第31話
重さというのはこと打撃においてはとても重要な要素である。
質量の大きい物体を勢いよく叩きつければ、それだけで簡単に生き物は破壊される。
特に巨大な岩などが頭上に落ちてこようものなら、人間など為す術無くなく土に還る事になるだろう。
では、その岩が石を持って動き回ればどうか。
剣は文字通り刃が立たず、弓は弾かれ、打撃すれば武器が折れる。
なのに、そいつは一撃一撃が即死級のヘビーなパンチを打ち込んでくるとしたら。
そう。ゴーレムとは本来人間にどうにか出来る相手ではないのだ。
「ほほお、自動人形やな。ちょっと原始的やけど」
「ジェミニ!あいつの弱点とか知ってる?」
「そらそうよ。体のどっかに魔法陣があるはずや。それを削るなり消すなりして破壊すれば止まるやで」
なるほど。分かりやすい弱点だ。
魔法陣ならばリンの魔力探知で見つけられるはず。
それなら!
「タツローさん!私とリンで弱点を探ります!時間を稼いで!」
リンは探知の魔法を使い、私は奴の体をくまなく探す。
探知で発光する魔法陣さえ見つければなんとかなる!
ゴーレムの第2撃がタツローさんの頭上に振り下ろされた。
タツローさんはそれをなんなくかわす。
衝撃で地面が揺れ、小石や土が弾け飛んだ。
タツローさんのスピードならあれを避けるのはわけもない事だ。
その間に弱点を!
ゴーレムがタツローさんに釘付けになっている隙に、素早く横へ回り込む。
左の脇の下にかすかに光るものが見えた。
これだ!
「リン!左腕の脇の下!」
「そんな所どうやって攻撃すんのよ!」
「氷の弾飛ばす奴あったでしょ!」
「無理無理!当たるわけないでしょ!」
全く頼りにならないメイジだ。
ここは私の方でなんとかするしかないかな。
私はバッグから炸裂弾をひとつ取り出し、火をつけた。
「くらえっ!」
狙いは完璧!
タツローさんではないが、私の投擲術もなかなかのものじゃない?
炸裂弾は見事魔法陣を削り取って……
と、そう上手くは行かなかった。
私の投げたそれはゴーレムに張り手で弾かれ、綺麗に持ち主に返ってきたのだ。
「……やばっ」
「下がれ!」
突然私の体が横に吹っ飛んだ。
ヘレナさんが私に体当たりしたのだ。
炸裂弾はそのまま闇の中に呑まれ、一瞬閃光を放って消えた。
「あ、ありがとう!」
「気にするな。それよりどうする!?」
「何やってんのネム!だから言ったのに!」
何か言い返したかったが、言葉がない。
確かに無理でした。すみません。
しかし、岩に刻まれた魔法陣を破壊するとなるとこれくらいしか方法がないのも確かだ。
タツローさんはバットを構えたままゴーレムのハンマーパンチを避け続けている。
ゴーレムに疲労はない。
タツローさんも無尽蔵かと思えるスタミナを持ってはいるが、いつかは疲れが出る……と思う。多分。
なんとかして私達でゴーレムを倒すしかないが、あんな狙いにくい所ではそう簡単には行かない。
これを作ったやつはなかなかズル賢いやつだ。
私達が手を出しかねていると、ゴーレムの構えが変わった。
大きく状態をひねり、拳を引いている。
これは今まで見たいな大振りのパンチじゃない!
おそらくより早く拳が伸びるストレートパンチだ!
「タツローさん!危ない」
「いや、これで良い。これを待っていた」
タツローさんは動かない。
ゴーレムが目標を定め、限界まで引き絞られた拳が解き放たれた。
ゴオッという風圧と共に超重量級のパンチがタツローさんを襲う。
大質量の岩の塊が高速でまっすぐ飛んでくれば、人間などひとたまりもない。
直撃すれば、即ち死だ。
そう。その筈だった。
たが、認識を改める必要がある。
タツローさんは襲いかかってきた岩石の拳を、
木製のバットで、
打ち返した。
「ラックのツーシームの方が重かったよ」
叩き折られて宙を舞うゴーレムの拳を見上げつつ、タツローさんは爽やかに笑った。