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第28話

私達は牢の中にいた。

武器や荷物は奪われ、牢の外には見張り。


私とヘレナさんは同じ牢で、タツローさんとリンは向かい側の牢だ。


「ネム。リン。脱出しなければ」


「はい。でも、バットも投げるものも無くちゃ……」


「そうだな。何か考えなければならない」


私達が仕切り越しに相談していると、見張りが寄ってきて鉄の杖で勢いよく鉄格子を叩いた。

ガシャン!という大きな音に思わず私は後ずさりしてしまう。


「聞こえているぞ。逃げようなどという考えは捨てる事だ」


「あれ、あなたは生きてるの?」


「何の話か分からんが、静かにしろ」


見張りはヨツシンの事を知らないらしい。

まだ奴のことはあまり知られていないのかな。


「すまぬ。私が魔石の事など言わなければ……」


部屋の隅で座り込むヘレナさん。

すっかり意気消沈している。


「ヘレナさんのせいじゃないって。既に魔神がいるなんて思わないよ」


「魔神か……。なぜファムタズ卿はあのような者と手を組むのだ。騎士道精神の欠片もない男ではないか!」


「ヘレナさん……」


「うう、ぐすっ……。信じていたのに!私はこれから何を信じれば……っ!」


また泣き出してしまった。


まあ確かにヘレナさんでなくても泣きたくなる。

ファムタズ卿といえば騎士の鑑だとか言われているなどと国外にも聞こえる大人物だ。

領民からの信頼も厚いと聞く。


なのに領土欲しさにあんな下衆を仲間に引き入れるばかりか、忠実な部下を投獄するなんて……。


何にしても、まずはここから逃げなければ。


ヨツシンは私達の中の誰が魔神か調べると言っていた。

尋問……いや、拷問にでもかけるのかもしれない。

のんびりしているヒマはない。


私は自分の髪の中に手を突っ込み、うなじのあたりを探った。


……あった。


針金だ。

人差し指ほどの長さで、ほどよく曲がる。

こういうものを必ず体のどこかに隠すのがシーフの嗜みというもの。

シーフが針金を使うといえば、用途は一つしかない。

いざ、ピッキングだ。


私は向かいの牢にこっそり針金を見せた。

タツローさんは首を傾げていたが、リンは理解したようだ。

更に、リンはニヤリと笑うと何事か呟いて片手を天に掲げた。


淡い光と共に現れたのはタツローさんのバット。

なるほど!召喚の魔法だ!


タツローさんがバットを持てば何も怖くない。

向こうも問題なさそうだ。


こっちも仕事に取りかかろう。

私は見張りがこっちを見てないか注意しつつ、鉄格子の隙間から腕を通して鍵穴に針金を挿した。

……覚えのある手応え。

大丈夫。知っている種類の鍵だ。いける!


その時、ボンッと何かが破裂する音が見張りの方から聞こえた。


何かが起きている。だが、確認は後!

あとはここを捻るだけ!


鍵穴からカチっという音がした。

やった!


「いやー、絶体絶命やな。でも、ここでワイの出番ってわけや。ほら、これが何か分かるか?」


ふと牢の外を見ると、ジェミニが鍵をチャラチャラと鳴らしながら見せびらかしている。


あっ、こいつの事すっかり忘れてた。


「ワイがネムのカバンに居たことは気付かんかったらしいわ。あとはカバンの中のもんを使って作った睡眠薬を見張りにボンッ!よ」


確かに薬草類は色々持っていたが、そんな効能のあるものは知らない。

一体何をどうやったらそんなものが作れてしまうのか。

『全てを識る者』ともなると、そのくらいは出来てしまうということか。


「まあ、ワイに感謝することやな。さあこのカギを使って脱出やで!」


「ごめん。いらない」


カギを渡そうとするジェミニの前で私は扉を開けてみせた。

あんぐりと口を開けるジェミニ。


その直後、向かいの牢の鉄格子の一部が勢いよく吹き飛んだ。

タツローさんがスイングで鉄格子を吹き飛ばしたのだ。


鉄格子という名の通りこれは鉄なのだが、タツローさん程の男ならば木のバットでそれを粉砕する事は容易い。

物理法則とか色々間違っている気はするが、それがタツローさんだ。


「よし、行こうか」


「行きましょう!さあ、ヘレナさん!」


荷物は見張りが管理していたようだ。

さすがにコイセンの涙は置いて無かったが仕方ない。

素早く他の荷物を回収し、私達は出口を目指す。


「なんでやねんっ!!」


後ろでジェミニが叫んでいた。

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