続)まほうつかいになりたいな
色々描写足らずで申し訳無い。
文才ゆたかになりたいな。
「さあ、落ち着いたらお昼にしましょう。クレタさんが食事の用意をしてくれて居ますよ。お勉強はご飯の後です」
マイヤが俺の肩を優しくポンポンと叩き、エプロンに埋めた顔を引き剥がした。
小っ恥ずかしいので顔を見られない。
用意してあった算術の問題が書いてある羊皮紙に視線を投げる。数字の書き取りと簡単な一桁の加算問題だ。
「…こんなのご飯の前にちゃちゃっと終わらせるよ」
椅子に腰掛けると置いてあったペンを取り先に墨を付け、サラサラと答えを書いていく。
勉強は苦手だったとはいえ、幼児用の問題に詰まる程馬鹿では無い。
マイヤはしかし、俺の様子を見て目を見開いた。
書き終わってペンを置くと、マイヤが羊皮紙をひったくって食い入る様に見つめている。
「なんだよ、そんなに驚く様な問題じゃないだろ?」
マイヤがじっとこっちを睨んで来る。
なんだろうか、すごく居心地悪いんだが。
はぁ、とため息を吐いてマイヤが首を振った。
「私はまだ足し算は教えてませんよ。驚かせようと誰かに習いましたね?クレタさんですか?」
やれやれ、と言わんばかりに腰に手を当ててもう一度軽くため息を吐くと、食堂へと促して来る。
お、おう。とりあえず飯でも食うか。
そういえば、ちゃんと勉強を始めるのは五歳からだっけ。先週誕生日を迎えたばかりだから、まだ数字の書き取りや簡単な文字の練習くらいしかやってなかったわ。てへぺろ。
お昼ご飯は皆で食卓を囲む。本当は使用人や侍女達と同席しての食事など貴族の常識ではありえないらしい。
でもそうなると独りっきりでの食事になってしまうので頼み込んで一緒に食べるようにしている。
大体俺貴族じゃないしね。
でもマール公から直々に預かった子供という事で、皆貴族に準じた扱いをして来るから面倒な事この上ない。
ともあれ、まだ幼い子供である事もあって、爺ちゃんも婆ちゃんもそこら辺理解して接してくれる。
マイヤだけはキッチリしたがっている様だけど。
食卓を囲んでいるのは爺ちゃん、婆ちゃん、マイヤと通いの侍女二人、村から手伝いで庭師の仕事をしてくれるおじさんと俺の七人だ。
テーブルにはそこら辺で採れた山菜の煮物や干し肉と野菜のブイヨンスープ、籠には山盛りのパンが載っている。質素でシンプルだが手が込んでいて、婆ちゃんの愛情が篭っている。
皆で農作物の出来やら、村の祭りの準備の話しやらワイワイ喋りながら賑やかに食事をする。マイヤだけはお上品にマナーを守りつつ静かに食べて居るが、皆慣れた様子でほっといている。
「祭りかぁ、良いな!僕も見に行きたい」
ピタッと皆が止まった。
「ベン、祭りの話は止めなさい。それになんですか貴女達、お喋りに夢中でパン屑が散らかってますよ」
マイヤが何事も無かった様に食事を続ける。
急に誰も喋らなくなり、スプーンが食器に当たる音と咀嚼音だけが静かに響いた。
…えっ、マジで?
屋敷から出ちゃダメとは聞いてるけど、まさか祭りにも連れて行って貰えないの?
え、これ軟禁?
……マジすか……
子供だから駄々こねればどうにかなるかとも思ったが、どうにも皆そんな雰囲気じゃない。これでもサラリーマンとして十年以上空気を読んできたから分かる。これはダメなやつだ。
いつの間にか皆食事が終わり、卓上が片付いて行く。
マイヤが仕事に戻ろうとしているのを見て思い出した。
「そうだマイヤ、書斎の本読みたいんだけどダメかな?」
この離宮はマール公の持ち物だ。当然書斎の本もマール公マリオン様の所有物で、勝手に触る事は許されない。
でも屋敷(近辺探索はしてるけど)から動けない俺には知識の源はその書斎にしか無いのだ。
「うーん、でもユリアン様はまだ文字の勉強を始めたばかりだから読めないのでは?まぁ確かに目標はあった方が良いですからね。分かりました、マリオン様に手紙で聞いてみますから、許可が出るまで勝手に触っちゃダメですよ」
マイヤが少し考えるようにあご先を摘むと、鷹揚にうなづいてくれた。さっきの件もあってちょっと優しい。
普段ならすぐに説教だ。怪我の功名かも知れない。軟禁はショックだけど…
嬉しそうにしている俺を見て、食後のお茶を飲んでいた爺ちゃんがおもむろに尋ねて来た。
「坊ちゃんは何か調べたい事でもあるんですかい?」
うーんどうしよう。魔法の使い方が知りたいなんて言ったら、もしこの世界に魔法が無かった時変に思われるかな?
子供の戯言だと笑われる?
でもさすがにフィクションでも魔法使いの存在位はあるだろ。なんか寝物語に聞いた様な気もするし。すぐ寝ちゃうから覚えて無いんだけど。
「んーと、魔法使いの物語読みたいなと思って」
出来るだけ純真なお子様ぶって瞳を輝かせながら言ってみる。
爺ちゃんはキョトン顔でこっちを見つめている。
やめてはずかしい。
「ユリアン坊ちゃんは魔法に興味があるんですかい?なんなら儂が教えてやろうか?」
………えっ
――――――――――
どうやら魔法は当たり前の世界でした。
なんなら爺ちゃん、いつも身体強化の魔法を使って薪割りしてたんだって。なんだそれ。
でも魔法の素質は本来貴族の血にしか発現しないらしい。
その昔魔族の王と戦って勝利した魔法使いの子孫が国を興し貴族となって政を司ったんだとか。
その魔法使いは神から力を授けられて魔法の能力を得たそうだ。神授の魔法使いとしておとぎ話に良く出て来る。
マイヤが夜、俺が寝付くまで読んでた絵本でもその話はあったんだと頬を膨らませながら教えてくれた。
マジでスマソ……
「まあ儂の場合、平民じゃが天才だったもんで魔法の素質があったんですがね」
ほっほっほっと笑いながら自慢して来る。爺ちゃんそんなキャラだったか?
あんま設定とか考えてないのよね。魔法…どうしよっか。