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チュウカナ大陸史書 偽典 菜緒虎伝  作者: 那田野狐
港町清皇での復興活動の章
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菜緒虎、港町清皇に上陸する


菜緒虎たちは今朝がた完成した岸壁から港に入る。

そして、港の倉庫街に入って、最初に目に入った地震で倒壊した土塀の倉庫の前に立つ。


張僚(ちょうりょう)殿。町長に繋ぎをお願いします。我々はここに難民救済のための基地を設営します」

菜緒虎の指示に張僚は黙って頭を下げて走り出す。


環寧(かんねい)隊は街中を警邏し、被災者の確認を」

「了解しました」

環寧は自分の部下を半分に分けると、一方を公蓋(こうがい)に預け東へ移動を開始する。公蓋は西だ。


「コンダラゴーレム、生きた鉄像(リビングスタチュー)は倒壊した倉庫を材料にして備蓄庫建設しろ」

コンダラゴーレムが目の前の倒壊した倉庫の土塀を材料にして、岩石創成のスキル行使。ゆっくりと体内に取り込む。

出てきた骨組みの竹材や柱や床の木材は生きた鉄像(リビングスタチュー)が手際よく回収していく。


半日で岸壁を作り上げたコンダラゴーレムにとって、土塀の倉庫から石積みの建物を創り出すことは難しいものではない。

あっという間に2階建ての武骨な建物が立つ。


「まあ、外見だけなんだけどね」

菜緒虎は、扉のない玄関入口から中に入る。

なかでは生きた鉄像(リビングスタチュー)が、肩車で丈を稼いで二階の床となる部分に回収した柱を渡している最中だった。


「2階への階段の出入口を忘れるなよ」

念の為の指示を出し菜緒虎は外に出る。


牛銅(ぎゅうどう)とイヌガミは焚き出しの準備を」

建物の外に控えていた人の顔に牛の角と牛の耳。白目の少ない大きくつぶらな瞳の牝牛人(ワーベル)と呼ばれる女性獣人の牛銅。

それと灰色狼の頭に人の体をもつ男の狼人(ワーウルフ)イヌガミに声を掛ける。


「おう」

イヌガミは整然と並んでいた石で大きめの竈を作り始める。


「任されて」

牛銅は自分のアイテムボックスから大鍋や雑穀の入った俵を取り出し調理の準備を始めた。


「菜緒虎殿。町長をお連れしました」

意外と早く張僚が灰色毛の熊人(ワーベア)を伴って帰ってくる。

熊人の後ろには、皮鎧に短槍といういかにも警護兵といった三人の蜥蜴人(リザードマン)も同行している。


「ここ清皇を任されている漫寵(まんちょう)と申します。見たことのない帆船の報告を受け、お待ちしておりました」

漫寵は、頭を下げながら自身がここに乗り込んできた理由の種明かしをする。


「ソウキ国の菜緒虎と申します」

菜緒虎もまた頭を下げる。


「我々が船をつけた岸壁、この建物と同じ建物ならすぐにできます。あとは若干の食糧援助と死者の埋葬でしょうか」

菜緒虎は指を折りながら、出来ること漫寵に告げる。


「ただし、それらの労働に従事するのは主にスケルトンです。忌避される方は排除します」

菜緒虎は断言する。


「そうですな・・・使役されているという目印の着用をお願いできますかな?あと、ゾンビは勘弁してください」

「判りました。対処しましょう」

菜緒虎と漫寵は合意の証として握手をする。


今回の菜緒虎のもうひとつの使命。

それは、菜緒虎が仕えるリュウイチ・ソウキがアンデットを使役するスキルを所有していることを小出しにでも周囲に知らしめることだ。


ソウキ国が、アタラカ森砦でアンデットを兵士や単純労働者として使役していることは事実として周辺地域に少しずつ広がりつつある。

アタラカ森砦の外に集落を造り、ソウキ国に緩く庇護されている人間たちはそのことに忌避感を感じてはいない。

むしろリュウイチの支配下にあるゾンビやスケルトンは、素材が死体のゴーレムだと(ルビ)く者さえいる。


しかし、大半の人間には、アンデットを使役することは邪悪だと思われる。

アタラカ森砦の周辺には、砦に攻めてきたノール軍の兵士を基にした野良ゾンビや野良スケルトンが徘徊し、見た目もかなりよろしくない。

なら、ソウキ国が邪悪な国という風評が蔓延る前に、それなりの善行をして少しでもソウキ国の印象を良くするという目的があった。

「やらないよりはマシだと思う」とは、同僚でアタラカ森砦の守備隊長であるジャイアントの悪韋(あくい)の言葉である。


「漫寵殿。1時間後に、ここで粥の配給を始めますので住民への告知をお願いがあります。それと、ここの土地を言い値で買い取りますので手続きを」

「判りました」

漫寵は小さく頭を下げると後ろに控えていた蜥蜴人(リザードマン)に指示を出す。


「うん?」

菜緒虎は、不意に何かが触れるのを感じて空を見上げる。

いつの間にか空は灰色の雲に覆われていた。


「イヌガミ、牛銅。竈の上に天幕の設営準備。急げよ」

徐々に雨足を強める様子に、菜緒虎は悪韋(どうりょう)のある予言(アドバイス)を思い出していた。


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