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僕と彼女の怪異退治  作者: 現夢いつき
2/12

出遭い――1

 突然の出会いというものがある。


 三月某日にそういうものを一度経験したことがある僕は、もう起ることはないだろうと思っていた。

 少なくとも、自分の部屋の中で全裸の少女が寝ているといったような、頭のおかしな出会いは、もう金輪際こんりんざいないだろう。そう高を括っていた。

 しかし、結果はどうだ。僕の前には何が見える?


 そこにはゴミ箱が倒れていた。そして、その口の部分から二本の脚が見える。それがもぞもぞとうごめいていた。

 変な物音が部屋の前からしたと思ったら、そんな光景が僕の前に広がっていた。

 変人奇人のみが集うと言われるこの葛くずノ葉学園はがくえん――その第七寮での出来事である。


 そっとドアを閉じた。

 頭の中でアレに関わるのだけは止めておけという警報が鳴った。

 あんな感じの出会いの末、春休みにどのような目に遭ったと思っているんだ。よもや、忘れたわけではあるまい。こういった面倒ごとには極力関わらない方がいいのである。


 数分して流石にこの場はやり過ごしただろうと思って、扉を開けるとそこには黒髪ショートカットの女の子がいた。ゴミ箱からその全身を自力で救出したようである。彼女は僕と視線が合うや否や微笑んだ。


「あ、お隣の方ですね。これからどうぞ、よろしくお願いします」

「あ、こちらこそ、よろしくお願いします」


 失礼ながら、あまりにも常識的すぎる挨拶に僕は面食らった。なんて言うか、もっと常識も知性もなさそうな声――というよりは鳴き声を出すのではないかと思っていたのだ。


 いや、だって第一印象でゴミ漁ってたんだぜ、この子。


 とはいえ、もしかしたら何かしらのトラブルでああなったのかも知れない。例えばゴミ箱を運んでいる最中につまずいて、奇跡的にすっぽりと上半身がゴミ箱に入ってしまったとか。

 もし、そうであったなら、ここで彼女に変人のレッテルを貼り付けるのはあまりにも可哀想である。

 しかし、第一印象が第一印象なだけに、次の瞬間にはおそってくるかも知れないという警戒心を捨てられない。そうでなくても、ゴミ箱に頭を突っ込んでいた人なんて怖すぎる。

 僕は緊張のあまりカラカラになった喉を振り絞って、声を出した。


「あ、えっと。……それで、何をしていたんですか?」


 表情筋が引きつっているのを自覚しながら、けれども、最大限の笑顔を彼女に向けた。


「ああ、これですか。ちょっと夢を探していたんです」

「ソウダッタンデスネ。デハマター」

「え、なんで棒読みなんですか。というか、閉めなくていいじゃないですか。もう少しぐらいお話しませんか?」


 ヤバいヤバいヤバい! 絶対にヤバい人だ!

 ゴミ箱の中に夢を追い求めるだなんて、なんだそれ。絶対に誰かの中古じゃねえか! もっと鮮度の高いものを探せ!

 というか、初対面の人と積極的に話そうとするとか、明らかにゴミ箱に頭を突っ込もうとしている人の言動じゃない。そんな人ならば、そこまで精神が止んでしまう前に誰かから救いの手がさしのべられるはずだ。


 だが、実際に手がさしのべられたのは彼女ではなく、僕の部屋のドアであった。

 思いっきり閉めれば、いくら彼女といえども痛がって手を引っ込めるはずだ(痛覚麻痺とかだったらその限りではないが)。でも、それを実行に移せるかと言われたら、小心者の僕はできない。

 流石に僕の行動が読まれていると言うことはないだろうが、これが咄嗟の判断だとしたら恐ろしい。痛みを顧みずにズンズン迫ってくるゾンビを連想させた。

 とはいえ、彼女を自室に入れられるかというと、絶対に嫌だというのが本音だ。僕の部屋が人を入れられるような状態ではないし、何より早朝と言うこともあって、まだ朝食も食べていないのだ。


「いやいや、僕はまだ朝食も食べてないんだ。せめてそれまで待ってくれ!」


 あまりの事態と恐怖に敬語が外れる僕。


「えっ! じゃあ、また後で来ますね。……ピッキング何処にあったかな?」


 そのまま居留守を使おうとした僕の魂胆が読まれてんじゃねえか!


「待って、待って。ピッキングは犯罪だって!」

「大丈夫です、証拠も残らないように綺麗にやります!」

「あなたはその道のプロか何かか!? お隣さんが盗みのプロとか嫌すぎる!」

「大丈夫です、まだ始めたばかりですから!」

「そんな趣味を広めるような感じで犯罪に手を染めるな!」


 僕と彼女の攻防はその後も数分間続いた。

 結局は互いの妥協点という形で、彼女の部屋で朝食を食べることで落ち着いた。

 差し込まれた手をどうにかできなかった時点で、彼女の侵入は許したも同然なのだが、そんな中でなんとか部屋を死守できたのは、僕の守備力の高さがあったからか、それとも、彼女に残された最後の常識がはたらいたからなのか。

 僕の知ったことではない。


 僕と彼女――篠生時子しのうときこはこうして出会った。

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