表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

第8話

矢よりも早く、強烈に放たれた石がゴブリンの頭を吹き飛ばした。


首を失った体がごろりと転がる。

直後、その体は後ろから駆け抜けていた別のゴブリンに踏みつけられ、あるいは蹴り飛ばされ、無残に置き去られた。


「すごい!なんて威力だ!」


「それだけじゃない!狙いも正確だ!」


「まるで石弓、いや大弩弓(アルバレスト)だ……」


後ろでおじさんたちが騒いでいる。


確かにタツローさんの投石は恐ろしい威力ではあるが、ゴブリンの数が多すぎる。


人間であれば仲間に一定の損害が出れば撤退を考えるものだ。

ましてや、今や奴らの数はおそらく本来の半分程度に減っている。

しかし相手は頭の弱いゴブリン。

最初は驚いていた様子だったが、今は仲間を殺された怒りに狂ったように叫びながら突っ込んできている。


ゴブリンが倒れる様子が肉眼で観察できるほど、敵は近付いて来ているのだ。


しかし、今はとにかくタツローさんを手伝うほかない。

彼に頼る以外に方法はないのだ。

次の石を拾おうと、しゃがんだ時だった。


頭上をひゅん、と何かが通り過ぎた。


「みんな!隠れて!!」


咄嗟に叫び、門の後ろにリンを引っ張る。


直後、付近に大量の石が降り注いだ。


「奴ら、真似して来やがった!」


おじさんが頭を隠しながら叫ぶ。

どうやら彼らも無事身を隠せたようだ。


タツローさんは!?


「ボールを届けてくれるのは助かるね」


彼は平然と投石の雨の中で踊っていた。


いや、踊っているように見えたが違う。

自分に降り注ぐ石を超人的な動きで全てキャッチしているのだ。


右手が前に、横に、上に、そして背後にさえも自由自在に動いて飛んでくる石を受け止めては足元に落としていく。


「しかしこれでは反撃は難しいな」


言いながら空いた左手をひょいと振って石を放り投げる。

前の方のゴブリンの足が吹き飛んだ。


「ほらね」


何がほらね、なんだろう

十分反撃出来ているような気がするが、まさか頭に当たっていないのは狙いが逸れているからだろうか。


もしかしてさっきまでの全部頭に当たってたの!?


考えている間にも、もう一体の腹にタツローさんの投石が直撃する。

体の中心に大穴の空いたゴブリンは悶えながら倒れた。

タツローさんの表情は苦々しい。


何にせよ、こちらの投げるテンポは落ちている。

キャッチの合間に素早く投げてはいるが、何も障害がない状態に比べたら投げにくいのは当然だ。


何か手は……。


「こんな状態じゃ魔法陣も書けやしないわね」


樫の杖をザクザクと地面に刺しながら、リンが愚痴る。


……これだ!


「タツローさん!これを!」


私はリンから杖を分捕り、もとい借りてタツローさんに投げた。


「ちょ、それ私の!」


「……っ!ネム、助かるよ!」


タツローさんは杖を受け取ると、右手に持った。

腕を真っ直ぐに伸ばすとゆっくりと重さを確かめるように眼前で立てる。


昨夜も見たあのポーズだ。


石の雨の中だというのに、その動作の最中には何故かひとつでさえタツローさんには当たらない。

まるで神に愛されているように。


何の神か。


それはおそらく私たちは知らない神。

彼が生涯をかけて、これほどの境地に至るまで打ち込んだ何か。

その何かの神なんだろう。


隣でリンがごくりと唾を飲み込んだ。


タツローさんの構えが変わる。


……消えた!


タツローさんが視界から居なくなった。

今まで確かにこの目で追っていた。

見逃すはずがない。

驚いていると、カキーンという抜けるような気持ちのいい音が響いた。


音の先を見ると、いつのまにかタツローさんは既に杖を振り終えて立っていた。

そして、すぐに構えると……


また消えた!


カキーン!


いや、違う。

消えているんじゃない!

ものすごい速さで移動しているのだ。

石の落下点、一番打ちやすい位置に!


「打ちごろの球だ!どんどん来いよ!」


また一つ快音が響くと、ゴブリンが一匹吹き飛んだ。


笑っている。


あの人、こんな状況で、あんな無茶苦茶な事をしながら……


笑っている。


なんという人だ!


「リン、良い木を使っているね!手に馴染む!」


「えっ、はあ?それはどうも……」


リンからもバカみたいな答えしか出てこない?

多分、目の前の光景を信じられずに呆然としているのだろう。

私もまだちょっと信じられない。


投げるにしろ打つにしろ、彼が放った攻撃は百発百中で敵を仕留めている。

どんな訓練を積めばこんな事が出来るようになるんだろう。


そんな事を考えている間にも、次々とタツローさんは石を打ち返し、ゴブリンは次々倒れていく。


私たちは、その信じ難い姿をただただ見守るのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