第13話
シニタばあちゃんの話を聞いた私達は、タツローさんが元の世界に帰る手がかりを探す為にヤクス城に向かう事にした。
普通の人の足であれば現地まで丸一日はかかるし、野外には危険な生き物だっている。
そのため、一旦旅の準備を整える事にした。
もっとも、タツローさん1人ならば日が暮れる前に帰ってこれるのだろうが……。
足手まといの自覚はあるが、そこは道案内があるのだからと自分に言い聞かせる。
荷物を取りに行こうとシーフギルドに向かおうとして、ふと私は足を止めた。
……私がシーフだってバレてしまって良いものだろうか。
そりゃあタツローさんの事だから優しく受け入れてくれるかもしれない。
それに、私は悪い奴からしか盗まないというのを信条にしている。
言わば義賊なのだ!
盗みに正義などというものが無いというご指摘はごもっとも。
こんなポリシーが普通の人には理解されないのは百も承知だ。
だからこそ、タツローさんに軽蔑されるのが怖い。
タツローさんは、これまでの行動を見るに『善』の人だ。
どう繕っても私は小ずるいシーフ。『悪』だと言える。
いっそ、このまま身分を隠して旅に出るべきか。
ギルドに置いてある盗賊道具がないのは不安要素だが、タツローさんもリンもついてるし……。
「ネム。どうした?」
思案に暮れていると、いつのまにか目の前にタツローさんの顔があった。
「きゃっ!?」
びっくりして尻餅をついてしまう私。
なんともカッコ悪い事であるが、それどころではない。
あんなに顔が近付いたのは初めてだ。
心臓が早鐘を鳴らしている。
「ああ、すまない。驚かせるつもりはなかったんだ」
「あ、いえ。ボーっとしてて」
タツローさんが手を差し伸べてくれる。
紳士的だが、少し小恥ずかしい。
「おうネムじゃねえか。何やってんだそんなとこで」
尻餅をついた格好のまま手を握ろうかどうか悩んでいると、よく知った声が聞こえた。
「おかしら!」
筋骨隆々で人混みでも頭一つ出てしまうほど大きな体に、これまた特徴的なハゲ頭。
そして手入れの雑なあご髭。
目立つガタイのわりに、何故か気配は全く感じられない。
我らがシーフギルドの頭、イシタクだ。
「なんだ彼氏とデート中かよ。邪魔しちまったな」
「えっ?」
か、彼氏!?
思わずタツローさんの顔を見る。
タツローさんは平然と微笑んでいる。
目が合ってしまい、顔が燃えるように熱くなった。
「ち、違います!この人はっ……」
「この間はどうも」
「おう。尾行を見抜かれたのは驚いたぜ。どういう仕掛けだい?」
「僕は少し目が良いだけですよ」
「ほほう。やるなあ。兄さん」
「いえ、あなたこそ。今も足音は無かった」
話が見えない。
えっ?なに?知り合いなのこの2人。
「あのう、タツローさん?」
「どうかしたかい?ネム」
「なんでおかしらの事知ってるんです?」
「この間、一緒に会っただろう?」
タツローさんは心底不思議そうだが、心当たりがない。
「兄さん。そいつ気付いてねえよ」
おかしらがニヤニヤ笑っている。
「ネム。お前がそこの兄さんに抱えられて帰ってきた日だよ」
「僕らの後ろをついてきていたのは彼さ」
なるほど気付かないわけだ。
私だっていっぱしのシーフだし気配には敏感な方だ。
特にあのお姫様抱っこは誰にも見られないように気を付けていた。
(私が多少冷静さを欠いていたにせよ)
しかし、おかしらの隠密技術はその上を行ったわけだ。
おそらく噂を広めたのもこの人だろう。
面白半分にそういう事をする。そういう人だ。
しかし、私を差し置いて2人とも互いを認識していたとは。
タツローさん、そんな事まで出来るんだ……。
「立ち話もなんだしウチのギルドに寄りなよ兄さん。ネム、お前も来るんだろ?」
「あっ、はい」
「ではお邪魔させてもらいます」
いや、それはまずいのでは?
私がシーフというのがバレ……。
「君たち泥棒のギルドだろう。楽しみだな」
……てた。
とっくにバレてたわ。
あらためてタツローさんには敵わないと思うのだった。




