ナオとリベッチオの覚悟は
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「ふむ」
リュウイチはナオから差し出された剣が抜けないことを確認するとアルテミスに渡す。
「これは、ここより北東に海を越えたところにあるワ国で創られているという刀という武器です。抜けない原因は…もっと調べてみないと判りません。さて」
アルテミスは刀をナオに返す。
「とりあえず解決できる問題の解決からしましょう」
アルテミスはローブの袖から一枚の羊皮紙を取り出すと呪文を唱える。
ぼう、とナオとリベッチオの拘束の首輪が黒から白色に変化する。
ナオたちが必要だった食料の半分が当面必要でなくなったため契約そのものを変更する必要が出てきたのだ。
「こちらからの再提案は」
・刀を渡すなら二人の経済奴隷契約を完全破棄。
なおアルテミスによる刀の評価格が借金の額をオーバーしているためオーバー分の白金貨1枚(青銅貨で1千万枚)に相当するこの村で二人が住む一軒家2軒を提供する。
・どちらかの契約の解除し解除しない方は当初の予定通り3年の経済奴隷となる。(性奴隷の需要はないので除外)
・二人とも経済奴隷の契約をする代わりに契約期間を1年半にする。
なお経済奴隷の契約満了と同時にこの村の住民としての権利を得るという条件は維持する。
「一日猶予を差し上げましょう」
アルテミスからの提案を聞きナオもリペッチオも小さく頷く。
翌朝、再び4人はリュウイチの執務室に集まっていた。
「契約を認めるとも?」
アルテミスの冷え冷えとした声が響く。
一日の猶予を経てナオとリペッチオが出した答えは、二人で一年半の奴隷契約。
だがその前に村を襲った人間への復讐を許可してもらうことだった。
「だいたい貴女たちの復讐は失敗した時に被害を被るのは私たちなのですよ?」
「質として族宝の刀を預けます」
すかさずナオが言葉を返す。
刀にアルテミスが白金貨1枚と大金貨6枚(青銅貨1600万枚)の代金を提示しているので質としては問題はないということだ。
「刀を質草に出すというのなら、こちらも幾ばくかの支援を出した方が良いかもしれませんね」
アルテミスは上座のリュウイチに視線を向ける。
「そうだね。いいと思う」
リュウイチは予め打ち合わせていたかのようにあっさりと承諾する。
「これを預けましょう」
アルテミスは左の袖口に右手を入れると小さなケースを取り出しナオに渡す。
小さなケースの中身は銀色に輝く小さな二つの指輪だった。
「真夜中の指輪というアイテムです。装備して念じてください」
言われるままナオは指輪を嵌めて念じる。
するとボウっと指輪が輝きナオの周りに黒い靄のようなものが一体。骸骨狼が二体現れる。
「黒いのはミスト。使役者の半径五十メートル以内。風が通る場所ならどこでも入っていけるが戦力にはならないから目として使うといい。骸骨狼は護衛だが、いざというときは使い捨てること」
アルテミスの言葉にナオの目は点になる。
「言い方は悪いけどミストも骸骨狼も替えが利きますからね。あ、彼らを指輪に戻すときはそう念じてください」
ナオが念じるとミストと骸骨狼は姿を消す。
「拘束の首輪はそのままに、他人の奴隷なら注目度も下がるでしょう」
この世界で奴隷は財産なので略奪のための対策がしっかりとされている。
捕虜となる可能性のある戦闘奴隷以外は持ち主の同意がなければ持ち主の書き換えや奴隷契約の解除には莫大な金が必要になる。
金銭としての金ではない。触媒としての金が必要になる。
またモノによっては即死級の呪いがかかることがあるのだ。
「まだ売られていない奴隷がいたらこちらで処置しましょう。ああ、移送するための労力が必要ですね」
アルテミスは人差し指をクルクルと回す。
「街の郊外に手を回しましょう」
ここまでくるとアルテミスによってすべてお膳立てされていることにナオもリペッチオも気付いた。