菜緒虎、侍大将に進化する
「命が惜しくばぁ」
灰色の毛並みの狐人が大声で叫びながら菜緒虎に向かってお約束の啖呵を切る。
が、最後まで叫ぶことは出来なかった。
狐人は大きく白目をむき、ゆっくりとひっくり返る。
「おい、どうした」
近くにいた狐人が助け起こす。
「おい。なんだあれ」
接近してくる何かに気が付いた豚人が指さした30メートル先には死神の鎌を構える悪夢の骸骨。
「短槍で迎撃!」
掛け声とともに10本の槍が水平に突き出される。
実に盗賊らしくない動きである。
「風よレベル2」
菜緒虎は風魔法を盗賊たちの足元目掛けて放つ。
じゃっ
大量の土砂が舞い上がる。
直接の魔法攻撃は対策されていると考えたのだ。
ザン
鈍い音が響き渡り、土砂のカーテンに血飛沫が混ざる。
短槍兵の頸が4つ。大鎌の一撃で刈り取られていた。
「某は左から、餌は早いもの勝ちだ」
悪夢の骸骨は大きく頷くと、スキル恐慌Lv.10をまき散らしながら死神の鎌を再び振り回す。
得物の長さと、高い位置か振り下ろされることによって得られるエネルギー。
死の暴風が辺りに撒き散らされる。
「うおおおおお」
手斧を振り上げながら熊人が菜緒虎に襲い掛かる。
チン
鯉口の切れる音が響き、どさりど重いものが落ちる音がする。
熊人の手斧を持っていた右腕が肘の先から落ちていた。
「ぐあああ」
傷を押さえてうずくまる熊人の肩を踏み台にして菜緒虎は飛び上がる。
素早く状況を確認し、着地するとバンと地面に手を添える。
「風よわが盾となれ」
力ある言葉が発動され、菜緒虎の周りに風の壁が出来る。
周囲にいた盗賊たちが風の壁に押され、僅かに菜緒虎との間を取る。
『風魔法のレベルが7になりました』
ここ一週間ほど頭に浮かんでは消えていた攻撃スキル。旋風一閃。
行けるか?と菜緒虎は心の中の自分に問う。
彼女に侍という職業を授けてくれた師匠卜伝は言った。
基礎は刻み込んだと。つまり浮かんできた旋風一閃は侍が習得できるスキル。
(旋風一閃)
念じるのと同時に、習得したばかりのレベル7の風魔法のひとつ旋風の魔法理論が頭に流れ込んでくる。
(そういうことか)
身を屈め、刀に手をかけ、風魔法旋風を纏わせながら弧を描くように刀を抜き放つ。
菜緒虎の足元に、弧を描くように砂埃が舞う。
そして、菜緒虎に殺到してきていた10人近い盗賊全員が一斉に崩れ落ちた。
『スキル旋風一閃Lv.1を習得しました。侍の上位職、侍大将Lv.0の条件を満たしました』
『侍Lv.10を消費して侍大将Lv.1に進化します』
『スキル鼓舞Lv.0を取得しました』
『スキル魔法付与Lv.0を取得しました。スキル旋風一閃Lv.1の習得効果により魔法付与Lv.1を習得しました』
『スキル急所攻撃Lv.0を取得しました。スキル旋風一閃Lv.1の習得効果により急所攻撃Lv.1を習得しました』
『スキル縮地Lv.0を取得しました』
『スキル明鏡止水Lv.0を取得しました。スキル精神統一がLv.10です。精神統一Lv.10が明鏡止水Lv.1に進化しました』
Lv.0を取得という啓示に、菜緒虎は侍になったとき意識を失ったことを少し後悔した。
今回習得した旋風一閃。侍になったときに取得したスキルとして聞いていたはずだ。
なら、習得スキルを推測してもっと早く侍大将になれたのではないか、と。
「後悔は後々。悪夢の骸骨。少し苦労をかける」
上位職といってもレベル1である。油断はしない。
あっという間に、盗賊たちは討ち取られた。
「うむ。やはり鼓舞と縮地は表示されてないな」
戦闘が終了した菜緒虎は、ステータス画面を開いた。
今回、取得したはずのスキルが表記されていないことを確認。侍として取得しながら習得できてないスキルがありそうだとため息をついた。




