敵の名は・・・火候
話は少し遡る。
冒険者ギルドで素材を売り払った牛銅たちは予定通りうみどり亭に宿を取った。
「へっ。早かったな」
宿として取った6人部屋に入ったイヌガミは、テーブルの上に置いてある臨時パーティのお誘いカードを手に取ってカードにある当面の仕事を見る。
予定には、街外れにある西教の教会からの警邏依頼。
牛銅たちの依頼者は街外れにある西教の教会に夜に来いという伝言だ。
「夜中に街外れまで来いってよ。どうする牛銅」
「どうするもなにも行かないと報酬貰えないじゃん」
牛銅はピクピクと牝牛人という種族特有の牛耳を動かしながら苦笑いする。
「え?牛銅は、南蛮のガイコツの契約書が怖くないのか?」
「わたしは効力のあるかどうか怪しい契約書より、魏府王国から追放される方が怖い。それに私らが情報をもたらしたら」
「魏府軍は略奪のために遠征を行うか」
イヌガミはふむと下あごをさする。
ここ2年続きの旱魃、蝗害、飢饉で、大陸北部の政情は不安定だ。
魏府王国の西の隣国であるマッサチン国に攻め込むには兵力が無く、東のワ国に海を越えて攻め込むには兵糧が足りない。
牛銅たちのような冒険者を使って、魔の荒野の南側に何かあるのではと期待して派遣させ、望みの物を見つけたのだ。
証拠隠滅も兼ねて、凄惨な略奪劇が起きるのは間違いない。
そのとき、契約書を作ったガイコツが討たれれば、他言無用の契約は無効になるだろう。
というか、契約を破っても奴隷になるという罰とか執行出来ないよね?とイヌガミは良いように解釈し始めていた。
(実際にはミストを通じて牛銅たちが契約を破る気満々なのはダダ漏れで契約不履行による罰の執行者である奈緒虎は目と鼻の先に滞在いるのだが)
その日の真夜中。牛銅とイヌガミは、残りの4人は待機させてうみどり亭を出る。
尾行されている可能性を考慮して念のため、ワザと遠回りしたり戻ったりして目的の街外れにある木を十字に組んだ小さなシンボルを掲げる小さな建物の前に立つ。
イヌガミはコンコンと扉を2回ノック。
続けて牛銅が「風」と叫ぶ。
「谷」扉の向こうから声が聞こえてくる。
「何度目だ」と、すかさずイヌガミが答える。
「入れ」
ぎいと扉が開き、牛銅とイヌガミを建物の中に招き入れる。
建物の中は、入り口正面奥に人が十字に組んだ木の柱に架けられているという西教の宗教シンボルと説教のため一段高くなっている台。
対面するように設置された、六脚の長椅子というテンプレのような宗教施設だった。
「成果を…」
一段高くなっている台に立っていた黒いマントに身を包む隻眼の虎人が口を開く。
牛銅は、「アイテムボックス」と唱えて空間から、米六俵と大豆二俵と1枚の羊皮紙を取り出す。
すると影から黒装束に身を包んだ狐人が姿を現し、米俵に管のようなモノを突き刺して抜く。
「火候様。穀物の品質はかなり良質です。この品質をこの数売ってくれるというのは正直信じられません」
狐人は、隻眼の虎人火候に向かって管を差し出す。
「火候様。あの羊皮紙から魔力を感じます」
更にひとり、影から黒装束に身を包んだ狸人が姿を現し火候に耳打ちする。
「入手手段が流出しないよう、契約書で縛られたか。無駄なことをショジョウ」
火候は狸人のショジョウを見る。
「御意」
ショジョウは懐から黒檀の数珠を取り出し「生麦大豆二升五合!喝!!」と叫ぶ。
ぎゃあぁあああ!
牛銅とイヌガミの足元の影から絶叫が響き渡る。
「ちっ。お前らつけられたな」
火候はマントを跳ね上げ、腰に吊っていた青龍刀を引き抜いた。
ありがとうございました。




