第23話
「タツローさんが……魔神?」
こいつは一体何を言っているのか。
その黄色い生き物ジェミニはタツローさんを魔神だと言った。
なんともミスマッチなが言葉だ。
彼がヘレナさんの話にあったような危険な存在だとは思えない。
とても紳士的で優しい人だし。
「あー、ちゃうちゃう。優しいとか関係ないねん。あとワイ心読めるから」
「心を!?」
「へえ。そんな魔法聞いたこと無いわねえ」
「君たちの魔法とはちょっとちゃうな。次元連結空間のレコードに先行アクセスしとるんや」
「じげ…何それ。」
「それはまあええわ。とりあえずワイは君らが何考えてるか分かるって事や」
魔神を名乗るだけあって、やはり私達とは一線を画す能力があるということか。
しかし、その能力はともかく見た目はすごく弱そうで魔神らしくない。
「なんかムカつくけどまあええわ。そんで、タッツが魔神って事に関してやけどな」
ジェミニは魔法陣の中央に歩きだした。
「まずこの召喚の陣についてやな。これは次元配列の順序を並列からエーテル別の多重構造に並び替えて、高次元の目標物をワグナリアホール方式で……」
「ストップ!ストップ!何言ってるか全然分かんない!」
「あー、この次元はポストが水色やからしゃあないな。分かりやすく言うと、別の世界のクッソ強い奴を呼び出す魔法陣や」
「アークメイジの言ってた別の世界の事かしら」
「それやで。ほんでやな……」
ジェミニが言うには、魔法陣はこの世界の人々より上位の存在を12人呼び出すものであるという。
ヘレナさんが見た1人目の魔神もジェミニもタツローさんも、同じように術で召喚された魔神だと言う事だ。
「しかし、僕がここではなく森の中に飛ばされたのは何故だ?」
「ネムちゃんの持ってる宝石や。この術は本来は12個の魔石を使う。その一個がそれなんや」
私はポケットから『コイセンの涙』を取り出す。
この石はもともとこのヤクス城にあったものだ。
ヤクス王は術を完成させる為にこの石を手に入れていた。
しかし、全てを手に入れる前に英雄バクロウの反乱が起きてしまった……。
そう考えれば辻褄があう。
しかし、ファムタズの魔術師は術が未完成な事に気付かず、石のない状態で使ってしまった。
召喚した者を従わせる事が出来ないのはそのためだという。
「で、その魔石がわりと近い所にあったもんで、タッツはそっちに引っ張られて飛んだわけやね」
「私の仲間を殺した魔神はどこだ!それに、仲間達の亡骸も無くなっている!」
「えーと、最初の魔神の名は『血を求める者』ノウモ。残忍で暴力大好きな奴やが、どこへ行ったかは分からんな」
「分からないの?『全てを識る者』でしょ?」
「すまんな。この次元ではワイはほぼオフラインやから現行の全ての情報を識る事は出来んのや。心読めるくらいや」
「よく分からないけど、魔神の事は分からないって事?」
「ワイがこの次元に来るまでの事しか分からんやで。ちなみに、君のお仲間の死体は別の魔神が持って行ったで」
「死体を持って行ったって、なんでそんな事を?」
「そいつは第4の魔神『死に抗う者』ヨツシン。死体を操り人形にして部下にする趣味の悪い奴や。ここで死んでた人らは今頃そいつのお人形にされとる」
「そんな……っ!」
魔神にも色々あるようだ。
少なくとも、我々の世界の常識では計り知れない実力の持ち主のようだが。
「聞きたいのだけれど」
「リンちゃんならええで!おっぱいに免じてなんでも答えるわ!」
何故かイラっとした。
このエロ魔神め。
「召喚された術を解除する……つまり、魔神を元の世界に返す方法はあるの?」
「もちろんや。ワイも帰りたいし、それを今からやろうと思ってたところや」
「本当か!?ならば、あの魔神の被害者をこれ以上出す事は無いのだな!」
そう。私達はもともとそれを探しに来ていたのだ。
タツローさんが元の世界に……帰るために。
「新しい魔法陣を描いてやな、それに12の魔石を置いて解除の術式を使うだけや。それで魔神はどこにいようが元の世界に戻される。魔法陣と呪文はもちろんワイが知っとる」
「じゃあ、この『コイセンの涙』を使うんだね」
「せやな。あと11個や!」
「それはどこにあるの?」
「せやなあ。近場やとミウリアンツの宝物庫にファムタズの洞窟の中、それからプッカの商人に……」
「世界中に散らばってるって事か。どうやって集めるか……」
「そらワイと君らで行くんやで」
「はあ?」
「ワイは知識はあっても腕っぷしはからっきしや。やから誰かと一緒やないとあかん」
ジェミニはとてとてと歩き、私のバッグに勝手に飛び乗った。
「ほな頼むわ」
「何を勝手に!」
「いやネム。目的は一緒なんだ。ここは協力するべきだ」
「タツローさん、でも……」
タツローさんに言われると弱い。
「よっしゃ行こう!まずはファムタズか?ミウリアンツか?」
勝手な事をほざくこの生き物に辟易はするが、魔神を元の世界に返す方法が他にあるわけでもない。
私はため息をつきながら、ジェミニをバッグの中に迎え入れた。
「おっ、パンツ入ってるやんけ!着替えか?」
「勝手に漁るな!」