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第5話

夜が明けた。


あの後、お互い疲れていたしすぐ寝る事になった。


彼はいくつかの見慣れない運動をした後に横になり、すぐに眠りに入った。


彼によるとストレッチというこの運動、やってみると案外キツい。

軽く真似してみたが彼から体の硬さを指摘された。

この人、これに関してはやたら厳しい。


とにかく私も横になったのだが、そこである事に気付いてしまった。


私、男の人を部屋に入れるのも初めてだし、

男の人と2人きりで寝るのも初めてだ。


一旦その事実が認識されてしまうと、もうダメだった。

頭は沸騰したヤカン状態。

顔もサラマンダーみたいに真っ赤になってるのが自分でわかる。


茹でオクトパスみたいになりながら、私は一睡もできずに一夜を過ごしたのだった。


翌朝、私たちはメイジギルドを訪れた。


といってもスイベは小さな町である。彼らの小屋は家を一歩出れば目と鼻の先にある。

首都などでは立派なギルド館があるらしいが、この田舎町では馬小屋と見分けのつかない程度の建物でしかない。


私の所属するシーフギルドだって同じようなものなので、偉そうなことは言えないが。


「リン、いるー?」


「あら、トップニュースのご当人がいらっしゃったわ」


ドアを開けると、すぐに彼女が出迎えてくれた。

ブラウンのストレートの髪に白い肌。

やや小柄で痩せているが、バストだけは私より大きいのが少しムカつく。

彼女は私と同じくスイベで育った幼馴染だ。


「何よニュースって」


「見出しがあるなら、そうね」


『あのネムが男に抱かれたまま帰宅!濃密な一夜を過ごした男の正体や如何に!?』


「こんなところかしら」


なぜバレた!?

誰にも会ってないのに!


「シーフギルドの管轄では闇の中にも沢山の目がある。あなたも知っている事でしょう」


「後をつけてきた彼の仕業かな」


あんたは気付いてたんかい!?


「それで、こちらの彼は紹介して貰えるのよね?」


リンがタツローさんをまじまじと見る。

……なぜか若干いらっとした。

タツローさんはただ微笑んでいる。


「言っとくけど、あんたの思ってるのとは違うからね」


私は彼の境遇をリンに話した。


「気付いたら知らない場所にいた?」


「ほら、魔法使いっていきなり消えて別の場所に出てきたりするじゃない。あれでしょ」


「空間転移の魔法は少し違うわね。あれは転移元に大掛かりな装置がいるもの。海を越えるならこの町3つ分くらいの魔法陣はいるわ」


「そんなものが東京にあるとは思えないな」


「どちらかと言うと、これね」


リンが目を瞑って右の手のひらを天に掲げる

すると、パイの皿くらいの大きさの魔法陣が現れた


「来たれ!私の杖!!」


リンが言葉を鋭く放つと、その右手にぼんやりと蜃気楼のように何かが浮かび上がる。

徐々に輪郭がはっきりとしていくと、それが彼女の愛用する樫の杖だと分かった。

彼女はやがて完全に実体化した杖を握ると、その石突で床をコツンと叩いた。


「召喚の魔法。これなら呼び出す方に魔法陣があれば成立する」


「誰かがタツローさんを呼び出した?」


「そうなるわね。ただ、人間を呼び出す魔法となるとかなり高度なものになるわ」


「使えるのは一流(エキスパート)のみ、か。心当たりは?」


「この町にはいないのは確かね。それに転移ほどじゃないけど、大きな魔法陣を書く場所もいるわ」


私は昨夜の事を思い出して首を捻った。


「あの森でそんなものは見てないわよ」


「そもそも森に魔法陣なんて書けないわよ。平らな何もない場所でないと」


「しかし、僕が気が付いたのはあの森の真ん中、ネムのすぐそばだった」


「考えられるのは、『触媒寄せ』の事故ね」


リンの杖先が何やら空中に描き始めた。

それはまるで淡い光のインクで空中にあるキャンパスに絵を描いているように見えた。


「召喚や転移する時、魔力の高い所に引き寄せられて座標がズレてしまう事があるの」


リンは言いながら完成した魔法陣を杖先でトン、と叩く。


すると、私のポケットが赤く発光し始めた。


「原因はそれね。あんた、何盗んできたの?」


なるほど心当たりがある。

昨夜ゴブリンどもから盗んだたった1つだけの成果。

私はポケットから光を放つ赤い宝石を取り出した。


「盗みはよくないな」


「弟の形見です」


「嘘もよくない」


「すごい魔力量……それが原因で間違いなさそうね。」


リンが目を輝かせている。

なるほどメイジ的には価値のあるお宝のようだ。

思わぬ掘り出し物を手に入れた、と私は内心ほくそ笑んだ。


「でも、誰が呼んだのかしら」


魔法陣が消え、光も止まった。

さりげなくポケットに宝石をしまい込む。

なんとなくタツローさんの視線が気になるが、あえて気付かないふりをした。


「そう遠くない場所で誰かが召喚魔法を使ったはず。近くに何か人気のない建物とかないかしら」


森の中やゴブリン達の洞窟は有り得ない。

地面がデコボコで魔法陣なんて書けそうにないし。

そもそもあの辺りには人なんて住んでないはずだし、まともな建物なんて……。


いや、ひとつだけある!


「ヤクス城……!」

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