復興に一歩進み。戦争は半歩近付く
大陸歴3186年刈月(9月)。
街に流入した土砂の撤去は、コンダラゴーレムの活躍により迅速かつスムーズに完了した。
副次的にすべての道路が石板によって舗装され、排水溝も完備される。
底から数日かけて倒壊した家は取り壊され、新たに石積みの2階建ての建物が建てられる。
更に街を囲むように浅い空堀と簡単な土塁が巡らされ、次の川の決壊に備える。
すぐに畑などに冠水した水が流れ込み、普通に堀になったのだが、偶然ではない。
ここは当面の敵である孫蚊が籠る建業に近い。防衛壁は保険だ。
また、清皇での作業は、ソウキ国に白金貨で50枚(青銅貨で5億)を10年かけて払うこと。
街が1割、沛郡州が4割、魏府国が5割を負担することで話がついている。
洪水による被害の復興に関しては、菜緒虎が最初にこの街に作った建物の土地に支払ったお金の返却。
それと、ミカワヤ商会の魏府国商業ギルドへの入会の後ろ盾と支部の設立認可で話がついた。
簡単に言うと、ソウキ国の魏府国での情報収集の拠点確保。その黙認を取り付けたということだ。
清皇の街は、川の氾濫の被害を被ったが、早い時期に水が引いたお蔭でか冠水した規模に対して作物の受けた被害は、野菜や陸稲を中心に約三割程度で済んだ。
また、主食である大麦が雨の前に収穫が終わっていたのも不幸中の幸いだった。
「攻撃せよ」
菜緒虎が命令を出すのと同時に、生きた鉄像やスケルトンたちが鍬を振り下ろす。
見る間に畑の土が掘り返されている。
この動作、基本動作として組み込まれている戦闘行動の応用である。
つまり生きた鉄像やスケルトンたちは、地面を耕しているのではなく、鍬を武器に地面を攻撃しているのだ。
「凄い」
視察として同行していた漫寵が感嘆の声をあげる。
不平不満も言わず、重労働を均一の速度でこなしているのだから無理もない話ではあるが。
「菜緒虎殿。この生きた鉄像を譲っては貰えないだろうか」
漫寵のキラキラした目で語られる言葉を聞いて、張僚は苦笑いをする。
為政者にとって魅力的な労働力なのだろう。
と思うと同時に、張僚は背中に寒いものが走るのを感じる。
張僚が事前に入手していたソウキ国の情報は、スケルトンを中心としたアンデットの国である。
マッサチン国はそれを知らずに攻めて手痛い敗北を喫した。
しかし、アンデットは火や信仰系の魔法を使う僧侶。聖なる武器に弱いため戦力さえ整えれば取るに足りないと魏府王国上層部は考えている。
なので戦力が整うまでは誼を結ぶべしという結論になっていた。
だが張僚は気が付いた。ソウキ国の戦力がアンデットだけに頼ってはないということに。
土木に優れたゴーレム。種族を問わずソウキ国に救われ、庇護されている人間。
魏府王国が対ソウキ国の対策に時間を費やせば、ソウキ国も対魏府国の対策に時間が費やせるのだ。
「漫寵さま。た、大変です。僧操様の軍の先触れがたった今到着されました」
衛兵らしき男が転がるようにして菜緒虎たちの前に走ってくる。
「僧操軍、この度の大雨による洪水で後方に控えていた輜重隊に損害が発生。僧操さまはここ清皇まで司令部を下げるべく移動中とのことです」
衛兵の言葉に菜緒虎、漫寵、張僚の三人の顔が見事に異なるものになった。




