悪韋、魔の荒野に向かう
19話と20話がダブっていたので急遽でっち上げました
菜緒虎が魏府王国の冒険者を追って魔の荒野に出発したその日、悪韋もまた魔の荒野に来ていた。
耕作地を拡大するなら、遠からずこの魔の荒野も開拓する必要があると考えたからだ。
「ふむ」
悪韋は足元の土塊を指で潰す。
土塊はサラサラと砂の粒となって空中に飛散する。
魔の荒野と普通の平野を区別するのは簡単だ。
眼前のように、線を引いたかのように地面と植生が変わる。
「鑑定」
比較大きな土塊を手に取り、鑑定スキルを発動させる。
魔の荒野の土塊。
植物の育成を阻害し、動物に異変をもたらす瘴気を放つ塊を含む土。
「これは、あれかね?」
悪韋は、転移する前にいた世界の知識から、魔の荒野が放射線を放つ物質によって広域汚染されているのではないかと予想する。
恐らく、魔法の発動触媒に濃縮ウランかプルトニウムを使ったのだろう。
自分のユニークスキルかそれに類する魔法を使えば、濃縮ウランとかを作ることは難しくない。
濃縮ウランを一気に作ったことで臨界を越えて核爆発といったところか・・・
ただ、ウランやプルトニウムなどの核分裂で生成されるストロンチウム90や135、セシウム137といった放射性物質の半減期は約30年
とっくに別の核種に変化しているハズである。
ざっくりと地面に手を差し込み「岩石創成」とスキルを発動させる。
悪韋の手のひらに、岩石と黄色の粉が生成される。
「鑑定・・・」
イエローケーキ
植物の育成を阻害し、動物に異変をもたらす瘴気を放つ塊。
「って核分裂生成物ではないだと・・・」
育成された黄色の粉を鑑定した悪韋は、眉をひそめる。
イエローケーキは、ウラン鉱石を破砕機でパルプ状に粉砕し、濃酸、アルカリまたは過酸化物溶液で処理。
乾燥、濾過した後に残ったものの総称で、原子炉用のウラン燃料を作るのに用いられる物質だ。
ただ、悪韋のいた世界のイエローケーキは放射性は非常に低く放射線を放出する速度が非常に遅い。
しかしこの世界のイエローケーキは、少なくとも4000年近く経っても毒・・・放射性物質を放っている。
魔法が暴走した際に、イエローケーキに何らかの細工をしたのかもしれない。
「菜緒虎殿に、魔の荒野の砂塵をあまり吸い込まないよう、また半日に一度は服についた砂を払うよう進言した方がいいですね」
とりあえずステータス画面を呼び出し、アルテミスに理由を添え、菜緒虎に進言するようにメールを送る。
真夜中の指輪には、指輪を装備した人間同士の手紙交換機能がある。
今は、リュウイチ←→アルテミス←→悪韋もしくはリュウイチ←→アルテミス←→菜緒虎とアルテミスをハブにしての通信しかできないのが目下改良の課題だ。
『すぐに対応する』
という返事がアルテミスから返って来たのはそれから10分後のことである。
緊急を要する事態に一応の手を打った悪韋は、アイテムボックスから厚めの布を取り出すと口に装着してマスクとし、皮の手袋を装着、シャベルを取り出し魔の荒野の土を掘り始める。
「ふむふむ。雨で地中にも浸食しているかと思いましたが、その心配は無さそうですね・・・」
何か所か地面を掘り返し、そのどの地点でも、同じ深度で採れた土塊の鑑定結果が変わらないことを確認した悪韋は、最近地に入れたスキルを発動させる。
「スキル。コンダラゴーレム作成」
悪韋が呟くのと同時に、悪韋の足元の地面が盛り上がり、土人形・・・ゴーレムが3体ほど育成される。
「岩石創成で深さ2メートルまで掘り下げろ。岩石とイエローケーキは分離。イエローケーキは1キロごとに排出」
悪韋の命令を聞いたコンダラゴーレムは、悪意に小さく敬礼すると土を掘り返し始めた。
ありがとうございました。




