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第32話

ズズン!という音を響かせゴーレムの手が地面に落ちる。

タツローさんの打撃によってもぎ取られて吹っ飛んだのだ。


あれだけの重さのものを木のバットで弾き返すというのは常識では考えられない。

しかし、タツローさんに関しては常識で考えてはいけない。

これがタツローさんなのだ。


ゴーレムは怯まなかった。

手の部分は失ったものの、この岩石の巨人に痛覚や恐怖はない。

ゴーレムは残った上腕で再び殴りかかってきた。

しかし、タツローさんは第2撃も完璧に捉えて『打ち返した』。

ビリビリと打撃の衝撃波が体を走る。

今度は右腕全体が吹き飛び、洞窟の壁に突き刺さった。


「二球続けて同じコース。これを打てなければプロじゃないな」


ゴーレムはそれでも止まらない。

今度は左腕でフックを繰り出してきた。


「次はスライダーか!だが、ダイスケほどのキレはない!」


これもまたタツローさんのバットが完璧に捉える。

打ち返された拳のカケラはゴーレムの顔面を直撃し、粉砕された。


単発なら打ち返される。ならば連打はどうだとばかりに左腕で連続してラッシュをかけてくるゴーレム。

しかしその悉くが打ち返され、ゴーレムの肉体を次々破壊していく。


「どうした。もうグロッキーかい?」


肩から上がほぼ無くなった頃、遂に恐るべき魔道人形は動きを止めた。

魔法陣が体ごと砕かれて破損したせいだろう。


信じ難い事だが、タツローさんは木のバット一本でゴーレムを倒してしまった。


「これが魔神……」


ヘレナさんがその場にへたり込む。

あらためてこの人の規格外の強さを認識した、という所だろうか。


「おつかれタッツ。全盛期のバッティングみたいで興奮したわ」


「ありがとうジェミニ」


ジェミニは特に驚いている様子もない。

やはりタツローさんは自分の世界でもこんな感じだったのか。


「いやいや素晴らしいですねぇ」


後ろを振り返ると、魔神ヨツシンがぱちぱちと拍手をしていた。

周囲にはたいまつを持った騎士達。

目が虚ろだ。おそらく死者だろう。

そして後ろにはファムタズ卿もいた。


どうせ出入り口はひとつしか無いのだから遅かれ早かれ追い付いてくるのは分かっていた。

うまくこの暗闇を利用して逃げられれば……と思っていたが、少し派手な音を立てすぎたのかも。


「あなたが魔神でしたか。領主殿の慧眼には恐れ入ります。ぐふふ……」


「……タツローだ」


「魔神タツロー殿、ですねぇ。あなた、ファムタズに雇われませんか?」


「君達の目的は何だ?」


タツローさんの問いに、ファムタズ卿が口を開いた。


「ファムタズとしては、隣国ミウリアンツから不当に奪われた領地を取り戻すことが目的である」


元はヤクスの領地を取り合った件の事だろう。

当時は話し合いで決着したという事になっているが、ファムタズ側は未だに納得してないという所だろうか。


「魔神殿の武力をてこに外交を行い、領地を返還させる。抵抗があれば魔神殿の力を借りる事になる」


「それはスタートラインやろ?」


ジェミニがひょいとバッグから飛び出して口を挟んだ。


「何者だ」


「ワイは『全てを識る者』魔神ジェミニ。あんたの野望はお見通しやで」


「そちらも魔神ですかぁ。あなたは色々ご存知のようですねぇ」


「私の野望だと?面白い。言ってみよ」


「まずはミウリアンツから無理矢理領土を奪い、勢いに乗って『やり過ぎる』んや」


「やり過ぎるって何よ」


「まあ、それはそこのヨツシンが大好きな類の事やろね」


「ぐふふ……」


「すると周辺諸国も黙っとらんから非難してくるやろ。それを挑発なり脅すなりイチャモン付けるなりして戦火をもっと広げる。世界中の領主が絡んだ大戦の始まりや」


「ほう」


「心躍りますねぇ」


「その全てを魔神の力で平らげ、この世界全てを手中に収める。それがファムタズの狙いや。どや?当たってる?」


ファムタズ卿の口角がグイっと上がる。

厳格な雰囲気には似合わない愉快そうな笑みだ。


「ククク、そこまで見通すか。流石は魔神よ」


「ファムタズ卿!では、真実(まこと)なのですか!?」


「その通りだ騎士ヘレナ。我が目的は世界。魔神の力を用いてファムタズがこのナージェイの全ての地を支配するのだ!」


暗い地の底に死者の騎士。

地獄にも似た異様な空間で、ファムタズ卿は邪悪な野望を高々と宣言するのであった。

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