上書
「縞瑪瑙の城貸してくんない?」
「は?」
「うちの信者がさードーム? とかリムジンとか貸し切りで集まるって話聞いてさ。やりたいにきまってんじゃんそんなん。でっかいとこでパーリィ。貸してよ」
「我が城を燃やす気ならばそれ相応の覚悟があるんだろうな、また牢獄に棲みたいのであれば助力は惜しまない。この場で罪状を取りそろえてやろう、いいかこちらは総員でお前を排除する」
「機嫌悪いねお疲れー、ねー貸して?」
「一度しか言わん、断る」
カダスに各地の支部に数多の神格の手伝いに、年末進行に追われていたところに俺の別荘を燃やし尽くした生ける炎が連絡をよこしてきた。
「そうそう去年はフーちゃんがお世話になったよね、ありがとー」
「……あー、そんなこともあったな。お前の愚痴で大層盛り上がったぞ」
「は、フーちゃんが? 誰の?」
「お前の」
「いやいやいやいやそんなわけないっしょー。オレ良い上司よ」
青と白のミニスカサンタ姿でやってきたアフーム=ザーは可愛かった。
「じゃあさ、良い場所知らない? 広くてパーリィできるとこ」
ダメージが通っていないので、さっさと仕事に戻るためにパーリィ会場を見繕ってやるしかないようだ。この忌々しい炎が。
条件その一、監視が可能であること。
条件その二、騒音問題になりにくい立地。
条件その三、消火しやすいこと。
これらに合う場所と言えば。
「セス湖のそばにあった町、住人が引っ越して今廃墟なんだよ。あそこなら申し分ないだろ」
「セス湖か! さっすがニャルちゃん電話してよかったー! 招待状送るから!」
年末進行舐めてるのか。炎は舐めるように進むものだから仕方ないか。
しばらく書類に没頭していたが、なぜか寒くなってきた。幸いこの部屋には暖炉があるので従者につけさせると、緑色の炎が暖炉いっぱいに燃え上がって冷たい風が吹き付けた。
「お久しゅうございます、這い寄る混沌さま」
氷の柱を伴って、冷気を操るものアフーム=ザーが立っていた。
「お手伝いをするように言われて参りました。その後会場までお連れするようにと」
あいつ本気か。ともかくこの娘は良い娘だし、使えるものは使わせてもらうが。
我が主アザトースの寝返りで二度辺境の星が壊れたものの、手伝いのおかげもあって七日で片付いた。ヘッドハンティングってどうやるんだったか。
「仕事って終わるんですね……」
「申し訳ない、この時期は仕方ないんだ……助かったよ」
従者が心配して野菜スープを運んできてくれたので、二人でありがたく頂いて、従者たちにも交代で休むよう指示を出して、セス湖改めパーリィ会場へ向かった。
「らっしゃーい!」
ねじりはちまきにTシャツが似合いそうな絶叫で町の真ん中に立っていた。
市街地から遠いとはいえ、数百人の集落があった町は残っていた廃墟をなぎ払われ、焼け残った瓦礫の上に赤い円テーブルがいくつも乱立して浮かれたパーリィ会場と化していた。
「本当にお疲れ、ニャルちゃんにフーちゃん。ここで神気も精気も回復してってね。はいウェルカムドリンクー」
白いスーツにサングラス姿のクトゥグアは、赤くて長い髪に映えてたしかにここの主役だった。
赤いスーツ姿の従者から受け取ったシャンパンに苺が沈んでいて、むかつくけれど洒落ている。種族として正反対である。普段ふざけている奴が高評価を得ているのは意味も無く腹立たしい。
「じゃ、料理はこっちね。前菜と、前菜と、フィッシュアンドチップス。キッシュにビーフシチュー。で、スペアリブ! ビールに漬けといたからニャル君でも噛み切れるよ! はい! でローストチキンとローストビーフ!何枚? とりあえず五枚食べて! ソースかけるね! こっちはサンドイッチ。で、タンドリーチキン、これ香辛料の配合からこだわったし、ヨーグルトも菌から作ったんだ!食べて!」
「待て待て待て待ってくれ、ともかく座らせてくれ」
「こちらにどうぞ」
開いているテーブルに連れて行ってくれたアフーム=ザーは水色の肩だしパーティードレスに着替えて、長い髪も結い上げて、灰色の炎を持つ炎の神性であるばっかりにクトゥグアの配下なのが惜しい。本当に可愛い。
「ドレスもかんざしも、よく似合っているね。君の炎みたいな銀細工のかんざしかな」
「ありがとうございます。冷めないうちに食べて下さい」
こういうドライなところは上司に似て、まあそれも可愛い。肉は柔らかくてジューシーで、美味い。火の入れ方がさすがに上手い。
「肉には赤ワインだよね。あったかいやつにしたよ」
「……ありがとう。このローストビーフ美味いな」
なんだそのぽかんと開けた口は。
「……よかったー! おかわり持ってくるね」
今度はサラダとデザートも持ってきた。
そして大層盛り上がっている集団に混ざりもせずに隣に座ってワインを飲んでいる。
どれも美味しかったので食べ過ぎた。ワインで一息ついているのをまだ奴が見ている。
「楽しいね」
「まあな」
「良い肉食べると違うでしょ」
まあ、生け贄食べるより良いのは違いない。
「よし、踊ろう!」
へらっと笑って手を引いてくるのに抗うのも面倒で、流されてやることにした。
瓦礫の町から見上げる月がやけに綺麗に見えて、たまにはこんなに騒がしいのも悪くないかな、と思ったが両手をつないでぐるぐる回るのは何か違う気がした。