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建業城の戦い 包囲完了


大陸歴3186年凋月ちょうげつ(11月)。


「よし。放て!」


天韋の命令で、砦の上から無数の矢が降り注ぐ。

頭上に盾を構えて押し寄せていた歩兵が、胸に矢を受けてバタバタと倒れる。

石壁には、巧妙に隠されていた矢狭間(欧州ではアロースリットまたはループホールという)が出現していた。


「せ、戦略的転進!」


歩兵の後ろで馬に跨って指揮していた猫頭の猫人(ワーキャット)が叫ぶ。

孫蚊に恭順した南晩州に属する公止郡の太守厳舜(げんしゅん)の軍と武領郡の太守歩執(ほしつ)の軍が撤退を始める。

城の東と南を付け城で抑えられ、西は河で物資の陸揚げは困難を極め、建業城は兵糧攻めを受けていた。


「犬連にソウキ国から食料が届きました。米40俵(約1.2トン)にイモが20俵(約600キロ)です」


犬連から戻って来た張僚(ちょうりょう)が僧操に報告する。


「そんなにか」


「今年、南は豊作だったようです」


二人の視線が菜緒虎に集まったので、菜緒虎は僅かに頷いて肯定する。

そう。悪韋がソウキ国もたらしたのは、建造物だけではなかった。

彼の持つ岩石創成というスキルが、瘴気に侵された魔の荒地の土を浄化し、耕作地を劇的に広げたのだ。


「これはウランガラスと言って、魔の荒地の土を侵していた瘴気の原因を着色材にして作ったガラスだ」


そういって悪韋は、スモークグリーンのガラスでできた蜥蜴の頭蓋骨を近くに勝手に住み着いている住民に披露。

「ゴズィーラ10歳のときの頭蓋骨」という名前を付けてアタラカ森砦の入口に設置。

日が暮れると緑白色の光を放つこのオブジェ。住民からの評判はそこそこ良いらしい。


「それで、建業城の様子は?」


「ロック鳥からの情報では、なかなか凄惨なことになっているようです」


菜緒虎は、僧操の前にある建業城の俯瞰図、その北東にある住宅街に赤く塗った駒を置く。

そしてつぎに青く塗った駒を北門と西門の近くに置く。


「赤い駒の場所では路上に多くの死体が散見され、青い駒の場所ではちょっとした小競り合いがあったようです」


「疫病の発生と処理が出来ない状況。逃げ出そうとする住民との小競り合い・・・か」


僧操は「ふむ」と呟く。

城を囲んで僅か2カ月。城内で疫病が発生しているには理由がある。

建業城の北東にある、建業城の水源のひとつ玄武湖に馬の死骸や残飯、糞尿を沈めるというバイオハザードを行ったのである。

発案者は菜緒虎(を唆した悪韋)。

ただでさえ4か月前に起きた地震から衛生状態が悪かった建業城にあって、この行為は致命傷となった。


まず被害が出たのが、汚染水が最初に流れ込んでくる東北の貧民街。

貧民街で飲料水となった水は使えないという理由から、そのまま地下を走る下水の本流となって城を抜けて、長巣江に流れ込んでいて、上層部が汚染に気付けなかったのも被害を拡大させた。


病気に感染した貧民が配給を取りに来て、そこで兵士に罹患。

孫蚊軍の兵数は、孫蚊が挙兵した直後は一万を越えたが、いまでは六千を割りしかもその三分の一が病気で使い物にならない状態となっている。


「これが夏なら病気の蔓延も早くなったのでしょうが・・・持って年内。年明けにも決着がつくでしょうか」


早く帰りたいオーラを放ちながら菜緒虎は呟く。

リュウイチから統治を任されているクレの内政は劉美が、軍事は関翅が回しているので問題はないが、菜緒虎にとってここはあまり居心地が良くなかった。


「もし、同じことをされたら菜緒虎殿はどう対応されますか?」


張僚(ちょうりょう)が尋ねる。


「貧民を厚く保護しろとはいいませんが、定期的に貧民街を見回っていれば、今回の病気の蔓延はもっと初期の段階で阻止できたはずです」


病原の原因はいろいろあるが、伝染病の類は感染源を魔法や煮沸、アルコールによる消毒がかなりの効果的だ。

もっとも、どの方法も費用が恐ろしくかかるという問題があるし、今回は外部から常に病原菌が供給されるので意味がないのだが。


「今回は裏目に出ましたが、川、湖、井戸と水源を複数持つというのも良い方法ですよ」


菜緒虎はそういって笑ったが、僧操たちは苦笑いで返すしかなかった。

ありがとうございました。

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