言わんばかりのミルク姐さんに、カウンターをくらって吹き飛んだし。やはり、見た目では信じがたいが、男の子の方が動物か。

 そう思った時だった。華奢な体の男の子は、片手で筋肉だるまのような男を起こした。

 男のゲージは、少し減っている。

「うそっ。やっぱり、あの子が」

 想像は、一瞬で確信に変わった。

 金髪の男の子は、徐々に姿を変えていく。金色の毛並み、鋭い歯、小型なのにとてつもないオーラ。彼の正体は、犬だった。

「でも、なんで今。戦闘の途中で動物の姿になって、一体何のメリットが」

 その疑問も、すぐに納得のいく事態になった。

 犬になった男の子は、人間より俊敏で、柔軟な体をうまく利用して敵の攻撃をかわし、噛み付きなどで徐々にダメージを与える。気高い姐さんとは言え、草食動物のウサギ。反撃のチャンスがつかめない。また、犬の飼主も、この好機を逃すまいと再び奇襲を仕掛ける。狙いはやはり、飼主の井原さん。ウサギは犬の攻撃を防ぐのに手いっぱいで、守りにいけない。

 悲惨な結果になるのを恐れ、私は思わず両手で顔を覆おうとした。だが、その手をペットに捕まれる。

「白琉、いくら他人の勝負とは言え、観ているからには最後まで目を背けるな。どんな結果になろうと、それが真実なんだから、しっかり見て受け入れろ」

 彼は、鋭いまなざしで私に訴えかけた。

 覚悟を決め、もう一度スクリーンに目を向ける。

 そこには、太い腕に殴られる寸前の井原さんがいた。

 次の瞬間、閉じようとするのを必死にこらえる私の目に映ったのは、むせ返るグラサン男の姿だった。

 一体、何が起こったのか。全然理解できない私に、猫男は静かに解説する。

「あの眼鏡の男、相手の拳をかわすのと同時に、口に何か入れやがった。武器の持ち込み禁止とはルールになかったが、とても人間とは思えねぇ早さだ」

 どうやら、辛苦味の何かを相手に食わせたらしい。それにしても、猫が驚くほどのスピードでやるとは、彼はかなり動ける眼鏡のようだ。

 次いで、眼鏡の彼はウサギに何か声を掛けている。

 ウサギのミルク姐さんは、小さく頷くと、一瞬のすきをついて犬の腹回りを掴み、豊満な胸に抱きしめた。

 犬は、初めこそジタバタと足掻いていたが、やがて、動きが止まった。かと思うと、今度は彼自身の意思とは無関係な感じで、少年の姿になっていく。

 これが、色欲の能力なのか。

 グラサン男が、ペットを取り戻そうとまたしても、ウサギに向かって殴りかかる。それに対しミルク姐さんは、少年の姿になった犬を思い切り投げ飛ばす。グラさんは、慌てて攻撃をやめて少年をキャッチした。そして、一度呼吸を整えるために色欲ペアから離れ、ペットを降ろした。

 現在の残りゲージは、ミルク姐さんがMAXの3分の2、井原さんと犬が半分、グラサンが3分の1という所だ。このままいけば、色欲ペアが勝つかもしれない。私が半ば喜んだ、その時だった。

 犬少年が、ゆっくりと揺らし始めた。隣にいる飼主であるグラサンは、薄ら笑いを浮かべている。

 空間に不思議な違和感が漂い始めると、少年は宙に向かって腕を上げる。まるで、遠くにいる誰かに手を振るような姿だった。

 少年がその動きをした途端、ウサギ姐さんが何かを感じたように身構えた。何かヤバそうだからと言って、考えなしに突っ込むよりは正当だろう。

 10秒ぐらい経った頃か、体を揺らす少年の手に納まるようなかたちで、突如アゾット剣が現れた。

「なっ! ドユコト?」

 思わず、片言になってしまった。

 体を揺らすと武器が出るとか、能力だとしても可笑しくね。心の中で、一人ツッコミをする。

 だが、犬少年の能力はそれにとどまらなかった。右手に剣を持ち、左手を剣をかざす。すると、左手にまで武器が握られた。少年は、双剣を構える。

 飼主のグラサンも、反撃の合図と言わんばかりに手の関節や首を鳴らす。

「これは、かなりヤバイな」

 隣の猫男が呟いた。何がヤバいのか聞こうとしたが、その必要は無くなったのかもしれない。

 双剣を手にした犬少年は、持ち前の素早さと威嚇でミルク姐さんを怯ませながら、あまり手を休めることなく切り裂く。なんとか反撃をしようとする姐さんだが、ほとんど隙を見つけられずにいる。

 飼主の井原さんの方は、先ほどの反省を踏まえてか、絶妙な間合いを取るグラサンを前に、下手に動けずにいる。ポケットに手を入れているので、まだ何か策はあるかもしれないが、実行に移す機会を掴めない。

