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第2話


「君、その足はどうしたんだい?」


開口一番に彼は言った。


いつのまにか目の前に細身の男が立っている。


こいつが誰なのか、どこから現れたのか、そんなことはどうでもいい。

今私がやるべき事は……。


「とにかく隠れて!」


私はそいつの胸ぐらを掴み、足元の茂みに叩き伏せ……ようとした。


動かない。


自慢ではないが、私は一流のシーフである。

荒事だってお手の物だし、男一人ぶっ倒すくらい朝飯前だ。


でも、目の前のこいつはビクともしない。


引こうが押そうがバランスを崩さず、体は細いくせにまるで大木のよう。


「すまないね。体幹トレーニングは欠かさないんだ」


男はニヤリと笑い、困惑する私の腕をスマートに下ろした。

まるで騎士が貴婦人をダンスに誘う時のような優雅で無駄のない所作。


只者じゃない。


シーフギルドには猛者が少なからず居るが、こいつは彼らと同じ匂いがする。


いや、もしかするとそれよりも……。


「まずは隠れる、か。オーケー従おう。」


こちらの訝しむ視線を気にしないのか、それとも気付いていないのか、男は私に倣って身を屈めた。


「さて、もう一度聞こうか。足はどうした?」


先程より幾ばくか声を小さい。

こちらの意は汲んでくれているらしい。

頭も悪くない。

それなら……!


「助けてください!ゴブリンに追われてるんです!」


男は表情を変えない。


「私はネム。弟をゴブリンに拐われて、探しに来たら見つかっちゃって……」


「その足の怪我もそいつにやられた、と?」


「はい……」


弟がどうこうは嘘である。

シーフギルドなんてろくなものじゃないのはギルド員の私が一番よく知ってるし、財産を盗みに行きましたなんて言ったらイメージは最悪。


と、言うことでとても助けたくなるイメージの嘘をついてみた。


嘘つきは泥棒の始まりと言うように、泥棒は嘘つきなものだ。


いや待て。何故こいつは私が足を怪我した事を知っている?


足はスプリガンの棍棒で殴られたものの、見た目にはほとんど分からないはず。

私はずっと目立たないように伏せていたし、一歩も歩いていない。

足を引きずって歩く所も見てはいないだろう。


「何故分かったかと言いたそうだね。」


「えっ!いや……」


「体の芯が傾いている。右脚の痛みを無意識にかばっているんだろう。それでは万全のパフォーマンスは発揮できない。」


痛みに耐える訓練はしている。

そう簡単に見抜かれるはずはない。

それでも見抜かれたと言うことは、こいつかなり『目』が良い。

一流の盗賊顔負けだ。


「痛みは耐えるものではない。避けるものだ。僕は現役時代一度も怪我はしなかった」


現役?

こいつ、引退騎士か何かなの?

しかし、それにしては若い。まだまだ第一線で働ける年齢に見える。

しかも、何気にこいつ私の心読んでない?


「とにかくだ。その誘拐犯に追われているわけだね」


「あっ、はい!」


「ここから君の家までどれくらいかな?」


「南に2000レールほどにあるスイべの町です。」


「……レー?すまない。よく分からないな。兎に角、あっちだな。行こう。」


彼はしゃがんだまま背をこっちに向けた。


「えと……」


「足を怪我しているんだろう。僕が背負った方が早い」


冗談じゃない!


さっき会ったばかりの男に乙女の柔肌を触らせるもんですか!


そりゃ確かにスマートでスタイルもいいし、顔立ちも整っている。

それに紳士的で博識で、おそらく実力もある。


でも、まだお互いよく知らないし……。


「いや、すまない。女性に対して配慮が足りなかった。」


しかもこっちの気持ちを分かってくれるなんて!

スイベの粗野な男ではこうはいかない!


「では、こうしよう」


彼は素早く私の背中と膝裏に手を入れ、すっと私を抱え上げた。


これは……まさか、その、いわゆる……っ!


「お姫様だっこならば構わないね?美しいレディ」


「……はいぃ」


私は彼の腕の中で


うっかりと


油断して


迂闊にも


まさかの


恋に落ちてしまったのだった。


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