ミストが活躍して進化する。そして事件は収まる
「痛っ、何しやがるんだこの野郎」
反射的に児痴は噛みついた男の顔を蹴り上げる。
ごしゃ
児痴の右足のつま先がキレイに男の顔面に叩き込まれ、鈍い音と共に男の顔がぐしゃぐしゃにつぶれた。
「おい児痴。ゾンビに噛まれたら洒落にならんぞ」
慌ててミカワヤは商品を陳列している部屋に駆け込む。
そして商品のなかにあった聖水と包帯を手にもって戻ってくる。
もしゾンビに噛まれたらなるべく早く傷口を聖水で清めること。
ゾンビは伝染するのだ。もっとも噛んだのはゾンビではないのだが…
「すんません。本当にすんません」
傷口に聖水をかけられた児痴が深々と頭を下げる。
「いや、ゾンビが沸いたのに迂闊に片づけさせたおれのミスだ。それにお前の魔羅にはまだまだ仕事をして貰わんとな」
慣れた手つきで包帯を巻くとミカワヤは一息つく。
じわ
動かなくなった男の身体から黒い靄が沸き立つ。
「な、なんだ?」
ミカワヤが気を逸らした瞬間、児痴の太い腕がミカワヤの首に巻き付く。
「うぎゅ」
ミカワヤの口から歪な空気の漏れる音がする。
「ざ、んね、ん。ワタシ、ゾンビじゃないの…」
児痴の口から女の声が漏れ出る。
ジタバタ手足を動かしていたミカワヤではあったが、やがて手足を動かさなくなった。
ごっ
児痴の口から黒い靄が湧き出てくる。
黒い靄はうごうごと動きながら人の形へと収束して…光る。
<<ミストのレベルが上がりゴーストに進化しました>>
ゲームならファンファーレとともにそう表示される現象が起きていた。
「さて…アルテミス様。聞こえますか」
ゴーストは上司であるスケルトン賢者のアルテミスに思念を飛ばす。
『もしかしてナオに付けていたミストですか?驚きました。進化したのですか』
「はい。敵の死体を乗っ取り、敵を倒しました」
『ほお、そんなことが…なるほど、憑依したわけですね。その辺は帰ってきたら改めて報告をお願いします。それと何の用でしょうか?』
アルテミスが思い出したように訪ねる。
そこでゴーストはナオとリベッチオが違法奴隷商に捕まったこと、ナオが殺した下っ端に憑依し奴隷商とその部下を倒したこと、
また潜入した館で奴隷の首輪は装着されていないが奴隷であろうエルフ男1人女エルフ2人と女の猫人の合計4人いることを報告する。
『なるほどなるほどそれはお手柄ですね。しかしあのエルフ達は…まあこれからバンバンと鍛えればいいだけの話ですが』
アルテミスはナオ達にとってはあまり良い事が起こらなそうな口調でつぶやく。
「これからどうしましょうか」
『そうですね…ゴーストでも死体は操れますか?できるのですね。では』
アルテミスはあれこれとゴーストに指示をだす。
やがて夜が明けて近隣からの通報で警備隊が駆けつけたが、ナオとリベッチオが解放されたのは日も暮れた夕方だった。
事件の公式的な見解はゴーストを通じてアルテミスが指示した通り以下のようになった。
・事件の発端は、ミカワヤの組織がナオ達の村を襲いエルフ達を攫った。
・たまたま村を離れていたナオとリベッチオが村に戻って事態を把握。
・調査のために必要な金を得るためある人の経済奴隷となってソロモンにやって来た。
・事件を嗅ぎまわっていたところミカワヤ達に騙され捕まった。
・一度にエルフ5人を奴隷にすることで欲に目の眩んだミカワヤ達が仲間割れを起こす。
・拘束されていたので解らないがミカワヤ達は相打ちして死亡。
この見解を基にアルテミスは、死亡したとはいえ、不法な奴隷狩りを行いあまつさえ他人の奴隷までも不当に拘束したミカワヤ。そのミカワヤのギルド活動を承認していたソロモンの商業ギルド。
このふたつの組織に対し相応の賠償を請求することを表明した。
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