菜緒虎、港湾都市ジャンを出る
翌朝、契約によって奴隷となった牛銅たちは、彼らが知っている情報をすべてを吐き…提供し、経済奴隷としてソロモンへと旅立って行った。
牛銅とイヌガミが背負った借金は、蘇生の薬瓶と上位精神回復薬の瓶を等価で交換したうえで、最上位回復薬の瓶の代金として白金貨4枚(青銅貨4000万枚)。
他の4人は、契約不履行を理由にいた低いレベルでの犯罪奴隷としてソロモンで1か月の労働刑ののち、再び秘密厳守の契約で縛って放免である。
ソロモン到着後、牛銅とイヌガミはそのままソウキ領に護送される手筈となっているのだが、そのことを本人たちはまだ知らない。
「さて…」
菜緒虎は、牛銅から召し上げた魏府国謹製の魔法道具である自動書記地図を眺めていた。
港湾都市ジャンから南に魔の荒野を目指して道が伸び、魔の荒野では途絶。
魔の荒野の最南端からソウキ領まで再び真っすぐ道の伸びた地図である。
あの土地が、天体観測の技術でもない限り、進む方角などが阻害されている可能性を示している。
そして、ソウキ領の地図は、建物や堀。土塁、柵から畑に至っては作物の種類まで解るように書かれていた。
菜緒虎は、魔法道具により、ソウキ領の情報が漏れた可能性があることをアルテミスにメッセージにて奏上する。
ピローン
『海岸を通ってソウキ領に帰還せよ。ソウキ領より菜緒虎隊が出撃しているので、速やかに合流するように』
少しして、アルテミスからの指示メールが届く。
アルテミスは、菜緒虎と牛銅たちの情報から、魏府王国がさほど時間を置かずソウキ領に海側から攻めてくると判断したようだ。
菜緒虎は早速宿を引き払うと、冒険者、商業、鍛冶の三ギルドが入る建物に向かう。
「菜緒虎というものだがドアホーさんは居るかな」
「はい少々お待ちください」
鍛冶ギルドの受付にいた、赤毛のハーフリング…大人でも身長が1メートルに満たない小人族…の女性がパタパタと部屋の奥へと消える。
しばらくすると奥から、刈り上げ黒髪に黒瞳。板海苔のような眉毛の130?ほどの背丈の髭もじゃのドワーフのドアホーが目をショボショボさせながら出てくる。
「見積もりが出るまで滞在するつもりだったけど急用ができたの。完成するか見積もりで大金貨1枚超えるようならソロモンのウチの商会宛に手紙を出して」
菜緒虎は、白い封筒をドアホーに差し出し、続けてテーブルの上に金貨を2枚置くとドアホーは黙って受け取り、隣にいたハーフリングに視線で合図を送る。
ハーフリングは、引き出しから三枚一組の羊皮紙を取り出し何やら書き込むと、右手の親指を置いて「契約」と呟く。
淡い光が浮かび、ハーフリングはドアホーにペンと羊皮紙を渡す。
ドアホーも羊皮紙に何やら書き込むと、右手の親指を置いて「契約」と呟く。
淡い光が浮かび、ドアホーはペンと羊皮紙を菜緒虎に渡す。
羊皮紙は、契約確認と領収書で、見届け人であるハーフリングの名前であろうジュラーという署名と、ドアホーの名前が拇印と共に記されていた。
菜緒虎は、二人の名前の下に自分の名前を漢字で書き拇印を押して「契約」と呟きジュラーに渡す。
「契約が破棄された場合、前金はギルドに返金されます」
そういってジュラーは羊皮紙の一枚をドアホーに一枚を菜緒虎に渡す。
一枚はギルドの閻魔帳に閉じられることになる。
なお、ドアホーか菜緒虎のどちらかが破棄すれは見積もり契約は破棄されることになる。
「期待してる」
「はん。裏切らねえよ」
ひらひらと手を振ってドアホーは部屋の奥へと引っ込む。
「よろしくね」
菜緒虎もまた、ひらひらと手を振って部屋を出た。
そのあと菜緒虎は、商業ギルドで1本マストの六メートル級の小型帆船を青ランク商人の信用で分割購入する手配と、冒険者ギルドでソロモンのミカワヤ商会にドアホーの手紙を運ぶ仕事を依頼する。
半日で、一通り小型帆船の基本の操船技術を頭に詰め込んだ菜緒虎は、夕暮れを待って船で港湾都市ジャンを出航するのであった。
ありがとうございました。




