菜緒虎、建業城に潜入する
19話と20話がダブっていたので20話を別話にしました
宜しければ
大陸歴3187年月正(1月)。
年明け早々、建業城の東門に相当な数の拳大の包み紙が降った。
中身は米や小麦。稗や粟といった穀類。紙には決起や裏切りをそそのかす文から孫蚊の悪口に至るまで様々だ。
孫蚊は兵をつかい、降りそそいだこれらの紙包みを包まれた穀類ごと回収した。
飢えた一般民たちは回収行為に強く抵抗したが、所詮は一般民と兵士である。
大半のものが回収され、一般民は一気に不満を募らせていく。
何度目かの紙包みが投擲された日の真夜中。
じわり
建業城の北東。貧民街に接する壁に白い靄と黒い靄のようなものが浮かぶ。
白い靄と黒い靄は壁から抜け出ると人型になり、道に放置された下着姿の犬人の老人の遺体に近付く。
白い靄は、ゆっくりと透き通った白い髪のショートボブ。前髪で顔の右半分は隠れ気味でハの字の眉毛が困った感を漂わせている和装の美女に変化する。
白い靄の正体はゴーストの天城だ。
すっ
黒い靄が犬人の老人の遺体に重なる。
ずっ
犬人の老人の遺体が起き上がる。だが犬人のゾンビではない。
ひらひらと上空からバットが舞い降りてくる。厳密にはバットの上位種の吸血蝙蝠だ。
吸血蝙蝠は犬人の遺体に細い糸を巻き付けると上空へと羽ばたく。
犬人の遺体は、巻き付けられた糸をグイグイと引き寄せる。
糸は紐に、紐は縄に変化する。
犬人の遺体は、縄を近くの柱に括りつけるとその場に崩れ落ちる。
天城は菜緒虎に準備が完了したことを思念で送る。
やがて城壁の上に数人の人影が現れ、縄を落すとその縄を伝って降りてくる。
先頭は菜緒虎。続いて猫耳おっさんの張僚。
続くように数人の狐人、犬人、狸人も降りてくる。
降りて来た縄を何度か引っ張ると、縄は壁の向こうへと手繰り寄せられていった。
「決起は明日の夕方。捕縛されても救出は期待しないでくれ。では解散」
張僚が簡単にそう告げる。
周りにいた数人の狐人、犬人、狸人が闇夜に散った。
彼らは、隠蔽や吹聴、煽動に挑発といったスキル持ちである。
明日の夕方、一般民をけしかけて暴動を起こす予定だ。
「菜緒虎さんはどうします?」
「城に潜入してきます」
「ええっと・・・理由を聞いても?」
張僚ジト目で聞いてくる。
「建業城には、ワ国の武器や防具がそれなりに献上されてるそうじゃないか」
菜緒虎は悪い顔をして笑う。
「どうやって1日半で宝物庫を特定って、ああ、天城さんか」
張僚は、天城の方を見て小さく頷く。
「天城は結界に近寄れないので、重要そうな場所の特定には使えますが、要人暗殺には使えませんよ」
菜緒虎はゴーストに対する対処方法を教え、下手に疑われないよう、また利用しないように釘を刺した。
ありがとうございました。




