76話 菜緒虎、元ネタと所縁のありそうなのもと出会う
建業城の内部調査は既に終わらせていたので、菜緒虎たちは迷うことなく目的の場所へと向かう。
もっとも、天城が結界で侵入できなかった五か所を巡るという単純なものである。
そのうち三か所は、食糧庫がふたつと井戸から汲み上げた水を貯めた貯水槽がひとつ。
置かれた食べ物や汲み上げられた水を浄化する魔法陣が張り巡らされた空間だった。
城壁内部のスラムで感染症が発生したことに気付けなかった理由でもある。
菜緒虎は、ウエストポーチから夜営などで使う魔物除けの魔法陣を描くためのペンと魔力の籠ったインクの入った瓶を取り出す。
そして手早く浄化を発動させている魔法陣の一部を書き換え、物の腐敗(発酵ともいう)を進める物へと書き換える。
気付いたときには手遅れという、地味に効く嫌がらせを行うと、残る結界のうち城の地下にある結界の方に向かう。
もう一方の結界は城の最上階にあり、偉そうな人間が利用しているというところまでは突き止めていた。
馬鹿と煙と為政者は高い所にのぼるのだ。
ぎい
菜緒虎は建業城の地下へと続く階段への扉へと手をかける。
建業城の地下は、有機物であれば体内に取り込み分解し消化するガミィキューブというモンスターが飼われている所謂ゴミ捨て場だ。
かなり臆病な性格をしており、2年間何も食べていない状態であっても生きているモノには近寄らない。
むしろ餌をくれる相手には友好的という不思議な性質のモンスターであり、ゴミ処理用として飼われていることが多い。
ちなみにこのガミィキューブ、某RPGのように涙型だったり某落ちものパズルゲームのように饅頭型だったりと、ある程度の立体形を保持するスライムの変種だと考えられている。
この世界のスライムは、粘液状で不定形生物のことを指す。
「ガミィキューブを閉じ込めるのに結界は必要ないはずだが・・・」
そう、菜緒虎が呟くようにガミィキューブはスライムとは違い粘液状でないので、ゴミの投入口をガミィキューブの身体より狭く配置すれば閉じ込めることは容易なのだ。
ガミィキューブの飼育槽を横切り、階段とは反対の場所にある天城が覗けなかった部屋の扉に手をかける。
「鍵は無し」
天城に階段に戻って見張るように指示を出し、ゆっくりと扉を押し開く。
きん
空気が金属のような音を立てる。
「ほぉ」
菜緒虎は思わずため息をつく。
白を基本とした部屋の床の中央に描かれた魔法陣。魔法陣の上、鎧櫃に腰かけて鎮座するのは真っ赤なワ国様式の鎧兜。
目立つのは、兜から生えている鎧の上半身よりも長い黄金色に輝く二本の天衝脇立。
銘を天衝脇立兜朱塗二枚胴具足。日本では井伊直政公赤備具足と呼ばれる武具だ。
悪韋がいたら、菜緒虎の名前の元ネタになった戦国武将と縁の深い戦国武将のものだと指摘されていただろう。
「武器は腰に朱塗りの鞘に収まった刀とショートソード。後ろに立てかけられたのは朱塗りの柄の長槍か」
菜緒虎はゆっくりと鎧に近づく。
ぶん
兜の眼が怪しく光る。
「宝が宝の番人とか・・・斬新だな」
「そうでもござらん」
菜緒虎の言葉を返すように鎧が立ち上がる。
「意思を持つ鎧かな」
菜緒虎がそう推理する根拠。
まず動く鎧から類推されるモンスターが、生きた鎧と魔法生物である意思を持つ鎧。あとは鎧の中身がゴーレム。
もっとも、ゴーストの天城が入れない時点でアンデットである生きた鎧が、会話ができるほど賢くないゴーレムが候補から外されるのだ。
「ほう。よくみれば刀が得物とは面白い。この飛虎音と、いざ尋常に勝負」
意思を持つ鎧の飛虎音は後ろに立てかけられた朱塗りの柄の長槍を掴んで菜緒虎と対峙した。
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