第10話
決まった!
タツローさんの一振りでスプリガンの腕が武器ごと切り落とされた。
もう奴に武器はない。
右腕を失ったスプリガンが耳をつんざくような声で咆哮する。
そして、もう一度タツローさんに飛びかかろうと地面を踏みしめた。
「火蛇!」
突然、私たちの後ろから一筋の炎が飛び出してきた。
炎は蛇のような形となってスプリガンに巻きつく。
文字通り炎に巻かれ、悶えながら悲痛に叫ぶスプリガン。
「これは……?」
「これが魔法さね」
振り向くと、そこに立っていたのは頭の大きな三角帽子に見合わぬ小柄な老婆。
「アークメイジ!」
「ネム。リン。遅れてすまないね」
彼女はこのスイベ村のメイジ達の長、アークメイジのシニタさん。
リン曰く『半端じゃない魔力を持つ超怖い婆さん』らしいが、私の知る限りは普段は優しくて物知りなおばあちゃんだ。
「おーおー。よく燃えたものだね。酷いニオイだよ」
燃え続けていたスプリガンがやがて地面に伏して大人しくなった。
するとたちまち火が消え、残ったのは黒焦げになった屍体のみ。
「やった!」
「油断するな。まだ奴らは残っているんだ」
そう。タツローさんの言う通り。
スプリガンは倒したが、まだゴブリンは何匹か残っている。
おじさん達が対応しているが、防戦一方のようだ。
タツローさんが素早く石を拾う。
「大丈夫。もう終わってるよ」
シニタさんがニヤッと笑って大きな杖をトン、軽くと地面に刺した。
その瞬間、ゴブリン達の足元から先ほどの炎の蛇が現れ、あっという間に敵はみんな炎に包まれた。
おじさんがそいつらのすぐそばで腰を抜かして座り込んでいるが、なぜか火の粉ひとつおじさんには飛んでいかない。
魔法の炎だからだろうか。
「魔法か。実際目の当たりにしても信じ難いな」
しばらくして焼け死んだゴブリン達を眺め、タツローさんがあごを撫でながらしみじみと言う。
私からすると、この人の先ほどまでの活躍が信じられない。
目の届く範囲でも50ほどのゴブリンが居たことが分かる。
この数をほとんど一人でやってしまったタツローさんだが、息も切らしていない。
私にはこの人の底が全く見えない。
「あれはあんたがやったのかい?兄さん」
シニタさんが点々と横たわるゴブリンの亡骸を指差す。
タツローさんはさわやかに微笑んだ。
「その通りですマダム」
「一体どんな武器を使ったんだい?ホフトソンクの機械兵器か何かかい?」
「いえ、これですよ」
タツローさんが石を一つ拾い、投げてみせる。
タツローさんの手を離れた石は音を置き去りにする勢いで飛び、あっという間に見えなくなった。
シニタさんは目を丸くして驚いた後、タツローさんをまじまじと眺めた。
「……あんた、どこから来なさった?家は?」
「東京です。自宅はシアトルですが」
「知らない地名だね。やはりそうか」
「やはり、とは?」
シニタさんは帽子のつばを持ち上げ、タツローさんの顔を見上げた。
「あんた、異世界人だろう」