 その間にも、姐さんのゲージは減り続けている。犬は連続攻撃を仕掛けているが、流石にコンマ数秒は手が止まる時がある。その短い間に、姐さんは自分の胸に手を当てたり、打撃でダメージを与える。

 胸に手を当てるという行為は、初めは何の意味があるのか分からなかった。が、注意して見ていると、その行為をしている間は、ほんの少しだがゲージが回復している。どうやら動物が持つ能力は、一匹に一つと言うわけでは無いようだ。

 犬少年は攻撃に夢中で、彼女の微々たる回復には気づいていない様子。だから、姐さんは戦闘が一時中断している時には回復しなかったのだろう。自分に回復能力があるとは、相手に知られないように。それでも、回復する量より食らうダメージの方が大きいので、彼女のゲージは犬少年よりも少なくなっている。

 姐さんは気がかりだが、井原さんも無視できない。今度は彼の方に目を移すと、こちらも戦況は芳しくなかった。いつの間にか、彼のゲージはグラサン男と大差ないくらいにまで減っていた。

 しばらく見ていると、それまでずっとカウンター狙いで動かなかった井原さんが、自ら攻めに行っている。

 その都度、ポケットから謎の薬やスプレーを取り出すが、筋肉男も学習するのだろう。馬鹿みたいに叫ぶのをやめ、口を堅く閉ざしている。恐らくは催涙スプレーと思われるものも、グラサンを掛けている相手には通用しない。その上、立場が逆転したみたく、奇襲の度に打撃のカウンターを受ける。

 ついに、彼のゲージはグラサンを下回ってしまった。色欲陣営に逆転の兆しが見えないまま、飼主も動物も残りゲージが僅かとなってしまった。

 その時、井原さんが掛けていた眼鏡を外す。

 それでどうにかなるのか分からなかったが、意外にも効果はあった。

 殴られるにつれ落ちて行った初めの頃のスピードが、取り戻ったのだ。ボロボロの体からは信じられない速さで、グラサンを翻弄する。

 でも私は、いくら素早さが戻っても彼の細い腕では、あの筋肉だるまに大したダメージは与えられないだろう。と、ちょっと失礼なことを思った。しかし、それなりにゲージは削られている。

 不思議に感じたが、目を凝らしてみると、その手には小型のナイフが握られていた。薬品だけでなく、普通に殺傷効果のある武器も保持していたらしい。

 井原さんの勝利を祈りつつ、目線は再び姐さんへ。

 こちらは、未だに状況が変わらない。むしろ、悪くなっている。隙をついて攻撃することもできず、防戦一方となっていた。もはや、回復など何の意味もない程、ゲージは消滅寸前だ。

 それでも、何とか粘ろうとする姐さんは、回復できる時にはなるべくしている。同じように、彼女は自分の胸に手を当てる。違ったのは、犬少年が手を止めたのだ。彼は腕を降ろすと、姐さんのゲージを見る。

 回復能力が、ばれてしまった。

 少年は一瞬笑うと、表情を一変させて双剣を構えなおす。辛くても目を逸らしてはいけない。心では分かるのに、反射的に目線を井原さんに向けた。

 そのタイミングで、闇雲に振られていた筋肉グラサン男の腕が、偶然にも彼に当たった。これから起こりそうな恐怖から背けた目に、別の恐怖映像が映る。

 私は、叫びたくなった。

 画面の中の姐さんも、同じ気持ちだったらしい。

 自分の飼主が、凶暴な腕に殴り飛ばされたのだから。犬少年は、その機を逃さなかった。姐さんの意識が、目前の自分から遠くの男に移った瞬間、彼女の胸に剣を深く突き刺した。それが致命傷となり、姐さんのゲージはついに0となった。0になった者がどうなるか、今やっと分かった。

