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円卓

三ツ星ホテルのパーラーで執事付きアフタヌーンティー。フロアはがらがらで実質貸し切り。


ゴールデンルールに則って抽出される輝かんばかりの紅茶は、飲み干すのとほぼ同時に継ぎ足された。


「こちらはローズティーでございます。摘みたてのバラの花弁そのままの香りをお楽しみください」


「ありがとう。とってもいい香りね」


蓮田、もとい風の邪神ハスターは、そよ風のように執事に微笑んだ。


今日は長い金髪をおろして、灰色のパンツスーツで決めている。急に誘われて服を選ぶ暇もなかっただけともいうのだが、できる女が完全に出来上がって隣でローズティーを楽しんでいる。


「はー、美味しい」


反対側で、ヨグ先輩もローズティーを貰っている。さっきより大分精気が回復しているようで、なによりだ。


こちらも紺色のスリーピースのスーツに宇宙柄のネクタイを決めている。ジャケットを脱いで、ベスト姿なのがいちいち絵になっている。


ちょっと哄笑のひとつでもかまして差し上げたいくらい似合っているのだが、我慢せざるを得ない。


「サンドイッチも美味しい……かわいいニャルちゃんがいるとなんでも美味しいなぁ」


「それは重畳ですね」


「ニャルくん、スコーンさくさくで美味しいよ」


「うん、いただきます。ジャムこっちに下さいな」


赤いジャムとクロテッドクリームをたっぷりスコーンにのせて、かじりつく。すぐに口の中がいっぱいになる。懸命に咀嚼する。ローズティーを一口。


「これはよいスコーンです。お土産にほしいです」


「そうだね、ねぇ、3つ、いや四包みお願い」

「かしこまりました」


執事が厨房へ向かうと、すべての視線が私に注がれていた。ああ、紅茶のおかわりがもうない。


「ああ、君と食べるケーキがこんなに美味しいよ」


ヨグ先輩が、ハイライトを取り戻しつつある目で私を見つめながら青色のカップケーキを口に運ぶ。


「ニャルくん、マカロンも薔薇の味だよおいしいよ」


蓮田が、両手にマカロンを持ちながら私を見る。


信者からの視線を受け止めるのには慣れているのに、この状況は、ちょっと、どうしたものか。


先輩と同期に挟まれた私は、日本支部用の少女の姿である。


新調した赤いゴシック風のドレスは、混沌とした集会に熱狂と信仰心を上乗せする力を私にもたらしたものの、そのままヨグ先輩に拐われることになろうとは。


スーツの男性とスーツの女性とゴスロリドレスの少女。謎の組み合わせである。


謎の組み合わせではあるが、私が成人男性の姿だった場合は男性二人に女性が一人、内実は男性が三人。


昼下がりのアフタヌーンティー会場には、スーツよりレース満載のドレスが必要であろう。


一口サイズの軽食と甘味たちはこんなに甘くて、やわらかくて、パステルカラーなのだから。


薔薇のマカロンを楽しみ終わってもなお、二人からの視線は注がれ続けている。


「かわいい、おいしい、嗚呼かわいい、おいしいよぉニャルちゃん」


言葉があやしいですよ先輩、私を食べる気ではありませんか。


まぁ、先輩の回復のために一肌脱ぐのもたまにはいいでしょう。


「ヨグ先輩」


「ふわぁかわいい」


「あーん」


四角いチョコレートケーキを先輩の口に投入。


「なかなかの食べっぷりですねぇ」


先輩をたっぷり見つめてあげましょう。

どうですか美少女の私は。


人間に狂気をもたらす美はいかがです。

この紫の瞳で、貴方がケーキを咀嚼するさまを見届けて差し上げましょう。


三日月の口元に魔性の瞳で貴方を癒しましょう。


赤の女王形態程の威力は出せませんが、精一杯見つめて差し上げましょう。


「おかわり……」


あらあら、やっぱりこの程度じゃ先輩に狂気は届きませんねぇ。いいですとも。はい、あーん。


こんどはロールケーキです。


先輩、いい表情しますねぇ。とろけてますねぇ。


こんなになるほどの仕事って、何があったのでしたっけ。ええと…………忘れてしまいました。


アフタヌーンティーには忘却の魔法がかかっているようですね。


そんなことより私もロールケーキをいただきます。生クリームに桃がつまったロールケーキ、ふわふわで美味しいです。


「お待たせ致しました。お帰りの際にはスコーンのご用意できます」


やっと執事さんが帰ってきた。


「ありがとう。紅茶のおかわりをいただけますか?」


「もちろんです」


「次はミルクティーにしない?」


「いいですね」


「じゃ、アッサムでお願い」


「かしこまりました」


蓮田、いつの間に紅茶に詳しくなってるなんて。私が訊ねると、最近は喫茶店巡りに凝ってるんだと教えてくれた。


私と蓮田を拐ってきたヨグ先輩の狂気も、赤いドレスの形をした私の狂気も、紅茶の香りに溶かされて薄らいでいく。


蓮田がいてくれるから溶けきらずに済んでいる、そんな気がする。


穏やかな円卓に、ふわりとミルクティーの香りが近づいてくる。期待をこめて執事さんへ振り返った私は、少女のように笑っているのだろう。

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