第22話
「ここだな」
侵入者を拒むべき城門は朽ち、壁は崩れ、そこから覗ける広間は荒れ果てている。
この城がかつて誇った栄華も今は見る影もない。
栄枯盛衰とかいうやつだ。
我々はヤクス城に辿り着いた。
「静かね。誰もいないのかしら」
「息を潜めて我々を待ち構えているのかもしれん」
私が先頭で警戒しながら進み、リンとヘレナさん、そしてタツローさんが続く。
「階段を上がった所に王の間がある。術が行われていたのはそこだ」
ヘレナさんが門をくぐって正面にある大きな階段を指さした。
その指はかすかに震えている。
階段のところどころに血痕があるが、遺体はどこにもない。
一体ヘレナさんがいなくなった後、ここでなにが起きたのだろう。
「行ってみよう」
私達は階段を登り、ボロボロの門の前に立った。
振り向いてみんなを見る。
全員武器を構えて準備万端だ。
私は頷いて、一気に扉を押した。
軋む音を立てながら扉が勢いよく開く。
タツローさんが即座に中に飛び込んだ。
私達もすぐに後ろに続く。
そこには……えっと、『何か』がいた。
いや、何かと言われても分からないという言い分は分かる。
でも聞いて。
本当にそいつが何か、私には分からない。
大きさはウサギくらい。
二足歩行で、全身に毛がなくてつるつる。
パっと見る感じ小さい人間のように見えるが、口は尖っているし、まん丸の目がカエルのように飛び出している。
そして、頭の先から足まで全身黄色という目立つ色。
服は着てないが、仕草は人間っぽい。
それが、部屋の中央の魔法陣の真ん中に立っていた。
なにこれ。
多分、他の3人も同じ気持ち。
しばし、沈黙が場を支配する。
「うおっ!なんやお前ら!」
黄色いのが喋った。
えっ、喋れるのこれ。
「おっ、ジェイの者か?」
なんか聞いてきた。
でも何のことかさっぱりである。
「あー、ええわええわ。ワイから自己紹介して欲しいんやな?しゃーない子たちやでほんま」
饒舌だ。
変な顔なのにすごいよく喋る。
「ワイは『全てを識る者』ジェミニ。12の魔神の最後の1人や」
「魔神だと!?」
ヘレナさんが身構える。
しかし、私の中の魔神のイメージと目の前のちっこい奴のイメージが違いすぎてすんなり言葉を受け入れられない。
嘘つきの妖精か何かじゃないのコイツ。
「おっ、そこの貧乳娘は疑っとるな?」
「誰が貧乳よ!」
リンがぷっ、と吹き出す。
こいつあとで殴ろう。
「そうやなあ。例えばそこの兄さんは……ってタッツやんけ!?」
「僕の事を知っているのかい?」
「そらそうよ!あのWBT決勝のツーベースは痺れたで!なるほどなあ!あんたなら納得やで!」
タツローさんはコイツの言葉を聞いて目を丸くした。
「どうやら、彼は僕の事を知っているらしい」
「タツローさんの世界の人ですか?」
「いや……。少なくとも僕は彼のような人を見た事はない」
タツローさんはコレの事を知らないのに、相手はタツローさんの事を知っている。
どういう事だろう。
「疑問はもっともやで貧乳ちゃん」
「だから貧乳言うな!……って、心を読んだ!?」
「言うたやろ。『全てを識る者』やぞ。ええっと、ネムちゃんやな」
「私の名前まで……」
「それからおっぱい大きいのがリンちゃんで、金髪姉ちゃんがヘレナちゃんやな」
「はーい。おっぱい大きいリンでーす」
こいつ……っ!
「おっそうだな。ヘレナちゃんはちょっと『くっ殺せ』て言ってみてや」
「何故だ」
「女騎士やからに決まっとるやろ」
「そ、そうなのか。」
「流されないでヘレナさん。えっと、ジェミニ?」
「おう、なんやなんや」
「魔神って言ったけど、あなたもここで召喚された魔神の1人?」
「せやで。魔神や魔神。あ、それとやな」
ジェミニはタツローさんを指差した。
「その人もやで」




