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合流

どういう術を使っているのか、カウンターから手が生えて、私の腕をがっちりつかんでいる。


「ここはバー星の目。お兄さんだって、ゆっくり酒と会話を楽しみに来たんでしょう? 急ぐことはないと思うな」


店主がウインクすると、整った顔の左半分が崩れて、黒っぽい肉のかたまりになった。その中から眼球が三つ出てきて、右半分と合わせて四つの目が私を見る。首から下も変形しているらしく、服の下でずるずる音がしている。


「あなた、ショゴスですか」


「はあい、おなじみ万能奉仕種族のショゴスです。でも今は在原奈々美って名乗ってますのでよろしく」


するするともとの整った人間の女に戻る。


「ここは奈々美さんのお店なんですよね?」


「そ。何億年か前は私たち無報酬で休みなく働きづめだったんだけど、知能を得たあたりでストライキやったでしょ。あの時仲間の大部分が洗脳されて連れ戻されたんだけど、あたしは運よく地下深くに逃げられたのね。消耗もひどかったし、そのまま眠っては起き眠っては起きしてたんだけど、三十年くらい前だったかな、南極調査隊って人たちが掘削を始めてね。それで主人に出会ったの」


なるほど。ショゴスを創造した種族は何度かの戦争で滅び自由を手に入れたとはいえ、奉仕種族である。


誰かに仕えることを求めずにはいられないため、どんなものにも変身できる特性を生かして様々な種族に溶け込んでいると聞いていたが、彼女は人間の夫を得たのだ。


こいつもリア充か。


「それは、よい出会いをされましたね」


「ありがとう。ここは主人がやりたいってはじめた店なんだ。寿命がおもったよりはやく来ちゃったけど……今はあたしが引き継いだ店」


良い話には違いないが、私はそんなの求めていない。


なにより、うんうんと聞いている隣の黒い女から離れたい。


「ね、もっと話しましょうよ。久しぶりに仕事以外で会ったんだし」


「私は休暇をとりにきたんだ。あんたに振り回されたらよけい疲れるじゃないか、シュブ=ニグラス」


「あら心外。いつも楽しさを求めているのは、ニャル君だってそうでしょう?」


「ニャル君言うな。この間だって、旦那のプレゼント選びに付き合わされたあげく、浮気とかんちがいされて切り刻まれたんだが」


「千年も前のことじゃない、まだ怒ってたの? だってあなたのセンスなら間違いないと思ったのよ」


「それはどうも。それで、どうしてこんなところにいるんだよ」


「召喚されて一仕事終えたところよ」


 彼女、シュブ=ニグラスも私ほどではないが、豊穣の女神、不死をあたえる女神などとして信者を多く持ち、忙しく活動している。


ころころと旦那が変わることを除けば、仕事熱心ないい女神だ。


私の身内との間にも子供がいて、一時期同居していたことを忘れるならば、有能な女神だ。


おもわずため息をもらした私の前に、あざやかな赤いカクテルが置かれた。


「新作の、アッシュールバニパルの(ほのお)だよ」

 

呪いのかかった宝石の名前をつけたのか。ともかく疲れたし、今夜はおとなしくここで飲もうと決めて赤い液体を一気に飲み干す。


その後のことは、三人でとても盛り上がったとだけ覚えている。


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