秋のハレの日、収穫を悦ぶ
大陸歴3183年神居月(10月)。
トロールの悪韋がリュウイチの元で働くようになって9か月。
悪韋が来たことでナオの村のエルフは全員、晴れて経済奴隷の身分から解放される。
そして、全員がそのまま経済奴隷のときの仕事を続ける形でソウキ領に庇護されていた。
ちなみに暦は
月正(1月)
木目月(2月)
花月(3月)
苗月(4月)
翠月(5月)
長雨月(6月)
含月(7月)
張月(8月)
刈月(9月)
神居月(10月)
凋月(11月)
月後(12月)
となっている。
いま村では少し遅めの米の収穫が行われている。晩夏から初秋にかけての長雨が影響した結果だ。
そのため、この年もいろいろと対策が出来ていたソウキ領以外では飛蝗の食害と秋の長雨により大凶作だった。
今回は魏府王国北東部からニーダ半島にかけての飢饉が特に酷くニーダ半島にあるニーダ族国では住民による反乱が発生。
隣国である魏府王国からの援軍で事なきを得たが数百人が死に千人近くのニーダ人がニーダ半島から逃散したという。
後日、帰還可能なニーダ人はすべてニーダ半島に追い返されたらしい。
さて悪韋が村に変わったことがある。
村の北側に壁をつくるハズだったのだが、悪韋が保有していた土木技術と土を固めて1メートル近い岩に生成できるという特殊能力により石垣で護岸された村を囲う水堀となっていた。
水堀は農耕地のための灌漑用水路と淡水魚の飼育場も兼ねている。
いま水堀で飼育されている淡水魚はソウギョ。体長が2メートルに達する大型魚だが草魚の名が示すように草食性で食用の養殖魚として有望である。
「おおい。ナオ、トラ?」
籠いっぱいの果物を三体のスケルトンと共に抱えていたリベッチオは石垣の上に向かって声をかける。
「変なところで区切らない。菜緒虎だ。もっとも今晩の収穫祭で正式に下賜されるまではナオだけどさ」
ナオは、鍬をつっかえ棒にし首にかかった布で顔の汗を拭いながら笑う。
そう、ナオはソウキ領へと帰順するに辺り、心機一転も兼ね改名することをアルテミスに願い出ていた。
色々と吟味を重ねた結果、人生を変えたナオの村の宝刀である刀と悪韋にあやかり、悪韋の国の文字を使い菜緒虎を名乗ることにしたのだ。
悪韋が挙げてくれた井伊直虎という女の武人の名前にあやかった、というのもある。
「畑の耕作の進捗はどう?」
「うん。順調」
いまナオがいるのは、将来は物見櫓が建設される予定の高台だ。
土台は出来ているが、労働力と材料の確保ができていないため建築予定表では数年単位で空き地となる予定なのでナオが借り受けて畑を耕していた。
作物はジャガイモを予定している。
「そっちは…聞くまでもないか。村の果樹園は今年は豊作っぽいね」
「うん。それと、冬には悪韋殿の力を借りてわたしたちの分の樹木を南の空き地に移すよ」
「あ、目途が立ったんだ。よろしく」
ナオはひらひらと手を振る。
リベッチオのいう樹木とは、恵みの樹と呼ばれるエルフが生まれると共に植えられる果樹のことである。
恵みの樹は、春と秋に梨に似た果実を付ける。エルフは、生涯に渡ってこの樹から恩恵と受けると言われている。
魔法を生業にする場合は杖を、弓を生業にする場合は弓や矢を、自分の樹で作るのだ。
なのでナオもリベッチオも生まれた村に戻らないと決めたとき、この樹と別れることには心残りがあった。
それが、悪韋という生きた重機と知り会ったことで、この度の恵みの樹の村への移植となったのだ。
「恵みの樹…わた、某の樹の実は果物酒にするかなぁ」
自称をワ国らしく言い直しいまから皮算用を弾くナオであった。
ありがとうございました。