 存在が、戦闘空間から消去されるのだ。

 数秒後、飼主の井原さんも同じように、消された。

 色欲ペアが画面上から消えると、今度は審判の高読が、姿を現した。

『Aブロック第一試合は、傲慢陣営の勝利。次のBブロック第一試合、憤怒陣営対嫉妬陣営の試合は、一時間後より開始する。では、一旦映像を停止する』

 その言葉とともに、画面は暗くなった。

 私は、ペットの言葉も聞かず、慌てて部屋を飛び出した。行先はもちろん、決闘室。

 戦闘の参加者以外は入れないようになっているので、扉の前で待っていると、一番最初に出てきたのは。

「ミルクさんっ、井原さんっ。無事だったんですね」

 色欲ペアだった。私は、安心したのか涙をこぼす。

 恥ずかしいけど、気持ちを抑えることはできない。そんな私の肩を、姉御肌のウサギは強くたたきながら笑って言う。

「なんて顔してんだい、あんた。行く行くは敵になるかもしれない奴らの生存に安堵するとか、お人好しにも程があるよ。ほら、もう泣かない」

 彼女は、私の涙をぬぐってくれる。飼主さんは、クールさを保つように、眼鏡の真中を人差し指で上げる。

 私は、気になった事を聞いてみる。

「あの、お怪我は大丈夫なんですか」

 二人とも、見た感じ目立った外傷はないのだ。

「それなんだよ。多少の痛みは残ってるのに、傷痕とかはさっぱり消えてんだよね。あの審判役の、粋な計らいってやつかな」

 あの男にそんな情があるとは思えないが、戦闘後は傷が無くなるというルールかもしれない。

 私は、色々と話を聞きたかったが、戦闘直後で疲れている二人に何か申し訳ない気がしたので、ゆっくり休んでいただくよう、早めに部屋に戻ってもらった。

 一人になった私の所へ、ペットが静かに歩み寄ってきた。近くに来た途端、彼は私の腕を掴み強引に引っ張る。私が文句を言っても決して放さず、歩き続ける。部屋に着くなり、いきなりソファーに座らされた。

 顔が怖かったので、口をこもらせながら尋ねる。

「ねえ、レスト。なんか、怒っているのか」

 彼は、首を横に振る。怒ってないのなら、変に怯える必要は無い。だが、次の言葉で私の身は固まった。

「白琉。お前の目は、真実を見ていない。いや、見ようとすらしてないのかもな。そんな綺麗な瞳をしているのに、もったいない」

 それだけ言い残し、彼は一人で部屋を出て行った。



 次に私の体が動いたのは、夕食の支度ができたという内容の電話がかかってきた時だ。

 レストに言われた言葉の意味を考えながら、食堂へと向かう。側に、彼はいない。

 闇討ちされたりはしないから別にいいのだが、どことなく寂しい気持ちがわき出て来る。

 食堂には、暴食陣営とあの小柄な男女ペアの、4人しかいなかった。

 暴食の動物である、真の姿はリスの女の子に、動物とは一緒じゃないのか聞かれた。何て答えようか迷ったが、彼は怠惰だからもう来ないみたい、と言った。

 少し間を開けて、今度は私が、女の子に質問する。

「あのさ、ロニーカちゃん。さっき行われたBブロックの試合、見た? 見てたら、結果だけ教えてほしいんだけど。いいかな」

 女の子は、毎度のように目を閉じて、幸せそうに口をモゴモゴさせていたが、飲み込むと答えてくれた。

「もちろん見たよ、同じリーグだからね。勝ったのは、嫉妬の方だよ。名前的に嫉妬より憤怒の方が強そうだけど、妬み嫉みは怒りに勝ったね」

 名前的だけなら暴食や怠惰はどうなんだろうと思ったが、ココは言わぬが花だ。

 とりあえず、話はいったん区切り、私も料理を持ってくる。席について食べようと手を合わせると、猫男が入ってきた。

「どうしたの、レスト。ここには来ないはずじゃ」

「んっ、オレそんなこと言った覚えねぇぞ」

 そうだった、あれは私の口から出まかせだった。

「ごめん、気にしないで」

 彼にそう言うと、次に女の子の方を向く。

 どんな顔をしているのかと思ったら、彼女は食事の悦に完全に浸っていた。ポニテがゆらゆら揺れていて、とてもかわいい。

 特に気にして無い様子なので、マイペットの隣の席に移動する。彼もまた、私が隣に座ることを特に気にしていない。先ほどは質問に応えてくれたので、別に無視されたわけじゃないとは思う。ので、話しかける。「私の目って、何色?」

 とてつもなく冷たい目を向けられた。なぜだろう、最初は軽い話題から入ろうとした私の心遣いなのに。

 彼は溜め息を一つつくと、吐息のかかる距離まで顔を近づけ、私の頬を両手で押さえながら言った。

「お前の目は、淡紫だ。ったく、何を言うかと思えば。白琉、さっきオレが言ったことの意味、分かったか」

 彼は、真剣な眼差しを私の瞳に突き刺す。この短時間で自力で答えを導き出すなど、果たしてできるのか。

「あっ、もしかして。私が、簡単に現実から目を背ける人間だから、だったり…」

 私が言い終わる前に、彼の手に口をふさがれた。どうやら、その通りらしい。

「モガモガモガガ」

 わざとらしく、口を動かす。それがくすぐったかったのか、彼は手を放す。空気を吸い込むと、口呼吸の大切さを感じる。呼吸に必要なのは、鼻だけではないのだ。脳内に酸素が満たされたところで、話しかける。

