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第27話

「いやいやいや!ちょっと何これーっ!?」


声をうわずらせながら杖を抱きしめてきょろきょろするリン。

タツローさんも緊張した面持ちで周囲に目を走らせている。

まずい。どちらを向いても完全武装の騎士に囲まれている。


「え、あの、ファムタズ卿、これは一体……?」


予想外の事態に、ヘレナさんもただただ戸惑っている。

先ほどまでの凛とした雰囲気は微塵も残っていない。


「石を渡せと言ったのだよ。3度目は無いぞ」


立ち上がり、幅広の剣を抜くファムタズ卿。


「何に使うつもりなんですか?」


「魔神をこの世から消し去るのだろう。安心したまえ。魔石は我々が集める」


卿がそう言った後、まばたきを2回したのを私は見逃さなかった。


これは嘘だ。


嘘をつき慣れていない人というのは、嘘をついた時に何らかのサインが表情なり動作に現れるものだ。


「権力持ってる人にしては嘘が下手ですね」


「ふっ、分かるか。腹芸は好きではないのだ。私はな」


自嘲気味に笑っているが、余裕がある。

そりゃこんな状況だし、別に看破されても構わないってことかな。


ふと、ぞくっと背筋に悪寒が走った。


「しかし我輩は大好きでしてねぇ」


どこからか声がしたかと思うと、突如としてファムタズ卿の隣に黒い煙が立った。

煙はだんだん人の形になり、やがて煙の中から1人の男が現れた。


不健康そうな青白い顔に、目の下には深い真っ黒なクマ。ボロ布のような黒いローブを纏っている。


「お初にお目にかかりますねぇ。我輩は魔神ヨツシン。異世界人で御座います」


男はわざとらしく深々とお辞儀をした。


ヨツシン!?

確か、ジェミニが言っていた第四の魔神だ!

騎士たちの遺体を持って帰ったとかいう……。


「その名!貴様!仲間の亡骸をどうした!?」


「おや、我輩の事までご存知とは。これは予想外でしたねぇ」


ヨツシンは頭を無造作にボリボリと掻いた。

フケがボロボロとこぼれ落ちる。

……生理的に嫌いなタイプだ。


「と、なると我輩の仮説は正しいようですなぁ。貴女、魔神のお友達がいますねぇ?」


「なっ!?」


「あの術の解除方法はこの世界ではまだ知るものは少ないはずですよねぇ。まあ無論我輩は知っていましたが」


ヨツシンが私たち一人一人を舐め回すように見ながらぐふふ、と下品に笑う。

心底気持ち悪い。


「更に我輩の事まで知っているとは。我輩の世界にもない技術か、知識かを持っている。……これは異世界人ですよねぇ?」


「ヨツシン殿。どいつが魔神だ?」


「それは今からですよぉ。ぐふ、ぐふふ!一番楽しいところですぅ!」


「うわキッモ……なんで魔神がここにいるのよ」


気持ち悪いという点においてリンと意見があった。

さすが幼馴染。


「いーい質問ですねぇ。我輩、このような特技がありましてね」


騎士の1人がフルフェイスの兜を脱いだ。

中から出てきた顔は全くの無表情で、まるで血が通ってないように紫色の顔をしている。


「そんな、ネルソン!?死んだはずでは!?」


ヘレナさんの仲間の騎士!?

と、言うことはやはり……っ!


「そう。彼って死んだんですよぉ。でも、我輩って死んだ人をこうやって忠実なしもべに出来るんですねぇ」


ヨツシンが右手を上げると、騎士も右手を上げる。

手を下げると、騎士も同じように下げる。

そのまま何度も何度も腕を上げ下げさせてみせる。

ヨツシンはとても楽しそうだ。

まるでおもちゃを見せびらかす子供のように……。


「それで、死体の皆さんが教えてくれたのですよぉ。このお方が戦争したがってるとねぇ」


ヨツシンがファムタズ卿を指差すと、周りの兵士が一斉に同じように指差す。


全員操られている?

まさか、この部屋にいる騎士は全部死体なの!?


「それと騎士に生き残りがいる事もねぇ。まさか、こんなに情報を持っているとは思いませんでしたが」


ヘレナさんも監視されていたという事か。

この準備の良さも事前にヘレナさんが帰国したと伝わっていたからかもしれない。


「戦っ争ぅ!!素晴らしいじゃないですか!こんなに死体の増える行為が他にあります!?いや無いですよねぇっ!」


突然声のボリュームを上げたかと思うと、天を仰いで手を広げ、恍惚とするヨツシン。


「あぁ……無様に死んだ人間が我輩の思い通りになった瞬間。これが気持ちいいものなんですよぉ」


しばし目を閉じて浸った後、こちらを向き直した。


「だから元の世界には帰りたくないんですよねぇ。我輩の世界、死体ばっかりで生きてる人間あんまり残ってないのでぇ」


さらりと恐ろしい事を言っている。

こいつ、この力を使って自分の世界では一体どれほどの人を殺したのか。

相手を殺せばしもべになる、と考えれば確かに戦争は効率的な手段だ。

しかも、殺せば殺すほどしもべが増えるとなると……。

私は背筋に寒いものを感じた。


「説明は以上ですよぉ。さ、分かったら魔石寄越してくれますぅ?それはちゃーんと隠しておきますからぁ」


魔神にも色々いるとはジェミニやタツローさんを見て思ったが、こんなに邪悪な奴もいるなんて!


しかし、この状況では下手に動けない。

この騎士達が操られているというのなら躊躇なんてしないはず。

おそらく私たちに向けられている切っ先はヨツシンの命令が下った次の瞬間には胸を貫くだろう。

この男はそれくらいはやるだろうという確信があった。


タツローさんだけなら多分この場面でも簡単に脱する事ができる。

でも、タツローさんが何か抵抗した瞬間私達の命はないだろう。

きっと、彼はそれを理解しているから動けないのだ。


……悔しいがどうにもならない。私達が足手まといになっている。


私は仕方なく魔石を取り出してヨツシンに投げ渡す。


「素直で良いですねぇ。ちょっとつまんないですけど。ぐふふ……」


「牢に入れておけ。ヨツシン殿。魔神の事は任せる」


「ええ、ええ。我輩にお任せあれぇ〜」


成す術無し、だ。

私たちは素直に縄をかけられるしか無かった。

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