プロローグ
誰が悪かったのか分からない。
副風紀委員長である丹生地始芽はそう言ったけど、僕はそうは思わなかった。
一点の曇りもなく、絶対の自信を持って僕は僕が悪かったのだと考える。少なくとも、彼女を助けられる立場にあったのは僕なのだから。
ハエが止まりそうなほどたるい口調で話す丹生地先輩。それが何だか無性に腹が立った。到底受け入れられない現実を前にした僕が、自分の至らなさを先輩の口調に押しつけたのだ。
そうだ。全て僕が悪いのだ。
「あんまり、自分に押しつけすぎるのはよくないとおもうよぉ?」
「いえ、僕には背負う義務があるんです」
噛みしめるようにして僕は言った。否、噛みしめて堪えないと言葉が出ないのだ。言葉が雫となって頬を伝ってしまう。そんなみっともない姿を晒すのは嫌だった。
泣けば全てが丸く収まるだなんてことはこの世にはない。
もし、それで収まるのだったら僕はいくらでも泣こう。バケツいっぱいで足りないのなら、二十五メートルプールを満たすほど泣こう。例え、この身がカラカラにひからびてしまったとしても。
でも、そんな単純にこの世の中はできていないのだろう?
だから僕はそれを背負うしかないのだ。
この失敗を。
これは罰であった。
春休みの事件に上手く対処できた――できてしまった自分が、図に乗ったことに対する。
彼女に出遭い、ある怪異に巻き込まれた。それは一組の兄妹を助けるという形に終わる。今回もそのようにことが進むだろうと慢心していた僕は救いようのないバカだ。
あの時だって、自分一人の力で問題を解決したわけではないくせに。
「そっかぁ。まあ。君がそう言うんだったら僕は何も言わないかなぁ。ただ、その道は茨の道だと思うよぉ? 正直、やっていけないと思う」
茨の道? 上等だ。僕はこのことを忘れてはいけない。身体に刻まなければならない。記憶に刻まなければならない。心を傷つけ、砕いて、彼女という存在をはめ込もう。
それは今から一週間前の出来事。
入学式の日、僕は彼女に出会う。
彼女――篠生時子に。
今にして思う。もし、あの時僕達が出会わなかったら僕と彼女はこんな目に遭わなくて済んだのではないかと。