「ふぅ。違うぞ、レスト。たしかに、私はまだ現実に真正面からは立ち合えてない。だが、向き合おうとはしている。信じて、もう少し待ってくれないか」

 正直な気持ちを言うと、私たちはまだパートナーとしての信頼関係が、乏しいと思う。ここで彼が素直に信じてくれれば、その関係は一気に深まることだろう。

 しかし、彼はまだ疑いの目を向けてくる。もう一息だ、絶対信じさせてみせる。

「レスト、人間は弱くて脆いのだ。それでも、強くなろうと日々努力している。私も、いつか必ず変わって見せる。だから、な。一緒に、頑張ろうぞ」

 どうだ、私の完璧なセリフは。まあ、本心なのだがな。さあ、なんて言い返してくる。

「よく言ったな、それでこそオレの飼主だ。己を理解し、相手に意志を伝える。負けず嫌いで、粘り強い。口だけじゃないお前を、オレに見せてくれ」

 よし、いい感じだぞ。でも、なんでコイツは私のことを、ここまで考えてくれるのか。

 パートナーだからか、飼主に忠誠を誓っているのか。いずれにしろ、信頼度は上がった気がする。

 気持ちが落ち着いたところで、目線を彼から外す。それで思い出したのだが、今いるのは食堂だったな。集中していたからか、視線を感じ取れていなかった。暴食ペアが、私たちを羨ましそうな何とも言えない目で見ている。恥ずかしくなり、慌てて食事を開始する。またしても、ゆっくりできなかった。



            ○



 部屋に戻った、時間は午後10時過ぎ。明日はいよいよ初陣だから、何か作戦は立てといた方がいいか。しかし、寝不足になったり試合に遅刻しては、元も子もない。果たして、どうしたものか。

「いいんじゃないか、寝れば」

 ベッドの上で、彼は横になりながら言う。

「でも、やっぱり少しくらいは、行動パターンとかを決めておいた方が」

 確かに、こちらが作戦を立てても、相手の動きによっては全く意味をなさないかもしれない。それでも、考えなしに突っ込むよりはマシじゃないのか。

 彼は、ゆっくり体を起こすと、そのまま横で倒れている私の上に乗ってきた。

「わっ。ちょ、レスト。どいて、重た…くない。あなたさ、人間になっても体重は猫の時と変わらないの」

 私の体にのしかかっているのは、間違いなく人間状態の彼。しかし、その重さは猫そのもの。

「ああ、この姿はあくまで仮初だからな。それより白琉、行動パターンを決めると言ったな」

 この状況で、会話をする気かコイツは。

「う、うん。もし、それが無意味になったとしても、無計画よりは価値があるんじゃないかな、って」

 そして、私もなぜ普通に応えてしまうのか。

 彼は、癖のように溜め息を一つつくと、私の顔、もとい瞳を見つめながら言葉を浴びせてくる。

「無意味になるかもしれないと分かっていて、どうして尚、計画を立てようとする。それよりもオレは、速く休んで体調を整えた方が賢明だと思うが」

 その目は本気だ。だが、私には分かる。彼の真意は、無駄な作戦を立てることなどまさに徒労の極みだと。

 単純に、早く寝たいだけだと。

「わ、分かった。分かったから、もうちょっと離れて。その、近すぎだぞ」

 テスト前夜に、ノー勉のまま寝る気分だ。もどかしいが、明日は遠足だと思い直し、寝ることにした。



            ○



 決戦が目前となった。

 私たちは今、決闘室にいる。中は意外と広く、入ってすぐの所で西側入場口と東側入場口に分かれていた。ずっと建物内にいるので、どちらが西か東か分からなかったが、これではっきりした。対戦相手が先に入っていたので、私たちは余っている西側入場口から入る。

 バトルアリーナにつづく室内廊下を歩きながら、私は彼に声をかける。

「いよいよ、初戦だな。緊張する」

 すると、彼は落ち着いた口調で言いかえしてくる。

「あまり深く考えんなよ、禿るぞ」

 コノヤロー、それが乙女に言うセリフかよ。

「レストは何とも思わないのか、戦うことに」

 少しくらいは、焦りもあるんじゃないのか。

「別に。オレはただ、お前が現実を受け止め、なるべく早く本当の自分を取り戻してもらいたいだけだ」

 やっぱり、なんだかんだ言っても飼主思いのペットだな。今はまだ、自分はどういう人間なのかを見つけるのが精いっぱいで、過去の記憶については何一つ思い出せていない。頑張って、期待に応えねば。

 薄暗い廊下の先に、明かりが見えた。

 ゲートをくぐり、アリーナに入場。そこには既に、審判の男と敵陣がスタンバっていた。

 始めて見る相手の姿は、なんとも戦い難いものだった。端的に言えば、お婆ちゃんと孫娘。擬人化したらお婆ちゃんになる動物が思いつかないということで、私は勝手に少女の方を動物と決めた。

