ナオとリベッチオが奴隷になったのでエルフの村は救われる…
森の中を首に奴隷の証である拘束の首輪と呼ばれる黒い首輪を装着したナオとリペッチオが歩いている。
その後ろを6体のスケルトンが大きな俵を担いで歩いていた。
俵の中身は60キロの小麦と大豆がそれぞれ二俵。60キロの米と50キロのジャガイモが一俵である。(ちなみに一俵は人ひとりが一年に食べるのに必要最低な穀物の量だとされている。)
額にして大金貨3枚(流通している最小通貨である青銅貨300万枚分)。
交渉の結果、ナオが経済奴隷として3年間の労働の対価として背負った借金の額でもある。
この六俵で、春先の耕作に使うのに十分な種を確保した上で彼女たちエルフの村に残っている住人二十余人がかなり切り詰めることにはなるが、三~四か月は凌げる計算である。
また、三か月後には今回と同じだけの食料(リペッチオが身売りした分)が提供されることになっていて、必要ならそれ以降も定期的に供給されることにもなっている。
もっとも、追加されるときはナオとリベッチオが奴隷として働く期間が延長されることになるのだが…
カラン
辛うじて軒先に引っかかっていた屋根の一部が乾いた音たてて落ちる。
ナオとリベッチオは目の前の自分たちの村が破壊されているという光景に愕然としていた。
建物一部が焼け焦げていて、村を襲ったのが広範囲に被害をもたらすモンスターではなく火を使う人間であることが推測できる。
「一体何が・・・」
ナオは呟くが、自分たちと同じ時期にこの村を出て村に他所の人間を招き入れる可能性があることに即座に思い当る。
「まさか」
リベッチオも同じ可能性に思い至ったようだ。
「と、とにかく手がかりを探そう」
「うん」
それから三十分ほど二人は辺りを探索するが、あるのは破壊と暴力と略奪の痕跡。
そして物言わなくなったの剣や矢による傷が残る十数人の同胞の骸だった。
それで確信ができた。自分たちが身を売って食料を確保し村に運んできたように、街へ身売りに行ったメンバーも食料を確保して村に帰ってきたのだろう。
同時に野盗の一団も引き連れて…
泣きながら死体を一か所に集めアンデットにならないよう清めてから埋葬。
食料は仲間の幾人かが逃げ延びたことを期待して長老の家の地下倉庫に全てを運び込んで封印する。
そしてそのとき一枚の羊皮紙を見つける。
一見すると倉庫に収められている物資の目録のようであったが、長老に何かあったときに時間差で発動する魔法が掛けてあることが書かれていたので取り合えず目を通す。
「確かこの辺に」
ナオは羊皮紙を元にいつも長老が座っていた場所を丹念に探る。
そして、いつも長老が背中を預けていた壁の柱に小さな突起があるのを見つける。
ポチリと突起を押すと、かちりと音が響き壁がスライドした。
「これは」
壁から出てきたのは全長が百二十二センチの細身の鞘に収まった剣と弓だった。
「抜けないな…」
ナオは抜いてみようと剣に手をかけたがびくともしない。
「私たちでもどうにかなるものを秘匿するとは思えない。いずれにせよ一度ソウキさまに相談しよう」
リベッチオに指摘されナオは小さく息を吐く。
本来なら仲間を助けに行動を開始したいところだったが、いまはナオもリベッチオも経済奴隷の身である。
予定にない行動をすれば拘束の首輪の力によって最悪死ぬこともあるのだ。
「判った。戻ろう」
ナオたちは急いで故郷を後にした。