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第16話

ここまでの道中は平和なものだった。


見通しのいい平原であったが、特に危険な生き物に会う事もなくのんびりと歩けた。


リンなんかは鼻歌まで歌っている。

のんきかよ。


しかし、ヤクスに行くには森を抜けなければならない。

タツローさんと出会った、深く薄暗い森。

元々はゴブリン達の縄張りであったが、あれだけ数も減ればそうそう目にする事もなくなったはず。


しかしそれでめでたしとも行かないのが自然界だ。

主人の居なくなった棲み家には、すぐに別の生き物が根を張る。


ゴブリン達が居なくなって間もないが、この森ではおそらく既に縄張り争いが始まろうとしている。

野生の勘や本能と言ったものは人が思う以上に敏感なのだ。


「うえー、ここ通るの?スカート引っかからないかしら」


リンがぶつくさ文句を垂れる。

私や、おそらくタツローさんでも何かあれば素早く対処出来るはずだが、リンはそうは行かない。

彼女はあまりフィールドワークというものに慣れていないのだ。


いつも以上に警戒する必要がある。


気を引き締め、少し森へと足を踏み入れた時だった。


何かいる。


「2人とも静かに。誰かいるわ」


私は左手で2人を制しながら、右手をそっとナイフに添える。

2人も動きを止めた。緊張感が伝わってくる。


私は地面に耳を当て、足音を聞いた。


バタバタと飛び跳ねる足音がひとつ。

それと、シュルシュルと地面を何かが滑る独特な音。


何かが地面を這っている。

この音は人が出す音じゃない。


「人が1人、何かに襲われてる!」


「ネム、何かって何よ」


「分かんないわよ。でも、人間じゃない」


「助けよう」


タツローさんに迷いは無い。


しかし、私は少し躊躇していた。

相手の正体が分からない。


ゴブリンのように愚かな生き物ばかりならばいいが、森には人を騙して捕食する狡猾な奴もいる。

それに、こんな森の中にわざわざ来ている人間の方も、目的が不明な以上警戒すべきだ。


まあ、私が言うのもなんだけど。


とにかく、まず私だけで偵察してみるとか……。


「きゃあああああああっ!!」


私が迷っていると、悲鳴が聞こえた。

女の声だ!


「あっちか!」


タツローさんが即座に駆け出した。

私も慌てて追いかける。


「タツローさん!気をつけて下さい!」


「えっ、どっち!?ちょっと待ってよ」


後ろでリンが叫んでいる。

リンを1人にするわけにもいかない!


ああ、もう!


私は引き返し、リンを手を引っ張って走った。


タツローさんが立ち止まった!

私も急いで追い付き、状況を確認する。


「だ、誰だ!?」


声の主は金髪の美女だった。

身に付けた華やかな装飾の付いた鎧はところどころヒビが入り、鎧のスカート部分は欠けて白い脚が露わになっている。


そして何より両腕に植物の蔓のようなものが巻き付いており、それによって宙吊りになっていた。


「何だこれは……?」


「まさかドライアド!?タツローさん離れて!」


しかし、一瞬遅かった。

私が言葉を言い終える前にタツローさんの足元にぽこぽこと小さな花が異様な早さでいくつも咲き、花粉を撒き散らし始めた。


「息を止めて!!」


素早く自分とリンの口を塞ぐ。


が、宙吊りになった女性は成すすべなく花粉を吸い込んだ。


「なん……これ……体が痺れ……」


ドライアドの毒花粉だろう。

吸い過ぎると危険だ。


ドライアドというのは人と植物が合わさったような生き物だ。

木の幹に女性の体がくっついたような見た目をしている。

普段は温厚で人を襲うような事はしないが、一旦怒らせると様々な毒を用いて相手を撃退しようとする危険な怪物と化す。


タツローさんを見ると、しっかり口を隠している。

なんとか平気そうだ。


リンも息を止めたままきょろきょろと周囲を見回している。

本体を探しているのだ。

そう。本体を仕留めさえすれば毒も止まる。


だが、こいつの厄介なのは本体がどこにいるのかなかなか分からない所だ。

何しろ木の怪物なので、女性の体の部分を完全に隠してただの木に成りすましてしまうのだ。


しかし、悠長に探す暇はない。

いつまでも息を止められるわけがないからだ。


本来であればこの場から離れるのが最善策だ。

ドライアドは地面に根を張っているので動けないし、毒の届かない場所まで逃げれば問題はない。


しかし、今はそうもいかない。

あの吊るされている女性。彼女を助けなければならないのだ。


どうする!?


いや、とりあえず一つ有効な手段はある。

あとはどうやって伝えるか……。


喋れば毒を吸う事になる。言葉は使えない。

身振りで伝えてみるか……?


ふと、私の足元に何かの木の実が落ちている事に気が付いた。


これだ!!


私はタツローさんが気付いてくれる事を祈りつつ、木の実を拾って放り投げた。

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