 そのタイミングで、審判が声を上げる。

「時間となった。両陣営登場により、これより試合を開始する。では、健闘を祈る」

 そう言い残し、男は消えた。

 目の前で見ても、どういった仕組みなのか全く分からない。まさに、ゲームの中の世界だ。もしかしたら私は、本当はゲームのキャラなのではないか。

 などと、延々余計なことを考えていると、隣にいる猫男に頭を叩かれて、我に返った。

「集中しろ、白琉。相手がいかなる雑魚とは言え、油断していると足元をすくわれるぞ」

 雑魚とはまた、いくら敵とはいえ酷くないだろうか。幸いにも、相手には聞こえていないようだが。

 私が頭上を見上げると、ゲージが出現していた。

 どうやら、とっくに戦闘は始まっていたようだ。お互いに動かないものだから、気付かなかった。

 目線を敵に向ける。数秒睨み合った後、相手少女は笑顔になって唐突に言ってくる。

「こんにちは、怠惰のお二人さん。私の名前はキレイです。そしてこちらが、ペットのカメさんです」

 少女は、横にいるお婆さんに掌を向けながら、私たちに紹介してきた。果たして、信じていいものか。

 私が多少の戸惑いを見せると、ペットの猫男が彼女らを睨みながら言い返す。

「虚飾のくせに、嘘が下手とは滑稽だな。いや、半分は本当か。そっちの婆さんの名前がカメなのは、事実だろうが。ペットなのはお前の方だろ、キレイ」

 何を根拠に、この男はそんなことを言うのか。

 少女も同じ疑問を持ったのか、落ち着きを保ちながら猫男に尋ねてきた。彼は、得意気に応える。

「自分の名前は口にしたのに、ペットの方は動物名だけだろ。ペットの名前を伏せる必要は無いし、どちらかっつったら、正体の方を隠そうとするもんだ」

 へぇ、普通は何の動物かを隠したいもんなんだ。って、それでよくあの娘が嘘をついたって分かったな。

 少女は、深く息を吐くと、再び声を出す。

「すみません、私としたことが。こんなすぐバレる嘘を、言ってしまって。ちょっと、あなたを舐めすぎましたね。反省です」

 そして、俯いた。どうやら、少女の方が動物で間違いないようだ。それにしても、お婆さんは全然喋らないな。今も、口は開かずに少女の頭を撫でて慰めているだけだし。なんだか、戦いたくない。

 飼主の私が躊躇っているのに、ペットの彼はなんだかやる気だ。指の関節を、ポキポキ鳴らしている。

 猫は肉食動物だ、既に奇襲体制に入っている。一刻も早く終わらせてやろう感が、半端ない。

 もしも、敵の動物の正体が草食動物だったら、案外早く勝負がつくかもしれない。と、思った時だった。隣にいたはずの彼が一瞬で、正体は動物の少女の前まで迫っていた。無闇に突っ込むのはリスクが大きすぎるのに、なぜ彼はやってしまうのか。

 人間状態でも鋭い爪で、少女をひっかく。

 すると、少女の体は煙のように、空気に混ざって消えた。お婆さんは、薄ら笑いを浮かべている。

 現状を理解できなくて、隙だらけの私。その背後から、とてつもない殺気が。

 次の瞬間、意識が飛びそうになるほどの打撃を受けた。そのまま、ぐったりと倒れ込む。全身に、力が入らない。自分がどんな状態なのかも、さっぱり分からない。頭は回らなく、何も考えることができずにいる。

