表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/34

第33話

「あなた方の目的は理解した。すまないが、僕は手を貸すつもりはない」


ファムタズ卿にバットを突きつけるタツローさん。


「貴君の目的は魔石か。我等には加担せず、あくまで帰還の道を選ぶと申すか」


「そうなります」


「ならばヨツシン殿。仕方あるまい」


ファムタズ卿はヨツシンの肩を軽く叩く。

ヨツシンはファムタズの言葉を聞くと、心底嬉しそうに笑った。


「仕方ない?いえいえ違いますよぉ」


騎士達が一斉に剣を抜く。で

私たちも構えた。


「理想通りの展開ですねぇ!死体が頂けるのだから!!」


ヨツシンが合図を出すと騎士達が襲いかかってきた。

数は7、8、9……10人か。

騎士達は各々が豪華絢爛な鎧を纏っている。

少なくとも私のナイフの刃が通るような安物ではないだろう。

正面からでは勝てない。ここは搦め手だ。


私は1人の騎士の突進をかわし、足を引っ掛けた。

騎士がバランスを崩して無様に転がる。

そこに素早く組みつき、ナイフを突き立てる!


……はずだったが、別の騎士が剣を振り回して来たので、咄嗟に身をかわしてしまった。

あと少しだったのに!


「ネム。私に任せろ。」


ヘレナさんは剣を抜くと、 それを正面に構えた。

敵の騎士がそれに対して大上段から勢いよく剣を振り下ろす。

彼女はその太刀筋を剣の側面を滑らせて受け流し、体制を崩した相手の小手を強く打った。

衝撃で敵の剣がガランと派手な音を立てて地面に落ちる。


しかし敵の勢いは止まらない。


すぐさま2人の騎士が左右から襲いかかってきた。

1人目は横薙ぎを繰り出して来たが、ヘレナさんは大きく踏み込んで剣の軌道の下をくぐり抜けると、敵の腰のあたりを突き刺した。

鎧の隙間を狙った正確な突きだ。

更にそのまま前蹴りで敵を蹴飛ばしてもう1人を巻き添えに倒す。


立ち上がろうとする敵に、ヘレナさんは剣を突き付けた。


「どうした!その程度では無いだろう!」


なんという華麗で苛烈な剣さばき。

実は今の今までこの人はポンコツだと思っていたが、そう言えば戦う姿は見たことが無かった。

仮にも相手も騎士なのに圧倒してしまうとは……。


「ファムタズ卿!貴方は誇りある騎士だったはずです!なぜ魔神などの手を借りるのです!?」


「魔神など、とはお言葉ですねぇ」


ファムタズ卿は何を考えているのか、眉ひとつ動かさない。

彼が腕を上げて合図すると、ヨツシンが騎士達の動きを止めた。


「騎士ヘレナよ。誇りとは何だ」


「……戦場で剣を振るい、民を守り、勝利して名誉を得ることです」


「そう。騎士の誇りとは戦働きによって手に入れる物だ。私も30年前に戦場にて名誉とこの地位を手に入れた。」


ファムタズ卿はゆっくりと目を瞑った。


「だが、30年だ。その間、戦らしい戦は起きることはなかった。それはあまりにも長過ぎた」


そう。30年前に大きな戦があって以来、領土間の戦争というものは起きていない。

私だって戦争がどういうものかなんてよくは知らない。


「……騎士は戦を忘れた。見よ。この金細工で飾られた剣や鎧を。このような飾りなどは戦には不要だ」


なるほど確かに騎士達の鎧は揃いも揃ってみんな高そうだ。

しかし、それは身を守るだけならば必要のないもの。

いかに目立ち、他者に自らの財を見せつけるかという事しか考えられていないのかもしれない。

ヘレナさんも自分の剣や鎧を見て赤面した。


「平和は騎士を腐らせる。私は、かつての誇り高き騎士団を取り戻したいのだ」


「ならば騎士の力だけを使うのが道理!このような邪法など捨てるべきです!」


「分からぬか騎士ヘレナ。この者達の剣を受けてもなお気付かぬというのか」


「何をっ!?」


「既に騎士達は平和に肥えつつあったのだ。女の身のそなたにさえ蹴散らされる程度にな」


「そ、そんな事は……」


「お前は世間を知らぬゆえ、剣に打ち込んだ。しかし賢い騎士達は剣よりも財を成す術に傾倒していたのだ」


「嘘です!そのような……っ!」


「既にファムタズに真の騎士は居なかった。おそらく戦など起こそうものならば反対の声ばかりになろう。その為の魔神という戦力だ。勝算があれば騎士達もついて来る」


ファムタズ卿は深くため息をついた。


「昔の騎士は違った。勝ちの目は自らの手で掴もうという気概のある者ばかりであったのにな……」


ファムタズ卿の言葉にヘレナさんは俯いて黙ってしまった。


「たがヘレナよ。お前は違う。お前は女の身でありながら剣の腕を磨き、騎士たるものは何かを知っている」


ヘレナさんがはっと顔を上げる。

ファムタズ卿はヘレナさんに手を差し伸べた。


「牢に入れた事は謝ろう。どうだ。我が下で共に騎士の名誉を取り戻さぬか」


ヘレナさんは剣を握る手を震わせながら、ファムタズ卿の掌を見つめるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