第1話
失敗した!
私の名前はネム。
シーフギルドと呼ばれる、まああまりお行儀の良くない組織の一員だ。
容姿端麗もさる事ながら仕事の腕は抜群!
宝石でも情報でも私に盗めぬものはない!
……はずだったんだけど。
先日、おかしらがある情報を仕入れてきた。
数年前に民衆の反乱で滅んだはずのヤクス城。
そのお宝が無傷で残っている、と。
話はこうだ。
ヤクスは土地だけは豊かだった。
ヤクス王は領地を農地としての民衆達に与え、そのおかげで国庫はどんどん潤っていった。
しかし、その膨らんだ財布の紐が解かれることはなかった。
農民達はろくな見返りもなく、ただただ搾取され続けた。
ある時、ついに英雄バクロウが立ち上がり、激怒する農民達と共に城へ攻め入った。
私服を肥やす事に夢中で城の守りさえも十分に備えなかったヤクス王は、あっけなく討ち取られた。
しかし、バクロウはその財産を見つけることは出来なかった。
やがて、バクロウはその財産を隠していると嫌疑をかけられて内乱が起きた。
反乱農民達は瓦解し、持ち主のいなくなった領地はケーキみたいに周辺の国に切り取られてしまった。
最後に残ったのは荒れ果てた城だけだったという。
なんとも虚しい最後である。
結局最後まで誰も目にすることのなかったヤクス王の隠し財産。
それを、どうもゴブリンどもが手に入れたらしい。
ゴブリンの事だから城を遊び半分にぶち壊して回ってるうちに、隠し部屋か何かを見つけたんだろう。
城から貴金属を運ぶゴブリンの集団を見た者もいるという。
眉唾ものの情報ではあるが、もし本当なら一攫千金のチャンスである。
財産さえあれば危険なシーフギルドの仕事から足を洗って、悠々自適の隠居生活。
しかも相手はおバカなゴブリンども。楽な仕事だ。
これでアーリーリタイアも夢じゃない。
という事で、おかしらに内緒でゴブリンどもの巣である洞窟に忍び込んだ私だったが、ひとつ誤算があった。
奴ら、スプリガンと組んでいやがったのだ!
スプリガンは宝の守護者であり、盗人の天敵だ。
目端もきくし、耳もいい。
あとずんぐりむっくり体型でブサイク。
ゴブリンだけなら簡単な仕事だったが、スプリガンじゃ相手が悪い。
天下のネムちゃんも、あっという間に囚われの身となってしまった。
しかし、私は何時までも助けを待つお姫様とは違う。
一瞬の、そう。一瞬の隙。私でなきゃ見逃しちゃうね。
それをついて奴らの檻から華麗に脱出!
(所詮ゴブリンの作った檻もどきなので、単なる木のフェンスみたいなものだった。)
あとは洞窟からとんずらするだけだったのに、立ちはだかったのはまたしてもスプリガン。
なんとか難は逃れたものの、足をぶん殴られたせいでひどく痛む。
なんとか洞窟は出て森に入ったものの、周囲でゴブリンが狂ったように叫びながらうろついてるのが聞こえる。
木陰に身を隠す程度しか出来ない身ではもう限界だろう。
ネムちゃんの一生もこれで終わりか……。
死を覚悟したその時。
その男は現れた。