 顔を天井に向けると、少女の姿が目に映った。

どうして、いつの間に私の後ろに。

 猫男が、私の名前を叫びながら戻ってくる。私の視界から少女が消え、代わりに彼の姿が映る。

 ペットに体を起こしてもらい、前を向くと、少女は何事も無かったようにお婆さんの隣に立っていた。

 ダメージを受ける前の私でさえ、意味不明な状況だろう。今の私には、到底理解できない。体を支えてくれている彼が、私に謝っていることは分かるが。

少しずつ、身体の痛みが治まってくる。「もう支えてもらわなくても大丈夫」と、彼に手を放してもらう。まだフラフラするが、何とか立てている。

 彼は、申し訳なさそうにしながら、いつもよりも丁寧な口調で私に説明してくる。

「すまない、白琉。オレは、あいつを甘く見ていた。虚飾の真髄は、自分の外見を誤魔化すことにある。まんまと、あの女の幻術にはまっちまった」

 どうやらあの少女は、自分の身体を自在に変化させることができるようだ。そう、本来の固体だけでなく、液体にも気体にだって。

「だから、あの細い体で、あれだけの衝撃を」

 正常ではないが、どうにか脳内で繋がった。

 彼は、ポジションを私の隣から、前方に変え言う。

「面倒だが、ちょっとばかし力を使うしかないな。白琉、今からオレは、お前の側を離れない。というか、これからはほとんど動かない。いいな」

 何がいいんだ。ってか、動かずにどうやって勝つんだ。コイツの考えもまた、謎だ。

 でも、近くにいてくれるのは、凄く安心。

 彼の背中越しに、相手の様子をうかがう。何やら、向こうも攻めるのを躊躇っているようだ。

 私は小声で、目の前に立っている男に話しかける。

「なぁ、レスト。どうして、あいつ等は仕掛けてこないんだ。こっちが守りに入ったなら、向こうは攻め放題なはずなのに」

 彼は、静かに応える。

「多分、カウンターを警戒してるんだ。さっきのオレみたいに、下手に突っ込んだ結果、大切な人を傷つかせてしまうことを」

 今、大切な人って言った。それって、私のことをそう思ってくれているってことかな。やばい、嬉しい。

 なんて浮かれていると、次に彼が発した一言で、高揚していた気分が治まった。

「白琉、ココから試合が動くぞ。お前は何もしなくていいから、流れをよく見ておけ」

 お互い一歩も動かないこの状況から、一体どのようにして動くというのか。

 辺りを見回してみると、一つ、可笑しなことに気付いた。彼の影が、敵陣営に向かってゆっくりと伸びているのだ。そして、もうすぐその影が、少女の影にぶつかろうとしている。どうやら向こうは、それに気付いていない様子。

 相手に悟られないように、足元を凝視せず、チラチラと目線を動かす。

 とうとう、影と影がくっついた。その途端、少女の足元から発生した黒い霧のようなものが、一瞬にして彼女の小さな体を包み込んだ。

 飼主のお婆さんは、相変わらず声を出さないが、その表情は間違いなく驚いていた。

 少女は、飲み込まれてすぐは霧を掃おうと、必死で腕や体を振り回していた。しかし、ほんの数秒で、動きが止まる。1分ほど経ったところで、霧が消えた。

 中から出てきた少女の身体には、目立った外傷はない。ゲージも、全くと言っていいほど減っていない。

 何の効果があったのか、疑問に思った。が、すぐに意味が分かった。少女が、ゆっくりとその場に倒れたのだ。恐らく、さっきの私もこんな感じだったのだろうと、思わせるように。

 お婆さんが少女をゆすっているが、反応を見せない。

 猫男が、私にだけ聞こえるくらいの声で言う。

「あの霧は、包んだ奴のやる気を吸い取るんだ。ある程度取ると、自然に消える」

 つまり、少女は今、立っている気力さえ失っているのだ。それでは、能力も使えまい。

「よし。じゃあまず、あの婆さんから斃すぞ」

 彼は、再び爪を尖らす。これで刺されたら、確かに簡単に逝ってしまいそうだ。

「レストって、強いな」

 思わず、声に出してしまった。

「他人事のように言うな。お前は、今からオレがアイツらを刺し斃すところを、ちゃんと見ておけよ」

 彼は、低いトーンでそう言い残すと、敵に向かって歩き出した。向こうが動けないのに、こっちも動かない必要は無いから。かと思うと、彼の足が止まる。

 また背中越しに相手を見ると、少女が立ち上がっている。一方で、お婆さんのゲージが半分以上減っていた。私のペットは、まだ何もしていないはずなのに。

 その彼が、悔しさを込めた口調で呟く。

「やられた。無駄話なんか、してる暇は無かったんだ」

 無駄話とは失礼な。いや、そんなこと気にしている場合ではない。何がどうなったのか、聞かねば。

 私は、彼に尋ねた。

「あの婆さんが、自分の体力を削ってペットを正常に戻したんだ。老人は戦力にならねぇから、もしもの時はそうするよう指示されていたんだろ。あの動物、少女の格好をしているが、かなり腹黒いぞ」

 飼主と言っても、只の人間だ。能力を持っているとは、考えにくい。となると、動物がそうするように仕組んでいたとする方が、正しいだろう。

「どうするんだ、レスト。私としては、これ以上ご老体をこの場に居させる方が、心苦しいのだが」

 ペットに良いように使われているだけだとしたら、それはあんまりだ。

 一刻も早く、無駄な争いを避けたい。

「だな、そんじゃ」

 どうやら、同じ意見の様だ。彼は、私に一言残して、ペットに向かって再び攻撃を仕掛ける。

 しかし、今度はしっかりと計画が立ててある。

 猫男は、少女の前で体の向きを変え、鋭く長い爪で勢いよくお婆さんを裂く。その反動を生かし、素早く私の元へと戻ってくる。そのまま、先ほど同様に私の背後から攻撃しようとしていた少女を、突き刺す。

 狙い通りだった。

 少女に、狙われているのは自分だと思わせるようにあえて突っ込む。もちろん、本当の狙いはお婆さんの方なので、そちらを攻撃。

 すっかり騙された少女は、先ほどと同じ手で私を倒そうとした。なので、突如戻ってきた猫男に反応することができず、餌食となった。

 彼が、突き刺した爪を抜くと、少女は吐血をして倒れる。その様子を、私はしっかり目に収める。

 本当は一撃で斃す予定だったが、生憎と両者ともに、わずかだがヒットポイントを残してしまった。

 仕方がないので、少しばかり残酷ではあるが、もう一度突き刺すしかない。

 猫男が爪を構えると、刺す前に足元の少女の姿が変わっていく。完全に、動物の姿になった。その正体は。

「これって、アライグマ? だよね」

 隣の猫男に尋ねる。

「ああ、そうだな。こんな奴に時間かけちまうとは」

 どうして動物になったのか、聞いてみる。

「オレ等ペットは、何の代償も無しに人間の姿になれる訳じゃない。それなりに、体力を使うんだ。既に虫の息なコイツには、人間状態でいることもできない」

 説明が終わると、少女の時よりもはるかに小さい体に、爪を突き刺す。アライグマは、静かに消えた。

 次いで、お婆さんの方に向かう。死んだわけではないが、一応刺す前に頭を下げてから、脱落させた。

 これで、私たちの勝ちである。

 数秒ほど待つと、審判の男がどこからか現れた。

 そして、らしく告げる。

「Cブロック第一試合は、怠惰陣営の勝利。次のAブロック第ニ試合、色欲陣営対憂鬱陣営の試合は、本日午後二時より開始する。では、一旦映像を停止する」

 言い終わると同時に、審判はこちらを向く。

「おめでとう、見事な勝利だった。次も勝てば、トーナメントの参加する権利を得る。次回の君たちの試合は、明後日の同時刻からだ。では、今後も健闘を祈る」

 必要事項だけを端的に伝えると、審判は消えた。

 静まり返った場内を、私たちは後にする。



 マイルームに戻ってきた、時刻は午前11時37分。間もなく、お昼ごはんの時間だ。この建物は、無駄に広い割には時計の数が少なすぎる。

「はぁああ、何かすごく疲れた。激しいバトルをした、って感じは無いのに。なんでだろ、無駄に緊張していたからかな」

 ベッドに倒れ込み、体を伸ばしながら言葉を漏らす。

「まぁ、初戦だったしな。でも、これで多少の辛い現実くらいなら、向き合えるようになったんじゃないか」

 ソファーに靠れかけながら、猫男が言う。

 確かにそうかも。森の中で倒れていた頃に比べれば、相当マシになったはずだ。

「それにしても、お腹すいたなぁ」

 その私の言葉を最後に、昼食の時間を知らせる電話がかかって来るまでの数分間、室内は沈黙になった。

 かなりお腹が空いていた私は、通話終了と同時にドアに向かう。ペットに声をかけたが、返事は無い。

 渋々、足をソファーに向かって動かす。近づくと、そこに人間の姿が無いことに気付く。更に近づくと、ソファーの上でスヤスヤ寝ている猫がいた。

 何だか久しぶりに見るような気がするその姿に、思わずキュンとしてしまった。

「もう、仕方ないな」

 猫を抱きかかえ、静かに部屋を出る。

 相変わらず、食堂につづく廊下では誰ともすれ違わなかった。ここまで来て、まだ食堂に行くことを躊躇うペアがいるのか、不思議に感じた。

 片腕で猫を抱えたまま、食堂の扉を開ける。

 中にいたのは、いつも通りの暴食ペアと、なんだか機嫌が良さそう(姐さんの方だけ)な色欲ペア。それと、あのよく見かける小柄な男女ペア。ここまではまあ何というか、そこまで気になることは無い。

 じゃあ、何が気になるのか。それは、一人ぼっちで黙々と食事を進める、初見の金髪メイド服女。

 彼女を見ていると、向こうもこちらの視線に気付いたのか、持っていた箸を置いて歩み寄ってきた。

 目の前まで来ると、メイドは口を開く。

「初めまして、お嬢様。早速ですが、死にますか消えますか殺されますか、どれがいいですか」

 一息で告げられたので、聞き取り難かった。

 私は、彼女の言葉を脳内で再生(フラッシュバック)する。もう少しで理解できそうなところで、再び声を出された。

「冗談です、気にしないでください。ところで、あなた様どういうおつもりですか。ペットを動物状態で連れてくるなど、自分が飼主だと言っているも同然です」

 そうだった、(レスト)も言っていた。無闇に動物にならないのは、どちらが飼主か相手に知られないためでもあると。もしかしたら、今後の対戦相手がいるかもしれない場所に動物のまま連れてきてしまった何て、猫にバレたらまた怒られるかもしれない。

「まっ、その時はその時か」

 声に出ていた。メイドが聞いてくる。

「何が、その時なのですか」

 これ以上、墓穴を掘るわけにはいかない。

「ううん、何でもない。あっ、私の名前は夜桜白琉。宜しくね、えっと…」

 こちらが名乗ったら、彼女も名乗り返してくるだろ。

「ユラルコです。こちらこそ、お願い申し上げます」

 狙い通り。名字まで言ってくれたら、飼主決定だったけど。流石に、そこまでは口を滑らしてくれないか。

 ま、顔と名前は覚えたし。とりあえずは、いっか。

「はい、ユラルコさん」

 軽く会釈をし、私は自然な流れで彼女から離れる。

 今度は、自ら色欲陣営の方に向かう。昨日の敗戦の傷も癒えていないはずなのに、この後すぐ試合何て。

 心境と、なんでそんなに元気でいるのかを、聞くために。まあ、姐さんの方だけだが。

「こんにちは。ミルクさん、井原さん」

 すっかり顔見知りなので、もはや躊躇いは不要。

「オウ、白琉ちゃんじゃないか。さっきの戦い、結構見物だったよ。次戦の、参考にさせてもらおうかな」

 既に食事を終えた様の、男性口調の姐さん。私たちを参考にとか、ちょっとばかり照れくさい。

「大変ですね、昨日の今日で。戦いが終わったばかりでこんなに疲れているのなら、一日だけじゃそんなに回復しないんじゃないですか」

 個人差はあるだろうし、明日になれば自分も分かることだが、素朴な疑問は隠せない。

「ん~、まあね。あたしら動物は、案外すぐに回復するもんだけど、人間はさ。ほら、あたしの飼主なんかまだ、気分が暗いんだよ」

「うるさい」

 確かに、姐さんに比べ井原さんは、お疲れの様だ。箸の進むスピードが、やたらと遅い。

「でもさ、疲れているから不利とか、相手は万全だからズルいとか、そんなの言い訳になんないよ。自分がどんな状態でも、勝った方が強いんだから」

 かっこいいぜ、姉御ぉ。貴方たちの勝利を、心から望むよマジで。

「絶対に勝ってください、応援しています」

 私が声援を送ると。

「あははっ、本当に良い子だねぇあんた。なんだか、返って戦いたくなっちゃったよ。こりゃあ、次は負けられないね。なっ、喜助」

「ああ、もちろんだ」

 姐さんは、名前を呼びながら飼主の背中を叩く。飼主の井原さんは、いつの間にか食事を済ませていた。

 笑いながら、姐さんは私に言ってくる。

「じゃあ、あたしらは試合があるからもう行くけどさ、あんたはあっちの暴食嬢ちゃんたちにも声援送ってやってよ。あの娘らも、あたしらの後に試合だから」

 そう言って、色欲陣営は食堂を出て行った。現在、一番余裕のないペアなはずなのに他人を気遣うとは、流石は姐さんである。

 今度は、もうすぐ初戦で緊張感放出しまくりの飼主とは裏腹に、いつも通り食事の悦にしたっているポニテ少女に、声をかける。

「やっ、ロニーカちゃん。相変わらず、美味しそうに食べるね」

 集中していたのか、少女は目を閉じながら食べていたので、ハッとしたようにこちらを向く。

「あー、白琉さん。にちは、今日もご飯がおいしいね」

 可笑しい、いつもと喋り方が違う。やっぱり、この娘も緊張しているのかな。

「ロニちゃんたちも、この後試合だよね。応援してるから、頑張ってね」

 すると、少女は顔を伏せ気味に言う。

「それなんだけど、見ないでくれますか」

 一瞬、何を言われたのか分からなくなった。

「えっと、それってつまり、私たちに観戦されたくない、ってこと?」

 少女は、静かに頷いた。そして。

「ボクたちも、貴方たちの試合、あえて見なかったんだ。なんだか、怖くなっちゃって」

 やっぱり、そうなんだ。私も、色欲陣営の初戦を見る時、凄く辛かった。でも、それじゃあダメなことを、今は私の腕の中で寝ている猫に気付かされた。

「分かった、じゃあ自分の部屋で、勝つことを祈ってるよ。約束は守るから、安心して」

 そう言うと、少女は笑顔を向けてくる。

「ホントですか、ありがとうございます。そうだ、先ほどは白琉さんたちの試合だったんですよね。結果は、どうでしたか」

 生で見るのはつらいが、事実は知りたいようだ。

「なんとか勝ったよ、かなり疲れたけど」

 肉体的にも、精神的にも。

 私たちが勝ったことが分かると、暴食少女と、いつの間にか近くにいてその飼主が、とても喜んでくれた。

 お礼を言って、ようやく私も食事を始めようと料理を取り集めて席に座る。

 猫は、未だにスヤスヤ寝息を立てている。

 疲れているし、とてもお腹が空いているのに、箸が進まない。これが、激しい運動をした後に起こると言われるアレな現象なのか。

 空腹だからと、調子に乗っていつもより多めにとってしまったせいか、やたらと苦しい。でも、残すわけにはいかないので頑張って食べる。

 皿の上を空にしたころには既に、食堂に残っているのは私とペットだけだった。



 重たいのは自分の身体だが、どうしても抱いている猫にもその責任を押し付けたくなる。

 なんとか無事に部屋に着くと、猫をベッドの上に置いて、私もその隣に倒れ込む。

 満腹なのと、目前で幸せそうに寝ている猫によって、徐々に夢の世界へと誘われていく。

 そして、完全に落ちた。


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